小説『ハイスクールD×D〜転生せし守り手〜』
作者:ブリッジ()

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Life.32〜地獄の番犬、死戦〜














昴side

戦争・・・俺はそれを心から憎む。

戦争は無情で無慈悲だ。あらゆる命を奪い、あらゆる運命を捻じ曲げてしまう。

俺はそれを知っている。

俺はかつてそれに身を投じていたから。

俺はそこであらゆる命を奪った。あらゆる運命を歪めた。

怨嗟、憤怒、あらゆる激情が戦争は駆け巡る。

憎くない敵を討ち、憎くない敵に討たれ、憎くない敵を憎む。

憎しみは連鎖し、新たな憎しみを生む。

憎しみが生まれてしまえばもう、後戻りはできない。

一方が一方を滅ぼし尽くすまで止まらない。止められない。

止まったとしても、それはどうしようないところまで殺し合った結果だ。

それが戦争。

だから・・・。

だから・・・。

だから・・・!

俺は戦争を心から憎む・・・。















          ※ ※ ※


「――ばる、昴!」

「えっ?」

俺は部長の声で正気に戻される。

「どうしたの? 突然ボーっとして」

「いえ・・・、大丈夫です。何でも、ありません」

「・・・そう」

部長は何か言いたそうな表情を浮かべたが、特に追及はしてこなかった。

・・・今は余計なことは考えなくていい。奴を・・・コカビエルを討つことだけを考えよう。

「学園を大きな結界で覆っています。これでよほどのことがない限りは外に被害は出ません」

匙が部長に現状を報告する。

俺達、木場を除くグレモリー眷属は駒王学園の傍にある公園に来ている。そこには生徒会メンバーも集まっていた。

ソーナ会長からの補足の説明によると、この結界はあくまでも被害を最小限に抑えるものであり、コカビエルが本気になれば、学園どころか、地方都市そのものが崩壊するらしく、さらに、今学園の校庭でその準備が進められているという。

ソーナ会長をはじめ、生徒会メンバーがそれぞれ配置に付き、被害を最小限に抑えるために全力で結界を張り続けるという。

「ありがとう、ソーナ。あとは私達でなんとかするわ」

「リアス、こう言ってはあれですけど、相手は桁違いですよ? 今からでもあなたのお兄様に助力を・・・」

ソーナ会長の提案に部長は首を振る。

「あなただって、お姉様を呼ばなかったじゃない」

「私のところは・・・。わかるでしょう? ですが、サーゼクス様なら必ず動いてくれます。だから・・・」

「すでにサーゼクス様には打診しましたわ」

2人の会話に朱乃さんが遮ってこう告げた。

「朱乃!」

すると部長が怒気の表情を朱乃さんに向け、非難の言葉をぶつけた。部長としても、以前の婚約騒動で兄であるサーゼクス様に迷惑をかけたこともあり、今回も自分の根城でこのような騒動が起こったため、どうにか自力でことを治めたいのだろう。

