「詰まらない?」
義経が不思議そうな表情を浮かべて謙信に聞き返す。
「う・ん。川神百代・と・戦って・も、得る物・は・あま・り無いだろう・ね」
「兄貴なら喜びそうな相手だと思ったが………」
「得る物・が・あれ・ば・嬉し・いけど、川神百代から・は得ら・れない・よ、きっと。……川神院・の総代、川神鉄心なら・色々・学ぶ・物はある・だろうけ・ど………」
「つまり謙信君は、川神先輩を未熟だと言いたいのか?」
「まぁ・ね。強さか・ら言え・ば、さっきの・娘・より・川神百代の・方が強いけ・ど、実際戦った・ら・さっきの・娘の方が・得る物・は多いかも・ね」
「兄貴の美学ってやつか」
「…ふぁ……そうかも・ね」
小さく一つ欠伸をしながら答える謙信。
そんな謙信を見ながら、与一はとある疑問が浮かんできた。
「なぁ兄貴」
「……?」
「てことは、兄貴はあのバケモンに勝てるってのか?」
「……どう思・う?」
「どう思うと聞かれても……」と、与一は返答に困る。確かに、謙信の強さは知っている。何しろ、義経、弁慶、与一の三人がかりでも全く歯が立たないのだから。
だが、だからといって、さっきの規格外の強さを有している武神に勝てるかはまた別問題だと与一は思う。先程の阿呆みたいな威力の技を見たら、そう思っても仕様が無い。
それでも不思議な事に、自身が兄と慕う人物が負ける姿なんて、どうしても想像すら出来ない。
「義経は謙信君に勝ってもらいたい!!」
「……まぁなんだ、俺も心情的には兄貴に勝って欲しいってのはあるな」
「………頑張る・よ」
小さく呟く謙信。
でもどうせなら、川神鉄心と戦ってみたいと心の中で思っていたりする謙信であった。
暫くして、最後の部である二年生の部が始まった。
謙信たちが応援しているのは勿論川神学園側だが、天神館の中でも特に武に秀でた者たちの集まりである西方十勇士と呼ばれる猛者達が予想以上に善戦している。これを見た謙信は、「これは参謀軍師次第だね」と呟く。
開戦して少し経った時、戦況に動きがあった。
西方十勇士の一角である毛利元親、大友焔が、川神学園の椎名京、マルギッテ・エーベルバッハによって撃破されたことで、川神学園に流れが生まれた。
「川神学園に・は、きちんとし・た・参謀が・つい・ているん・だ・ね。各個撃破の・形を取・りなが・らも・部隊突出・は・見えない。足並み・が・揃って・いる・ね」
「……うぅ、義経も参加したくなってきた」
「…おいおい、人が燃えながら海に叩きつけられてたぞ。アレ、生きてんだろうなぁ………」
与一が飛んでいった火の玉男を見ながら呟く。
「あ、あそこ・で・あずみ・が一人・仕留めた・よ」
「あそこでは頭が光ってる人が一人で大勢倒したぞ!!」
十勇士が一人、また一人と倒れていく。
完全に流れをつかんだ川神学園は烈火の如く天神館に攻め掛かる。
これは勝敗はほぼ決した、と謙信は心の中で思う。総大将である英雄の陣は無傷であり、総大将の鼓舞もあって川神学園側は士気が高い。
対して天神館は十勇士が次々と討ち取られ士気低く、総大将も何処かに身を隠しているのか見当たらず、といったものだった。
「(総大将が身を隠してるってことは秘策有りってことかな?)」
この戦いは総大将が討ち取られるまで終わらない。身を隠すなんて士気を下げるしかない下策だが、態々そんな事をする理由も見当たらない。様々なことから、謙信はまだ天神館大将は勝ちを諦めてないと見た。
謙信の口元が小さく弧を描く。
「………義経」
「ん、どうしたんだ謙信君?」
「多分だけ・ど、あそこ・に・総大将が・いる・よ。乱入するな・ら・今しか・ない・け・ど……………行く?」
謙信が指差す先には、三方を囲まれた、隠れるには最適な場所があった。
「良いのか!?」
「良い・よ。英雄だって・それくらい・じゃ・怒ら・な・いだろ・う・し……」
乱入の許可が降りた義経は満開の笑顔を咲かせて、ヘリの扉を開ける。
「義経、これ、帰り・の・地図だ・よ」
「義経は義経だから地図が無くとも帰れるぞ。……では、御免!!」
地図を受け取るのを拒んだ義経は、いざ戦場へといった感じでヘリを飛び降りて行った。
「……ねぇ、与一」
「無理だな」
「………だよ・ね」
一言で全てを察した与一。そんな与一と謙信は飛び降りていった義経が困り果てた姿を思い浮かべながら、小さく溜め息を吐いた。