小説『ハイスクールD×D〜転生せし守り手〜』
作者:ブリッジ()

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Life.41〜神器の訓練と総督、ギャスパー教育計画〜














部長と朱乃さんと木場は三大勢力のトップ会談の打ち合わせに向かった。残りのメンバーは、ひとまず新顔同士がギャスパーに自己紹介をし、その後、ギャスパーの訓練が始まった。

ゼノヴィアが俄然やる気だったのでひとまず任せてみたのだが・・・。

「走れ走れ。デイウォーカーなのだから日中でも問題なく走れるだろう?」

「ヒィィィィッ! デュランダルが迫ってきますぅぅぅぅっ!」

ゼノヴィアがデュランダルを構えながらギャスパーを追っかけている。曰く『健全な精神は健全な肉体から』なのだと。

デュランダルからは、危険な音とオーラを轟かせている。

「ギャー君。ニンニク食べて健康になる」

「イヤァァァァァッ! ニンニク嫌いィィィィッ!」

その横を小猫ちゃんがニンニクを持って追いかけている。

傍から見たらただのか弱いヴァンパイアハントだ。

「ぐすん。私には目も合わせてくれませんでした」

俺の横のアーシアは涙目だ。前々からもう1人の会いたいですって言ってただけにちょっとショックだったんだろう。

俺とアーシアはその光景を遠巻きに眺めている。

「おー、やってるみたいだな」

そこに生徒会の匙がやってきた。

「よう、匙」

「おーす、御剣。解禁された引きこもり眷属がいるとか聞いたから見に来たぜ」

「話しが早いな。ほれ、あそこで先頭を走っているのがそうだ」

俺が指差して教えた。

「・・・なんともシュールな絵だな。俺には狩りにしか見えないぞ・・・ていうか、おお! 金髪美少女じゃねぇか!」

随分とテンション高めに声を歓喜する匙。

「ところがどっこい。あれは男の娘だ」

「・・・女装癖な引きこもりって、難度高すぎだろう」

「ま、現実はいつだって無情だ・・・ところで・・・手に持っている物から察するに、花壇の手入れでもしに来たのか?」

俺は、匙が手に持っているシャベルを指差して尋ねてみた。

「そのとおりだ。1週間前から会長の命令でな。それに、近々魔王様もいらっしゃるからな。少しでも綺麗に見せるのも俺の役目だ」

匙が胸を張って答えた。

「ご立派なことで」

俺が賛辞を贈ってあげたその時・・・。

「びぇぇぇぇん!!!」

俺の胸にギャスパーが飛び込んだ。

「ヒック・・・怖かったよ〜・・・」

俺の胸で大泣きをするギャスパー。

「おーよしよし。もう怖くないぞー」

優しく頭を撫で、背中をさすってあげた。

「むっ。昴よ。そいつを差し出せ。訓練ができないぞ」

デュランダルの切っ先をこちらに向けながら要求する。

「ったく、あんまりいじめてやんなよ・・・お?」

視線を変えると、浴衣を着た若干人相が悪い男性がこちらに近づいてきていた。見覚えのある顔だ。

「どうも。久しぶりです。あの夜以来ですね」

「よー、元気してたか赤龍帝」

俺が挨拶を交わすと、向こうも気さくに挨拶を返してきた。

「御剣、知り合いか?」

匙が俺と浴衣の男を交互に見ながら聞いてくる。

「まあな。少し前に度々俺を呼び出している依頼主でな。アザゼルさんだ」

「アザ・・・ゼルぅっ!?」