朱乃さんの説明ではあと1時間程でサーゼクス様が加勢に来るという。

「朱乃さんの判断は正しいと思います」

俺も同様に会話に割って入った。

「!? 昴、あなたまで!」

「これはもう、部長個人で解決できるレベルを超えています。最悪の事態を避けるためにも、魔王の力を借りるべきでしょう」

「・・・」

部長はそれでも納得ができない様子だ。

「部長。王というのは如何なる事情、如何なる状況であっても氷の如く頭を冷やし、冷静に最善の選択を選ばなければならない」

「っ!」

これは俺が以前にライザーとのレーティング・ゲームの時に部長に言った言葉だ。

「矜持を持ち、私情に駆られるなとは言いません。ですが、天秤にかけるものを間違いでください」

部長が俺の言葉に一度大きな溜め息を吐き、静かに頷くと、いつもの表情に戻った。どうやら冷静さを取り戻したみたいだ。

「1時間ね。わかったわ。私達が学園内に飛び込んでコカビエルの注意をひくわ」

「私達は1時間、シトリー眷属の名にかけて結界を張り続けます」

グレモリー眷属はオフェンス、シトリー眷属は外側からのディフェンスとなった。

「これはフェニックスとの一戦とは違い、死戦よ! それでも死ぬことは許さない! 生きて帰ってあの学園に通うわよ、皆!」

「「「「はい!」」」」

部長の激に俺達が応える。

「御剣! この戦いが終わったら覚えておけよ! 絶対あのことの仕返ししてやるからな!」

「・・・」

「おい! 聞いてんのか・・・っ!?」

匙が俺の肩に手を置くと、一瞬身体をビクつかせた。

「ん? 匙か、どうした?」

「・・・いや、その・・・」

匙は何やらまごついている。

「1時間か・・・」

俺がポツリと呟く。

「大変かもしれないが、何とかもたせろよ!」

「・・・短いな」

「はぁ!?」

「あと1時間以内にコカビエルも仕留めなきゃならないとなると、結構大変だな」

俺は今、どんな表情(かお)をしているんだろう。

「・・・お前」

「・・・コカビエルは必ず俺が仕留める」

「っ!・・・(こいつ、怖ぇ!)」

「・・・(昴・・・)」

俺は、匙の怯えと部長の心配そうな表情にこの時気付かなかった。















          ※ ※ ※


学園の正門から校庭へと入っていく。すると、校庭の中央には4本のエクスカリバーが神々しい発しながら宙に浮いており、それを中心に何やら魔方陣が校庭全体に描かれていた。

「これは・・・」

「4本のエクスカリバーを1つにするのだよ」

俺がそれを見ながら呟くと、魔方陣の中央にいるバルパー・ガリレイがおもしろおかしそうに返してきた。

バルパー・・・っ!?

俺が視線を上空に向けた。すると、俺につられて部長達も上空を見上げた。そこには・・・。

「バルパー、あとどれくらいでエクスカリバーは統合する?」

「「「「!?」」」」

そこには、椅子のようなものに座って上空に浮いているコカビエルの姿があった。

「5分もいらんよ、コカビエル」

コカビエルの質問にバルパーがそう答えた。

「そうか。では、頼むぞ」

そう言うと、コカビエルが視線を俺達・・・いや、部長に移した。

「サーゼクスが来るのか? それともセラフォルーか?」

「お兄様とレヴィアタン様に代わりに私達が―――」

部長がコカビエルの問いにそう返した瞬間、巨大な光の槍を生み出した。

ちっ! こいつ・・・!













          ※ ※ ※


リアスside

「お兄様とレヴィアタン様に代わりに私達が―――」

ヒュッ!

私がコカビエルの問いを返そうとした瞬間、私の耳に風切音が響く。

ドォォォォォォン!!!

それと同時に爆発音が辺り一帯に轟いた。

コカビエルが体育館に巨大な光の槍を投擲したことにようやく気付いた。

「・・・えっ?」

私は、自分の目を疑った。

「つまらん。だが、余興には・・・むっ?」

私の視線を追ったのか、コカビエルが自身の投げた光の槍の先に目をやった。

そこには・・・。

「っ!」

ギギギギギギギッ!!!

昴がコカビエルの投げた巨大な光の槍を受け止めていた。

「昴! 無茶よ!」

私はそう叫んでいた。

無茶よ・・・。あなたが相手にしている堕天使は、以前に戦った堕天使とは比較にならない程の相手なのよ?

私が昴を助けようと一歩踏み出すと・・・。

「うおぉぉぉぉぉっ!!!」

昴の咆哮が辺りを轟いた。

ピシっ!

それと同時に光の槍に亀裂が走った。

「なめるなぁぁぁっ!!!」

パキィィィィィィィィィン!!!

