小説『ハイスクールD×D〜転生せし守り手〜』
作者:ブリッジ()

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Life.60〜トップ陣の予想、各々のミーティング〜














NOside

「失態ですね」

魔王領にある会談ルームでグリゴリの副総督シェムハザが開口一番に口を開いた。

隣にいるアザゼルは心中で『ほどほどにな』と思いながら、茶を口にした。

魔王主催のパーティーの日、結果的にではあるが、禍の団(カオス・ブリゲード)の襲来を受けることとなった。

やってきたのは、冥界で指名手配中のSS級はぐれ悪魔、黒歌と孫悟空の末裔、美猴、そして、聖王剣の使い手だ。

その事態も、リアス・グレモリーの眷属である御剣昴と、最上級悪魔のタンニーンの両名の活躍により、最小限に止めることができたが、天使側、堕天使側は、悪魔側の警戒心の有無を問うていた。

堕天使側はシェムハザが、天使側はセラフ達が怒りを露わにしていた。一方、アザゼルはその騒動の時、ハメを外してカジノに夢中であったため、肩身の狭い思いをしていた。

だが、事件はすでに収拾がついている。リアスと小猫が毒にあてられたが、小猫自身が自身の猫又の力の一端を解放し、解毒したため、軽傷で済んだ。襲撃の方も、まさかはぐれ悪魔の黒歌が使い魔を使役してパーティーを身に来ていたなどとは誰にも予想できないであろう事態のため、深くは追及を果たさなかったようだ。

魔王の妹、リアス・グレモリーは無事、赤龍帝である御剣昴は修行の成果をいかんなく発揮し、小猫は自身の力の解放を果たした。パーティーは中止となってしまったが、大局を見ればそれなりの収穫とも言えた。

会談ルームの別の場所では、小柄化したタンニーンと上役達がもうすぐ開かれるリアス・グレモリーとソーナ・シトリーの戦いの予想をしていた。

「俺は当然リアス嬢を応援させてもらおう。あそこには俺の友である御剣昴がいるのだからな。昴を有して負けるなどとは考えられんことだ。あいつは上級悪魔はおろか、最上級悪魔でも勝つことは至難の業だぞ」

