小説『ハイスクールD×D〜転生せし守り手〜』
作者:ブリッジ()

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Life.25〜遠き記憶の怨嗟、もう1組の眷属〜














??side

僕たちはただ生きたかった。

来る日も来る日も辛い訓練を繰り返し、来る日も来る日も辛い辛い実験を繰り返し続けた。

そこに自由はなく、僕達は人としてではなく、物同然に扱われていた。

苦しかった。

辛かった。

逃げ出したかった。

そんな僕たちの心を支えていたのは共に実験を耐え続けていた仲間達だった。

仲間達がいたから僕達は耐えることができた。

僕達には夢があった。

ただ、生きていたかった。

いつか僕達の苦難が報われる時が来る。

その『いつか』を信じて。

けど・・・。

そのいつかが訪れることはなかった。

胸をかきむしり、血反吐を吐き、もがき苦しむ仲間達。

苦しい・・・。

痛い・・・。

助けて・・・!

救いの手を求める仲間達。

けど・・・。

僕達に救いの手が伸びることはなかった。

1人、また1人その命を散らす仲間達。

涙を流し、苦悶の顔でこと切れる仲間達。

許さない・・・。

僕達の自由を奪った彼らを許さない。

僕達の裏切った彼らを許さない。

僕達の夢を奪った彼らを許さない。

そして・・・。

仲間達の命を奪った彼らを許さない!

許さない・・・。

僕は・・・。

僕は・・・。

僕は・・・!

「エクスカリバーを許さない」

僕は、光が一切届かない室内で、1人呟いた。
















          ※ ※ ※


昴side

「ふむ・・・」

時刻は深夜。辺りはすっかり寝静まり、街全体が眠りついている。

俺は1人、鍛錬をしていた。

内容は、主に先日のライザーとの戦いで身に付いた神器、ブーステッド・ギアを使いこなす訓練だ。

いろいろ試してみてわかったことがある。それは・・・。

「禁手(バランス・ブレイク)形態。俺とは少々相性が悪いな」

確かにこの神器は強力だ。神滅具(ロンギヌス)の名に恥じぬほどに。10秒毎に所有者の力を倍化する。常識外れもいいとこだ。

しかも禁手(バランス・ブレイク)の状態に至っては一瞬で限界まで倍化しちまう。体力を限りなく消耗することを差し引いてもこれは反則レベルだ。

だが、ブーステッド・ギア・スケイルメイル。これが少々問題がある。

全身をくまなく鎧で覆い、背中の噴出口で魔力を吹かし、一気に突撃をかけられる。しかし、これでは直線的なスピードが出せても、左右への出し入れが利かない。しかも、鎧はそれなりに重量があるため、反応も僅かに遅れてしまう。

勢い任せに愚直に敵に向かっていくようなタイプの者ならともかく、俺は生来スピードと敏捷性を生かして縦横無尽に動き回りながら戦うタイプだ。対応はできても適応ができない。