昴が力一杯刀を振り抜くと、光の槍が大きな音を立てて砕け散った。

「はぁ・・・はぁ・・・ふぅ」

昴は呼吸を整え、刀を肩に担ぐと、上空を見上げ、コカビエルに不敵な笑みを浮かべた。

「ったく、学園の景観が損なうだろ」

「くくく、なるほど」

コカビエルが同じように不敵な笑みを返した。

あの槍を・・・けれど、昴も決して難なく破壊したわけではない。現に腕が小刻みに震えてる。きっとギリギリだったんだわ。

「(腕が痺れる。女王『クイーン』にプロモーションしてなきゃアウトだった。ゼノヴィアのエクスカリバー以上の破壊力じゃねぇか)」

『当然だ。奴は聖書に記されるほどの強者だからな。未熟者が使う不完全なエクスカリバーとは比較にならん』

昴はドライグと何やら話をしているみたいだけど、ここからではよく聞こえないわね。

「あの槍を・・・。さすがだな」

バルパーが今の昴を見てポツリと感想をもらした。

「ブーステッド・ギアを有しているならあれぐらいの芸当はできよう。そんなことより、奴の持つ刀は俺の槍を受けて刃こぼれ1つできてないな」

「むっ?」

コカビエルが言葉にバルパーが唸る。

そういえば、以前にも破壊のエクスカリバーを受けても傷一つ付かなかったわね。受け止めた昴ばかりに気を取られていたけれど、あの刀、なんなのかしら? 昴は、家に代々伝わる村雨という銘の刀だと言っていたけれど・・・。

「くくくっ、存外、そこのエクスカリバーよりも、あの刀の方が価値があるのかもしれんな」

コカビエルは可笑しそうに笑いを浮かべる。

「ふん! あれからは何の力も感じん。所詮は鈍の刀に過ぎん」

バルパーは心底不快そうな表情でそう吐き捨てた。

「じじい、この刀を愚弄したら刀の錆にすんぞ」

昴も憤怒の表情で言った。

「まずは座興だ。地獄から連れてきたペットで遊んでもらおうか」

コカビエルが指を鳴らす。すると、闇夜の奥から地を揺らしながら何かが近づいてくる。徐々にその姿が露わになる。

あれは!

体長は10メートルほど、真紅の相貌、太い四肢、鋭い爪、そして3つの犬のような頸。これは・・・。

「ケルベロス!」

ギャオオオオオオオオオオオォォォォォォォっ!!!

辺り一帯を震わせるほどの咆哮をあがった。

コカビエル! あなたは何てものを人間界に!

「コカビエル。ペットだが何だか知らないが、あんな犬っコロを差し向けて、てめぇは高見の見物か?」

昴の険しい表情を浮かべながら言う。

「ふん。その犬っコロすらどうにかできないのであれば、どのみちお前達に俺と戦う資格はないさ」

コカビエルはまるでバカにするかのように椅子の上で足を組み直しながら言った。

それを聞いた昴はこちらにも音が届きそうなほどに歯を食い縛り、怒りの形相を浮かべた。

「ふざけるな!」

ドォン!!!

昴は咆哮と共にコカビエルの方へ向かっていった。

「昴! やめなさい!」

私は制止の声をあげるが、昴はおかまいなしに突っ込んでいく。

『ゴウゥゥンッ!!!』

ケルベロスの頸の1つから炎が吐き出された。

ボォン!!!

昴は横っ飛びでそれを避ける。

ボォン!!!

もう1つの頸からさらなる炎が吐き出される。

「ふっ!」

跳躍して避けた。

ボォン!!!

3つ目の頸が空中へと跳躍した昴に追撃の炎を飛ばした。

「はぁっ!」

ボォフ!!!

その炎を昴が刀で斬り裂いた。

ドォン!!!

ケルベロスの背に一度着地し、そこを足場にもう一度跳躍し、空中にたたずむコカビエルに飛びかかった。

「コカビエルッ!!!」

ぐんぐんコカビエルに迫る昴。それでもコカビエルが嘲笑を浮かべながらただ椅子に座っている。昴とコカビエルが接触しようとした瞬間・・・。

「!? 昴! 後ろよ!」

「っ!?」

ガキィッ!!!

私の声に昴が振り返り、ケルベロスの爪を刀で受けて防いだ。

先程炎は吐いたケルベロスはまださっきの位置にいる。

「くっ! 1匹だけではなかったのね!」

昴を、昴を助けないと。

私が一歩踏み出すと・・・。

「俺は大丈夫です! 部長達はそっちのもう1匹を!」

昴が爪を受けながらそう言う。

昴!・・・けれど、助けに行くにはどのみちあのケルベロスをどうにかしないと無理だわ。

「昴! 私達が行くまで持ちこたえて!」

私はそれだけ昴に告げ、最初に姿を現したケルベロスに集中した。

「行くわよ! 皆!」

私は背中に翼を出し、空へと舞う。朱乃もそれに続く。

『ゴウゥゥン!』

ケルベロスが私に炎を吐き出した。

「朱乃!」

「はい!」

私の掛け声で朱乃がその炎を凍らせた。

朱乃! さすがね!