「アザゼルのもたらした知識はレーティング・ゲームで革命を起こしそうだ。場合によっては、半年以内に上位陣が変動するかもしれない」

「そうであるなら面白い。ここ十数年もの間、トップ10名に変化がありませんでしたからね。これでゲームも面白くなるというものです」

過去の遺恨を全く感じさせない、緊張感のない空気が会談ルームを包む。

その時、部屋の扉が静かに開かれた。そこから現れた人物に部屋にいる全ての者が度胆を抜かれた。

「ふん。老体がやってきたというのに、出迎えの1つもできんのか」

古ぼけた帽子を被り、白く長い髭を蓄え、質素なローブに身を包み、手には杖が握ったご老体。その正体は・・・。

「おーおー、随分と久しぶりじゃねぇか、北の田舎クソジジイのオーディン」

アザゼルが悪態を吐く。

現れた人物は、アースガルズの主神である、オーディンであった。後ろには戦乙女であるヴァルキリーが控えていた。

「久しいの、悪ガキ堕天使。長年敵対していた者と手を取り合ったようだが、今度はどんな悪さをするつもりなんじゃ?」

「ハッ! こちとら、古臭いしきたりを重んじる田舎神族と違って俺ら若輩者は思考が柔軟なんだよ。敵対するより共に発展だよ」

「負け犬らしい尤もな屁理屈じゃな。所詮は親となる神と魔王を失った小童の集まりじゃ」

オーディンとアザゼルは口々に皮肉を言いあった。

「お久しゅうございます。北の主神オーディン殿」

そこへ、サーゼクスが席を立ち、オーディンを招いた。

「サーゼクス。ゲーム観戦の招待、来てやったぞい。お主も、本来の血筋であるルシファー眷属が白龍皇で、しかもテロリストとは難儀よのう」

オーディンが皮肉気に言ったが、当のサーゼクスは笑みを浮かべたままであった。

「それにしても、セラフォルーよ。その格好はいったいなんじゃな?」

オーディンは、奇抜な格好をしているセラフォルーが気にかかり、尋ねた。

「オーディン様! これは魔法少女ですわよ☆ ご存じではありませんか?」

セラフォルーは横向きのピースサインを目元に当てながら答えた。相手が主神オーディンなだけに、周りはヒヤヒヤとしていた。

「・・・最近の若い者の流行りはわからんのぅ。・・・だが、これはこれで悪くないのぅ・・・」

オーディンは顎髭に手をやりながらセラフォルーの脚や短いスカートから覗く下着をまじまじと見ていた。

「オーディン様! 卑猥なことはお止めください!」

後ろに控える戦乙女ヴァルキリーがオーディンを諌めた。

「やれやれ、お主は相変わらず堅いのぅ。そんなことだから未だに浮いた話の1つも出てこんのじゃ」

「そ、それは今関係ないではありませんか! 私だって好きで独り身なわけでは・・・うぅっ・・・!」

オーディンの一言に、そのヴァルキリーはたちまち泣き出してしまった。

「それより、聞いとるぞ。サーゼクス、セラフォルー。お主ら、身内同士を戦わすそうじゃな。詳しく聞けば、妹達は親友同士というではないか。さすがは悪魔。タチが悪いのぅ」

「この程度の試練、突破できないようであれば悪魔の未来に希望は生まれません」

「うちのソーナちゃんが勝つに決まってるわ☆」

両魔王共に自身の妹の勝利を信じている口ぶりで言った。

「さてと、禍の団(カオス・ブリゲード)もいいが、儂はレーティング・ゲームを観に来たんじゃ。日取りはいつなのかのぅ」

オーディンの突然の来訪により、話は禍の団(カオス・ブリゲード)から今度行われるレーティング・ゲームの話題に変わっていった。

たくさん要人が集まる席の中、アザゼルが休憩すると告げて席を立ち、廊下に出て、そこに備え付けてある長椅子に腰掛けた。そこで休憩していると、サーゼクスが現れ、隣に腰掛けた。

「アザゼル、ゲームが始まる前に1つ尋ねてもいいだろうか?」

「なんだよ?」

「お前がリアスの対戦相手なら、誰を確実に取りにいく?」

「昴だな。あいつはリアスチームのもう1つの支柱と言っても過言ではない。実力、戦略理解度も高い。あいつがいる限り、眷属のテンションが落ちることはないだろう」

昴の存在は眷属の中でかなり重要なものとなっている。何事にも屈しない不屈の精神。強者を打ち倒す屈強なる力。機転の良さと知力の高さ。リアスを含む、眷属全体から、厚い信頼を受けている。

「・・・ソーナは間違いなく狙うだろうな」

「ああ、間違いなくな。問題は取られた時だ。奴等の気力が上がるか、それとも落ちるのか。奴等はまだ『赤龍帝』としての昴を目の前でやられたことがないからな」











          ※ ※ ※


昴side

日にちは経ち、シトリー眷属の決戦前夜となった。

部長を始め、俺達眷属はアザゼル先生の部屋に集まり、最終ミーティングをすることになった。

余談であるが、先日の襲撃の件だが、禍の団(カオス・ブリゲード)の中でも危険視されているヴァーリの眷属を退けたことで、部長の評価が上がったらしい。

「昴、禁手の状態はどうだ?」

アザゼル先生が俺に尋ねてきた。

「はい。以前にも言いましたが、鎧を維持できる時間はおよそ14日程で、変身まで時間もほとんどかかりません。着脱もその時間内なら何度でもできます。ブレイブ・ハートを発現させたり、赤龍砲を高出力でぶっ放したり、はたまた連射や一斉掃射を繰り返せば維持できる時間はその都度減少していきます」

「そうか。うん、過去の赤龍帝のデータの通りだな。順調に成長して何よりだ。・・・さてと、リアス。ソーナ・シトリーはお前らのことをどれだけ把握している?」

「・・・ほとんど把握されているでしょうね」

部長は苦々しい顔で言った。

ライザーとのゲームの一戦の一部の映像が公開されているという話だし、ギャスパーの神器や小猫ちゃんの素性も割れているらしい。逆にこちら側は・・・。

「お前は向こうのことはほとんど把握できてないわけだな」

部長はコクリと頷いた。

こっちは会長側のことはあまり把握できていない。精々、副会長のことと匙の神器くらいだろう。これは向こう側にとってはかなりのアドバンテージだろう。

「まあ、その辺は実際のゲームで良くあることだ。そこは状況に応じて対応していけばいい。相手の数は8名か」

向こうは王『キング』が1、女王『クイーン』が1、戦車『ルーク』1、騎士『ナイト』が1、僧侶『ビショップ』が2、兵士『ポーン』が2の計8名。数の上ではこちらと同じだ。