そのうちに何かしらの壁にぶち当たるだろう。

これが数日この力を試してみてわかったことだ。

まあ、そのせいで世間では赤い彗星が現れただの、死兆星が見えただの、軽く騒ぎになったが・・・。

「なあ、ドライグ」

『なんだ?』

俺は左腕の籠手に話しかける。すると籠手から返事が返ってきた。

ブーステッド・ギアに目覚めて以来、籠手の中に眠るウェルシュ・ドラゴンことドライグとこうして話しができるようになり、時折話しをしている。

「聞きたいことがあるんだが・・・」

『聞こう』

「この神器の禁手(バランス・ブレイク)時のブーステッド・ギア・スケイルメイルの形状を変えることはできないか?」

『鎧の形状をか?』

「ああ。全身を覆い、かつ重量があるあの鎧じゃ、正直、俺本来の戦いができない」

『ふむ・・・』

ドライグが低い声を漏らす。

「俺が全力で戦えるようにしたい。何とかできないか?」

『可能だ。具体的な形状を言ってみろ』

おっ! できるんだ。

「とりあえず、全体的に装甲を薄くしてほしい。あと、不必要と思う箇所の装甲はパージしてほしい」

さらに具体的に詳細をドライグに説明した。

『いいだろう。お前の要求通りのものに調整してやろう。だが、それにあたっていくつか言っておくことがある』

「?」

『初めての試み故、鎧の調整が終わるまでに少々時間がかかる。調整が終わるまでの間、禁手(バランス・ブレイク)を行うことができなくなる』

「なるほど」

『あと、一度調整を始めてしまえば途中で中断はできない』

「うーん、そうか・・・、わかった」

もう少し力を試してみたかったが、ま、それは調整が終わってからすればいいだろう。

「通常形態のブーステッド・ギアは使えないのか?」

『力の譲渡の方は問題ない。だが、倍化は最大で3回までしか行えなくなる』

3回・・・。というと、3乗分までしか能力を上げられなくなるということか。だが、それだけ上げられれば問題ないだろ。

「わかった、やってくれ」

『では早速行うとしよう。また何か用があればいつでも声を掛けてくれて構わんぞ』

「あいよ」

返事を返すと、ドライグからの声がなくなった。どうやら作業に入ったようだ。

「さてと、そろそろ帰るとするかな」

夜が明ければ学校もあるし、それに部長もアーシアも待っていることだしな。

俺はすぐに家に戻り、ゆっくり湯に浸かり、そのまま眠りについた。

神器を使用したことにより、俺の身体はかなり疲弊していたらしく、深海よりも深く眠った。俺のベッドへの侵入者の存在も気付かずに・・・。















・・・・・・・・・・
・・・・・・・
・・・・


チュンチュン・・・。

「ん・・・、朝か・・・」

小鳥のさえずりと朝の陽光によって俺は目を覚ました。俺はそっと寝返りをうった。

フニュン・・・。

「?」

俺の手の中にとても柔らかい物が収まった。その柔らかい物が収まった手に軽く力を込めた。

フニュンフニュン・・・。

「ん//」

艶っぽい声が俺の耳に届く。

・・・・・・・・・・。

バァサ!

俺は掛布団を払いのけた。そこには・・・。

「・・・・・・OH」

そこには部長がいました。産まれたままの姿で・・・。

「・・・あら、起きていたの?」

「ええ。・・・たった今」

部長が目を覚まし、俺に魅惑的な笑みを浮かべた。

「それで、何故部長が俺のベッドに? そして何故裸?」

俺は出来るだけ平静を装って尋ねてみた。

「ごめんなさい。昴を抱き枕にして寝たい気分だったの。それと私って、裸じゃないと寝れないのよ」

「はあ・・・、さよですか・・・」

俺がゆっくり手を離し、部長から離れようとしたところ、部長が俺を追いかけ、ずいっと顔を俺に寄せた。

「ふふっ、どうしましょうか? このまま可愛い下僕とちょっとエッチなコミュニケーションを取るのもいいわね」

チュッ・・・。

「っ//」

部長が俺の頬にそっとキスをした。

ライザーとの婚約破棄の一件以来、部長も俺の家に住むことになったのだが、部長からのスキンシップがその・・・、ちょっと過激なんだよなぁ。まあもちろん、嫌なわけじゃないんだけどね。

「スバルさーん。そろそろ早朝トレーニングの時間ですよー」

ノックと共にアーシアの声が聞こえてきた。

そして微笑を浮かべる部長。

あぁ・・・、今日もまた一日が始まる。














          ※ ※ ※


カキーン!!!

金属音と共にボールがこっちに飛んできた。

「ほいっと」

ポスッ!

俺は飛んできたボールをグローブでキャッチした。

現在俺達オカルト研はもうすぐ行われる部活動対抗球技大会に向けて猛特訓をしている。

「ナイスキャッチよ、昴!」

部長からお褒めの言葉をいただく。

いやー、今朝はあの後大変だったよ。俺の代わりに部長が返事をしたせいでアーシアが血相変えて部屋に乱入した挙句、裸の部長の姿を目撃すると涙目になりながら脱ぎはじめちまうし。

アーシアはしばらくはむくれていたけど、少ししたら機嫌を直してくれた。

「次、行くわよ!」

カキーン!!!

もう一度こちらにボールが飛んできた。俺は落下点にすばやく移動し・・・。

「あらよっと」

ポスッ!

背面キャッチでボールをグローブに収めた。

慣れればチョロイな。

一方、アーシアはというと・・・。

「あぅあぅあぅ・・・ひぅ!」

トンネルをしていた。

まあ、アーシアはお世辞にも運動神経はよくないからなぁ。

「次、裕斗! 行くわよ!」

カキーン!!!

ボールは木場の方へと飛んでいく。

「?」

木場はというと、俯いており、どことなく、心ここに非ずといった感じだ。

ボールは真っ直ぐ木場目掛けて飛んでいく。そしてボールは木場の頭部に・・・。

ポスッ!