俺の説明に匙は両の目を見開きして驚愕した。その匙の一言にゼノヴィアが剣を構えて対峙した。それに呼応して匙も神器を出現させた。

「やめとけよ。向こうにその気はないし・・・やっても多分勝てないぞ」

俺が一歩前に出て手で制した。

「やる気はねぇよ。大人しくそいつの言うことに従っとけ」

アザゼルがそう言ったものの、俺以外は警戒心を解く様子はない。

まあ、無理もないけどな。

「ところで、あなたはここにいったいどういった用向きで? まさか散歩にでも?」

俺がそう聞くと、ハッハッハッと笑い声をあげた。

「ま、それもあるわな。本命は、聖魔剣使いを見に来たんだよ。どこにいんだ?」

「お生憎様、木場は現在サーゼクス様のもとにいますよ。御用があるならそちらに」

「んだよ。タイミング悪ぃな・・・」

アザゼルは頭をポリポリ掻きながら苦々しい表情を取る。

「なら、しょうがねぇな・・・それなら、おい、赤龍帝」

「なんですか?」

「お前には、ブーステッド・ギア以外にもう1つ神器持ってんだろ? そいつを見せてくんねぇか?」

「・・・」

もう1つの神器・・・ブレイブ・ハートのことか。

「どうぞ・・・村雨」

俺は村雨を発現させ、アザゼルに投げ渡した。

「サンキュ。・・・これは・・・」

アザゼルは村雨を受け取り、鞘から村雨を抜くと、マジマジと観察を始めた。

「現存する聖剣や魔剣、それに連なる神器のような力はねぇな・・・材質は・・・物質は・・・」

なにやらぶつぶつと呟きながら唸りはじめる。

「特に特質した力はねぇが・・・こいつには興味が沸いてくんな。なんでできてんだ、こりゃ。そこらの聖剣や魔剣なら軽くへし折れるくらいに力込めてんのにビクともしやしねぇ。・・・これ持って帰って調べてもいいか?」

と、何やら呟いた後、俺に聞いてきた。

「それは、またの機会で」

俺は村雨を消して丁重にお断りをした。まだ、信用したわけじゃないからな。

「ちっ、つまんねぇ・・・」

アザゼルは軽く舌打ちをした。そのまま帰るかと思いきや、俺の背中に隠れるギャスパーに視線を向けた。

「そこのヴァンパイア」

アザゼルのその声に、俺の背中に隠れていたギャスパーがビクッと身体を震わせた。

「お前、停止世界の邪眼(フォービトン・バロール・ビュー)の持ち主だろ? そいつは使いこなせないと危険極まりない。神器の補助具で不足してる要素を補えばいいんだが・・・悪魔は神器の研究が進んでないんだったな。だったら・・・」

アザゼルはギャスパーをまじまじと見ながら興味深々といった表情だ。一方、ギャスパーはブルブルと震えている。アザゼルは次に匙の方に視線を送り、匙の腕を指差した。

「それ、黒い龍脈(アブソーブション・ライン)だろ? そいつを練習に使ってみろ。このヴァンパイアに接続して余分なパワーを吸い取りつつ発動すれば、暴走も少なく済むだろうさ」

それを聞いて匙はかなり驚愕していた。どうやら、そのような使い方ができるとは思わなかったのだろう。

匙の神器は五大龍王の1匹の黒邪の龍王(プリズン・ドラゴン)ヴリトラの力を宿しており、どんな物体にでも接続し、その力を散らせることができる代物なんだと。短時間なら、持ち主側のラインを引き離して他の者、あるいは他の物に接続することも可能であり、所有者が成長すればそのラインの数も増え、吸い取る出力も上がる。

