小説『真剣で源氏に恋しなさい!S』
作者:maruhoge()

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―――九鬼工場上空―――


「……なぁ兄貴」


「……どうした・の?」



こっくりこっくりと船を漕ぐ謙信に少年―――那須与一が喋りかける。



「なんで俺までこんな茶番を見に来なきゃいけないんだ」


「だって、弁慶か・ら・逃げ・る手段・は・これ・しかない・よ?」


「俺が何をしたって言うんだ」


「訓練・を・サボった・から・じゃないか・な?」




九鬼極東本部を出る寸前、一度部屋に上着を取りに戻った義経、弁慶、謙信の三人。義経が部屋に入って数秒後、隣の部屋から与一が出てきたのが全ての始まりだった。訓練をサボった与一を見た弁慶は即座に与一を捕獲、目にも止まらぬ速さで与一にアイアンクローを決めた。そこから流れるように技を決めにかかる弁慶とそれを決められていく与一。最初は面白がって見ていた謙信だが、与一の顔色が青くなってきたのを見て、今回の弁慶は相当怒っていると察した。そこで謙信が提案したのが、


『与一も一緒に見に行こう』


と言うものだった。


最初は渋っていた与一だが、隣で指をボキボキと鳴らして良い笑顔をしている弁慶を見て、このままじゃ半殺しじゃすまないと察した与一は脱兎の如くヘリへと駆け出していった。



そして今現在に至る。




「これ・に懲り・たら・訓練は・サボらな・い・ことだ・ね」


「はん、俺は何にも縛られない。俺を縛れるものなど有りはしない」



『本当に懲りないなぁ』と内心思いつつ、義経の方へと目を向ける。


「義経、何か・面白・いことでも・あった・の?」



只今は東西交流戦、一年生の部。戦況はやや天神館が押されているといったところ。勢いは川神学園にある。その士気高揚の主な要因は―――


「謙信君、あれを見てくれ」


義経に促され下を見やると、一人の少女が獅子奮迅の働きをしていた。



「……あの子、強い・ね」


「うん、実力がこの中では群を抜いてる。義経とほぼ同格、と義経は評価する」



義経の評価は正しいと謙信は思った。謙信をしてもあの少女は強いと思えるほどだ。速さ、技術、力、全てにおいて高水準の実力。今だ技術の熟練度の差で義経に分が有る様だが、その差もあっという間に詰めてくるだろう。




「でも、一人・で・勝て・る戦は・無い・よ」


「しかし、あの子を倒せそうな実力者は天神館にはいなさそうだが……」


「倒せ・なけれ・ば、倒さな・きゃ・良いんだ・よ」



謙信がそう言った瞬間、天神館側から鬨の声が上がった。



「……兄貴の言うとおりになっちまったな」


「???どういうことだ? 義経は分からないぞ!?」


「簡単だ・よ。数・の壁で・あの子・を・足止めし・て、別働隊で・本隊を叩い・たんだ・よ。川神側・は、あの子・の活躍で・気を抜いてた・し、大将・が・前進しすぎた・の・が敗因だ・ね」


鬨の声が上がり始めたのは両チームの激突した場所から少し天神館側に食い込んだ場所。ということはそこで勝敗が決まったと言う事だ。義経が見ていた少女は、大将から北に300メートル程離れた場所だった。



「少数精鋭で・大将の・横っ腹・を突い・た天神館の方・が・上手だったって・ことだ・よ」


「……なるほど。これで義経はまた一つ学んだぞ!」


「兄貴はこういう戦いの方が似合いそうだな」


「そうだ・ね。僕・も、一対一よ・り、合戦じみ・た・もののほう・が好きだ・よ。一対一じゃ・番狂わ・せが・起こりにく・いし・ね。それ・じゃ・面白・くないじゃな・い」


「義経は一対一の方が好きだ」


「俺はこんな茶番は嫌いだ。これに乗じて組織の奴らが襲ってこないとも限らないしな。そうなったら俺の力で周りを巻き込んじまう」


「二人は・ぶれない・ね」


楽しそうに笑みを浮かべる義経と、ニヒルな笑みを浮かべる与一。そんな二人を見ながら謙信は柔和な笑みを浮かべる。



一年生の部が終わり、続いて三年生の部が始まった。が、結果は呆気ないものだった。


声高々に「天・神・合・体!!」と合体した天神館三年生。圧倒的な大きさで優位に立つつもりだったのだろうが相手が悪かった。謙信も義経も与一も、まだ名前しか聞いた事がないが、一目で分かった。


巨大生物の目の前に立つ女生徒。長い黒髪を揺らしながら、まるで玩具を与えられた子供のように嬉々としながら放った光線が、巨大生物を貫いた。



『あれが川神の武神、川神百代』



天神館側はこれが最終兵器だったのだろう。無敵と思われた巨大生物が脆くも崩れさった瞬間、士気が異常なまでに下がった。後は残党狩りとばかりの掃討戦。弓隊の一斉斉射で敵を討ち、突撃の勢いそのままに敵を引き裂いて行く川神学園生徒。


勝敗は決した。

川神学園の圧勝だった。



「……凄い」


義経が小さく呟く。視線は川神百代に釘付けだった。


「……ありゃ絶対に戦いたくねぇな」


流石の与一も川神百代の戦闘力を間近で見て開いた口が塞がらない様子だった。が、一人だけ川神百代に対する反応が全く違った。



「……詰ま・らない・ね」



謙信だった。

-4-
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