命中・・・する前に俺が慌てて落下点まで走り、木場の頭の上でボールをキャッチした。

「あ・・・」

そこでようやくボーっとしていたことに気付いたのか、俺に顔を向ける。

「考え事もいいが、しっかりボールも見ろよ」

「あっ、ごめん、ボーっとしてたよ」

素直に謝る木場だが、やっぱり表情は暗い。

ここ最近、木場は物思いにふけることが多くなった。落ち込んでるといった感じではない。木場の瞳の奥深くに映るもの、それは怨嗟だ。

木場の瞳の奥にはドス黒い闇が見える。理由はわからない。以前にアーシアを助けに教会に突入する前にポツリと漏らした・・・。

『堕天使や神父は好きじゃないんだ。憎いほどにね』

あの言葉が関係しているのか・・・。

だがまあ、事情がわからない限り、ここでいくら考えても答えは出ないな。今度部長に聞いてみるか。

考えることをやめ、再び球技大会の練習へと気持ちを切り替えた。部長に目を移すと、何やら本を読んでいた。多分野球のマニュアル本だろう。

部長って、結構読書家だよな。家でも結構読んでるし。

「あらあら、ところで昴君、ご存じ? 最近、部長ったら、恋愛のマニュアル本を読んでいるんですよ」

朱乃さんが傍まで来て、話しかけてきた。

「へ〜、でも部長もお年頃ですからね、相手が羨ましい限りですよ」

「うふふ、もしかして妬いちゃったりします?」

「そりゃまあ・・・」

部長とは・・・その・・・キスしちまったわけだし。あれから俺も結構意識しちまってる。

ただあれがただのスキンシップなのか、それともただの挨拶みたいなものなのか・・・。それがわからないから部長の行動にはかなり戸惑ってしまう。

「うふふ、お互いがもっと素直になればよろしいのに・・・。これは部長も苦労しそうですわね」

「?」

朱乃さんが何かを呟いたが部長の練習再開の掛け声と重なったため、よく聞こえなかった。

俺達は再び練習を始めた。














          ※ ※ ※


次の日の昼休み、昼食後、最後のミーティングをするということなので、部室に集まることになっていた。

昼飯を食いながらクラスメイトの松田と元浜から、アーシアや部長と同棲してることに関して妬みや嫉みをとにかくぶつけられた。しかも知らないところで悪評をばら撒きまくっているせいでより一層男から殺意を向けられるようになってしまった。

気にしてもしょうがないので・・・。

メキャッ!!!

悪評の元凶である松田と元浜をちょっと大人の話し合いをしてその件は水に流した。

その後、アーシアと合流し、オカルト研の部室へと向かった。

「失礼しまー・・・ん?」

部室の扉を開けると、グレモリー眷属以外の者もいた。

一緒に入ったアーシアもその人物を凝視している。

あの人は知っている。少々冷たいオーラを身に纏い、理知騒然としたあの佇まい、あの人は駒王学園の生徒会長だ。

生徒会長がここにいるってことはもしかして・・・。

「ひょっとして、これからこの学校のもう一つの悪魔の集まりである生徒会メンバーと顔合わせでもするんですか?」

「あら、知っていたの? それなら話が早いわ」

やっぱりそういうことらしい。

アーシアはそれを聞いてかなり驚いた。

俺が悪魔になる前、特異な臭いと気配を持つ者を何人か見かけた。そのメンバーを調べてみると、それぞれ1つの場所に固まっていた。1つは今俺のいるオカルト研。もう1つはこの学校の生徒会だ。オカルト研が悪魔の集まりであることを知ったことにより必然的に生徒会のことも理解できた。