「・・・」

その説明を聞いて匙は黙り込んだ。

さすが、神器の造形が深いっていうのは本当らしいな。

「一番てっとり早いのは、赤龍帝を宿した者の血を飲むことだ。ヴァンパイアは血を飲めばそれだけでも力が付くからな」

俺をそれを聞いて背後に隠れるギャスパーに視線を送った。

「・・・(フルフル)」

ギャスパーは大きく首を振る。どうやら血を飲むのは嫌らしい。

「後は自分達でどうにかしてみろよ」

そう言ってこの場を後にした・・・が、一旦足を止め、再び俺の方に振り返った。

「それと、うちの白龍皇が勝手に接触をして悪かったな。あいつも変わりもんだが、今すぐ赤白決戦をしゃれ込もうなんて気はないだろうよ」

と、アザゼルが謝罪? っぽいことを述べてきた。

「別に構いませんよ。俺も一度、白龍皇と話でもしてみたかったですから。それに・・・少なくとも、正体隠して人を何度も呼び出したあなた程じゃないですからね」

「そいつは俺の趣味だから謝らねぇぞ」

「でしょうね。期待はしてませんよ」

俺は皮肉気に返した。

「へっ、そんじゃ、またな」

後ろ手に手をヒラヒラさせてアザゼルは去っていった。

「相変わらずな方だな・・・そんじゃ、早速さっき言ってたの試してみないか?」

俺が匙に提案した。

「お、おう・・・お前よく平然としてられるな。向こうは堕天使の総督なんだぞ?」

「別に、敵意も悪意もないんだから大丈夫だろ。それに・・・向こうは堕天使だが、別段、悪い奴じゃないと思うぞ?」

何度も会ってみた感想がこれだ。意外に話しやすいし、少なくともコカビエルなんかよりは確実に器がでかい。ま、いい人でもないだろうがな。

その後、アザゼルの言ったやり方を取り入れ、改めて練習を始めた。アザゼルが言った通り、ギャスパーの余分な力を吸い取ることは可能だった。

バレーボールなどを投げ、ギャスパーの視界にボールが映ると、数分間だけだが自力で止めていた。その成功率はお世辞にも高いとは言えないが、さっきまでの状態と比べればかなり大きな進歩だ。