「くらいなさい!」

私は滅びの力を手に集め、ケルベロスへと放った。

『ゴウゥゥン!』

もう1つの頸が炎を吐き出し、私の滅びの一撃にぶつけた。

ゴォォォッ!!!

滅びの一撃と炎が激突し、その場でせめぎ合った。

3つ目の頸が炎を吐き出そうとしている。

「小猫! 今よ!」

「隙あり」

ドゴォォッ!!!

3つの頸が真上を向いた隙を付き、小猫が横から頭部に拳打を打ち込んだ。

「さらにもう一撃差し上げますわ」

カッ!!!

朱乃が指先を天に向け、それをケルベロスへと向ける。稲光と共に激しい雷が落ちる。

今よ!

ボォン!!!

私は、動きが止まったケルベロスに再び滅びの一撃を撃ちこんだ。その一撃は脇腹を捉え、ドス黒い鮮血が噴き出した。

『グルルルルル・・・』

私の一撃を受けてもなお、その眼光は鋭い。

地獄の番犬の異名は伊達ではないということね。

「もう一度行くわよ! 皆、私の指示に・・・『不要だ』 !?」

突如頭上から声が響く。視線を向けると、そこには教会の人間であるゼノヴィアの姿があった。

「到着が遅れてすまない。せめてもの詫びとして、トドメは私が刺させてもらおう」

ゼノヴィアはそう言いながら振り上げていたエクスカリバーを落下のスピードを利用しながらケルベロスの胴体に振り下した。

ズシャァァァァッ!!!

『ギャオオオオオォォォッ!!!』

一撃を受けるとケルベロスの胴体が割れ、煙を立ち込める。ケルベロスは絶叫をあげながら倒れ込むと、身体が塵芥と化し、宙に霧散していった。

さすが聖剣ね。悪魔だけではなく、魔物にもその効果は抜群。

『グオォォォォォッ!!!』

もう1つの絶叫が私の耳に届いた。そちらに振り向くと、そこには・・・。

「ケルベロス・・・地獄の番犬だっけか? 名前負けもいいところだな」

刀を肩にかけながら歩いてくる昴の姿があった。その後ろには・・・。

「うそ・・・」

「ほう・・・」

「なんと」

私は驚愕し、コカビエルは感心し、バルパーは驚きの声をあげた。

昴の後ろには3匹ものケルベロスが倒れていた。1匹は全ての頸が斬り落とされ、もう1匹は真ん中の頸から胴体ごと真っ二つにされ、3匹目は煙をあげて倒れていた。

私達が力を合わせて倒した敵を、昴は1人で3匹も・・・。もともと秀でた強さを有していたけれど、ブーステッド・ギアに目覚めてからはその強さは異常ね。

「茶番はもう終わりでいいだろう」

昴が刀の切っ先をコカビエルに向ける。

「来いよ」

昴が挑戦状を叩き付ける。

「くくくっ・・・」

コカビエルはただただ嘲笑を浮かべるだけ。

「茶番か・・・そうでもないかもしれないぞ?」

『ゴアァァァッ!』

その瞬間、煙をあげていたケルベロスが目を開け、昴へと襲いかかった。

トドメを刺しきれてなかったんだわ!

「すば―――」















ズシャッ!!!














「・・・・・・遅ぇーぞ、木場」

「ごめんね。でも、君の方こそ。詰めが甘いんじゃないかな?」

「バカを言うな。お前の登場を演出をしてやったんだよ」

「それはどうも」

ケルベロスの牙が昴に襲いかかろうとした瞬間、颯爽と現れた裕斗が魔剣でその頸ごと斬り落とした。ケルベロスは頸を失うと、そのまま絶命した。

昴と裕斗は互いに不敵な笑みを浮かべている。

裕斗・・・無事だったのね。

「・・・完成だ」

バルパーの声が。それと同時に校庭の真ん中の4本のエクスカリバーが眩いほどの光を発し始めた。

「4本のエクスカリバーが1本になる」

神々しいほどの光が発し、それが治まると、4本のエクスカリバーが1本になっていた。

「エクスカリバーが1本になった光で、下の術式も完成した。あと20分もしないうちにこの街は崩壊する。それを止めるにはコカビエルを倒すしかない」

バルパーがそう口にする。

それは、私達にとって衝撃的で、そして、絶望的なことだった。













続く

-33-
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