確か名前は、支取蒼那だったな。

ん? 支取? 支取・・・、しとり・・・、シトリ・・・、シトリー・・・、まさか・・・。

「生徒会長の名前の支取って、もしかして、純血悪魔の七十二柱の1つのシトリー、ですか?」

「そうよ。よくわかったわね」

やっぱりか。ということはこの人も上級悪魔なわけか・・・。

朱乃さんからの補足によると、この駒王学園は実質、グレモリー家が実権を握っているのだが、表の生活は生徒会長、シトリー家が一任しているらしい。

俺は肩膝を着き、右手を胸に当てた。

「お初にお目にかかります。私は姓は御剣、名は昴。リアス・グレモリー様の兵士『ポーン』です。以後、お見知りおきを・・・」

「あ、アーシア・アルジェントと申します! よ、よろしくお願いします!」

アーシアも俺の横で慌てて頭を下げて挨拶をした。

「そこまで畏まらなくても構いませんよ。リアス、あなたの眷属は礼儀が行き届いているみたいね」

「ふふっ、この子はもともとこうよ。昴、楽にして構わないわ」

「わかりました、では・・・」

俺は部長の指示を受け、普通に立つことにした。すると横から・・・。

「けっ! ヘコヘコしやがって、カッコ悪ぃ・・・」

そんな悪態が聞こえてきた。声の方向に視線を移すと、1人の男の生徒がいた。

こいつは確か、最近生徒会の書記に立候補した・・・匙元士郎だったっけな。

「礼儀を重んじるのは至極当たり前のことだぜ。匙元士郎君」

俺がこう言うと、匙はバカにしたような表情を浮かべた。

「そうなのか? 俺にはヘコヘコ尻尾振ってるようにしか見えなかったがな」

「ほう・・・」

「おっ? やるのか? こう見えて俺は駒4つ消費の兵士『ポーン』だぜ? 最近悪魔になったばかりだが、お前なんぞに負けねぇよ」

「へぇー、そうなのか? それは頼もしいな。それほどの奴が学校の秩序を守ってくれてるなら俺も心強い」

匙はムッとした表情を浮かべる。

「お前、バカにしてるのか?」

「頼もしいと言ったはずだが? あと、あまり自分の強さをみだりにひけらかさない方がいい。弱く見えるし、何より、自分の主に恥をかかすことになるぞ」

「てめぇ!」

「サジ。お止めなさい」

俺に詰め寄ろうとした匙を生徒会長が鋭く睨みながら止める。

「し、しかし、会長!」

「今日ここに来たのは、この学園の上級悪魔同士、最近下僕にした悪魔を紹介し合うためです。私の眷属なら、私に恥をかかさないこと。それに、今のあなたでは御剣君には勝てません。フェニックス家の三男を倒したのは彼なのだから。兵士『ポーン』の駒を8つ消費したのは伊達ではないということです」

「なっ!」

その言葉に匙は目元引きつらせながら驚いていた。すると、会長が俺へ頭を下げた。

「ごめんなさい。御剣昴君、アーシア・アルジェントさん。うちに眷属はあなたより実績がないので、失礼な部分が多いのです。よろしければ同じ新人の悪魔同士、仲良くしてあげてください」

会長は薄く微笑みながらそう言った。

「ええ、もちろんです。よろしく、匙」

俺はにこやかに匙に右手を差し出した。

「・・・よろしく」

匙は渋々右手を差し出した。

「(こいつ、やっぱりいけ好かねぇ! このまま手を握り潰してやる!)」

匙は悪そうな笑みを浮かべる。

・・・こいつ、何かたくらんでるな。

匙は俺の手を握り・・・。

ギュウゥゥゥゥゥッ!!!

おもいっきり俺の手を握りしめた。

「っ! ぐぅぅぅっ!!!」

絶叫をあげた。・・・・・・・・・匙が。

「サジ、どうしました?」

会長が床に膝を着いた匙に声をかけた。匙は震えながら会長に右の手のひらを見せた。

「が、画鋲・・・」

匙の手のひらには綺麗に画鋲が3つ刺さっていた。

「「「「・・・」」」」

それを見て皆が呆気にとられていた。

うーん。ちょいとイタズラ心でさっき展示物を貼っていた時にポケットに入れっぱなしだった画鋲を握り込んでいたのだが、まさかあんな強く握ってくるとは・・・。

(注)良い子はマネしないでね!

「くっ、くそ・・・てめ『へぇー、そういうことか』 あん?」

「頑張れよ。俺は全力で応援するからよ」

そう言って、俺は握手した際に匙の懐から拝借した生徒手帳を匙だけに見えるように見せた。生徒手帳には生徒会長の(盗撮したとおぼしき)写真が飾られていた。

「あっ// てめえ!」

匙は咄嗟に胸に手を当て、それがないのを確認すると、顔を赤らめながら俺の手に持つ生徒手帳を奪い返しにきた。

「おっと」

俺はそれを軽やかにかわす。

「くそ!」

匙が振り返った。

「ちゃんと大事に持っておけよ」

俺は親指でちょんちょんと自分のブレザーの胸ポケットを指差した。

匙は俺の手に手帳がないことに気付き、おそるおそる自分のブレザーの胸ポケットに目をやった。そこには、匙が俺に飛びかかった際にこっそり戻しておいた手帳が。

「ちくしょう、おぼえてろ!」

匙は涙目で睨みつけてきた。

くっくっくっ! こいつ、おもしれぇ奴だな。

この後、匙はアーシアとも握手をした。その時はさっきまでの顔が嘘のようにニコニコ顔だった。何にせよ、機嫌が直ってよかったよかった。

「リアス、球技大会が楽しみね」

「ええ、本当に」

部長と会長が微笑みながらそんな言葉を交わしていた。

これでルーキー同士の顔合わせは終わったのだった。















続く

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