それでもちょいちょい皆(俺以外)に視線を向けた瞬間身体の一部を止めてしまうということもしてしまう。その度にギャスパーは涙目で頭を下げまくっていた。

道程はまだまだ険しいらしい。ま、そこは地道に頑張るしかないないか。

「どう? 成果の方は?」

そこに、打ち合わせを終えた部長がサンドイッチ入りのバスケットを抱えてやってきた。朱乃さんと木場の姿はない。まだ、サーゼクス様のところにいるのだろう。

一口サンドイッチをいただく。

うん、すっごい美味しい。

特訓の進行状況と先ほどのアザゼルの来訪を部長に告げると、部長は結構驚いていた。

その後、匙は花壇の手入れに戻り、部長が特訓に付き合ってくれることになった。ギャスパーはヘロヘロであったが、部長の言葉に奮起し、夜になるまで特訓を続けた。














          ※ ※ ※


ギャスパーの教育は続く。

俺が次に教育したいと考えたのは、ギャスパーのその引きこもり精神だ。

ギャスパーは人に怯えたりなどして神器を暴走させてしまう傾向がある。そこはおそらくギャスパーの過去のトラウマが関係しているのだろう。

対人恐怖症をどうにかし、社交的になってくれれば神器の暴走頻度も減り、ゆくゆくはギャスパーの為にもなるはず。

とりあえず、深夜の悪魔稼業の時にギャスパーを同伴させて少しずつ慣れさせよう。

そうと決まれば早速実践・・・と思ったんだが・・・。

ここで1つ問題がある。

俺を指名する奴は、マニアック趣味のオタクだったり、一夜の刺激を求めるマダム、または人妻だ。正直ギャスパーには荷が重すぎる。

まず確実に怯えまくった挙句に神器を暴走させて段ボールにエスケープする。となると、これはダメだ。

さてどうするか・・・。

悩んだ結果、俺は1つのアイデアが浮かんだのでそれを試すことにした。















・・・・・・・・・・
・・・・・・・
・・・・


神器の訓練をした翌日の放課後。

俺は部長の許可をもらい、表向きの部活動に参加をせず、ギャスパーを連れてとある場所に向かっていた。

「お兄ちゃん、どこに行くの?」

ギャスパーが俺に手を引かれながらおずおずと聞いてくる。

「秘密だ。もうすぐ着くぞ」

俺はギャスパーに何も告げずに目的地に連れ出していた。

それとギャスパー、お兄ちゃんはやめなさい。

歩くこと数分。一軒の趣のある民家に到着した。

「着いたぞ。ここが目的地だ」

「・・・?」

当のギャスパーは状況がよく掴めておらず、キョトンとしている。

俺は敷地内に入っていき、その民家の玄関の戸を叩いた。待つこと1分、『はいはい』という、少々甲高い声と玄関の戸が開けられた。

「おやおや、昴ちゃんじゃないの」

中から腰が曲がった高齢のお婆さんが出てきた。

「こんにちは、トメさん」

この人はトメさんと言う、俺の家の近所に1人暮らしをしているお婆さんだ。家が近いため、よくお茶を飲みに通っている。

「よう来たね〜・・・おんやぁ?」

お婆さんことトメさんが俺の背中に隠れるギャスパーを発見し、まじまじと見つめた。

「今日はこの子を紹介しに来たんだよ」

「そうかいそうかい・・・。めんこい子だね〜」

トメさんがゆっくりとギャスパーにその手を伸ばす。ギャスパーは一瞬身体をビクッとさせ、両目をギュッと瞑った。

「あ・・・」

トメさんはギャスパーの頭をそっと撫でた。

「上がっておいき。今お菓子出してあげるからね」

トメさんはニコッと笑顔を向けた。

「・・・あ、ありがとう、ございます・・・」

ギャスパーは顔を赤らめながらボソボソとお礼を言った。













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・・・・・・・
・・・・


中に通され、俺とギャスパーは畳が敷いてある客間のちゃぶ台の前に座った。

トメさんは慣れた手付きで急須でお茶を入れ、お茶菓子と一緒に俺達に出してくれた。

「さっ、おあがり」

俺は湯呑のお茶をいただいた。

やっぱお茶はいいな〜。

ギャスパーはそっとお茶請けに出してくれたモナカを手にした。モナカを見たことがなかったのか、まじまじとモナカを見つめた後、そっと口にした。

「・・・美味しい」

「そうかえそうかえ。いっぱいあるからどんどんお食べ」

ギャスパーは和菓子が新鮮だったのか、興味津々に次々と口にしていった。その嬉しそうな食べっぷりにトメさんもとても嬉しそうだ。












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・・・・


「ハッハッ! 子供が結婚して家を出て、お爺さんが逝っちまってからこの家も随分と寂しくなってもうたけど、昴ちゃんが越してきてからここもにぎやかになってな〜。庭の手入れや家事の手伝いもしてくれるからあたしゃ大助かりだよ」

「いやいや。こっちも畑の野菜のお裾分けしてもらってるから大助かりだよ。トメさんの野菜すごく美味しいから家事や庭の手入れはそのお礼ですよ」

お婆さんは高齢で難儀している姿を度々目撃してるからちょくちょく家に足を運んではいろいろと手伝いをさせてもらっている。

「昴ちゃんは若いのに偉いねぇ」

頭をナデナデされた。なんだろう、とても悪い気はしないな。

「あはははは〜」

ギャスパーも段々と和んできており、こうして時折笑みを見せている。

「ま、これからはこのギャスパーも連れて遊びに来るからさ」

「えっ?」

俺の言葉にギャスパーは驚いた。

「えっと、あの・・・遊びに来てもいいですか?」

ギャスパーが上目使いでおずおずとトメさんに尋ねる。トメさんは満面の笑みを浮かべ・・・。

「いつでもおいで」

優しく迎え入れてくれた。

「!・・・うん!」

ギャスパーも笑顔で返事をした。












          ※ ※ ※


その後、外が夕焼けに照らされる時刻まで談笑をし、一緒に夕食をいただいて帰路に着いた。

「また遊びにおいで〜」

帰り際のトメさんの言葉にギャスパーは笑顔で手を振っていた。

「どうだ? トメさんは怖かったか?」

「ううん。全然怖くなかった」

ギャスパーは首を横に振りながら答えた。

「そうか。なら、これからちょくちょく顔だしてやれ。トメさんも楽しみにしてるだろうからさ」

「うん! お兄ちゃん!」

ギャスパーは笑顔で元気よく返事をした。

今日のこの出会いがきっとギャスパーをいい方向に変えてくれるとだろう。俺はそう信じている。

俺達はこのまま学校に向かい、悪魔の本業をするのだった。














後、お兄ちゃんはやっぱやめてくれ。なんだか背中が痒いからな。













続く

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