アザゼル先生が用意したホワイトボードに何かを書きはじめた。

「レーティング・ゲームはプレイヤーに細かなタイプをつけて分けている。パワー、テクニック、ウィザード、サポート。この中でなら、リアスはウィザードタイプ。いわゆる魔力全般に秀でたタイプだ。朱乃も同様だ。木場はテクニックタイプ。スピードや技で戦うタイプ。ゼノヴィアはスピード方面に秀でたパワータイプ。一撃必殺を狙うタイプだ。アーシアはウィザード寄りのサポートタイプ。ギャスパーはテクニック寄りのサポートタイプだ」

アザゼル先生が次々と皆のタイプを説明していく。

「最後に昴だが、お前自身はテクニックタイプだ。スピードもあるしな。だが、セイクリッド・ギアがあるからパワーとサポート、場合によってはウィザードタイプとしてもいけるだろう。言うなりゃ、テクニック寄りの万能タイプだな」

なるほど。魔力に関しては、火や水などの基本的な魔法は撃てるようになった。だが、威力は乏しく、精々、目暗ましといった程度だ。もともと魔術や魔法に対するセンスがないからな。だが、目一杯力を譲渡すれば、かなりの威力にはなる。ただ、威力の調節が効かないし、狙いも上手くできないからあんまり使いたくはないが・・・。

アザゼル先生はパワータイプに分類されるゼノヴィアと小猫ちゃん。ついでに俺を丸で囲った。

「パワータイプはとにかくテクニックタイプのカウンターに気を付けろ。カウンター系能力の神器を身に付けている相手と戦う場合、カウンター一発で形勢逆転されることもある。カウンターはこちらの力プラス相手の力が加わって自分に返ってくるからな。自分が強ければ強い程受けるダメージも尋常じゃない。これは常に警戒しておけ」

おっしゃる通りだ。ゼノヴィアのデュランダルや俺の赤龍砲を返されたら被害は尋常じゃないだろう。ここは慎重を期さないとな。

アザゼル先生はペンの蓋を閉めると、俺達を見渡した。

「お前達が今回のゲームでの勝率は80パーセント以上とも言われている。俺もお前達が勝つと思っているが、勝負に『絶対』はない。たとえ、可能性が1パーセントだろうと、その可能性を実現させた連中を俺は見たことがある」

ジャイアント・キリング。歴史を見ても、圧倒的有利をひっくり返した事例はいくつもある。諦めない限り、そこには可能性が絶対にある。

「俺からの最後のアドバイスだ。絶対に勝てると思うな。絶対に勝ちたいと思え。俺からは以上だ」

アザゼル先生の話しはこれで終わった。

その後、アザゼル先生を抜いたメンバーで決戦日までの戦術を話し合った・・・。


side out









          ※ ※ ※


NOside

同日同時刻。シトリー家の本邸にて、グレモリー眷属と同じく、ソーナ・シトリーとその眷属も翌日に行われるレーティング・ゲームの最終ミーティングを行っていた。

「以上が、グレモリー眷属の詳細なデータです。細かい作戦は当日に発表されるバトルフィールドとルールに照らし合せながら決めるつもりです。各自、後でもう一度渡したデータに目を通しておくように」

「「「「はい!」」」」

ソーナが、厚さ数センチもある冊子をめくりながら言った。同様の物をシトリー眷属の面々も手にしている。

この冊子には、リアス・グレモリーを始め、グレモリー眷属の各メンバーの詳細なデータが記載されていた。それは、各々のプレイヤータイプや所有している神器や武器などの重要なものや、現状で考えられる対処法。さらには体格や趣味など、一見、ゲームには関係がなさそうなものまで記載してある。

情報とは、あって困るものではない。ゲームにおいて、どんな些細なことやつまらない情報でも、それがゲームに有利に運ぶことになったり、場合によっては勝利をもたらす可能性もある。そのため、ソーナは可能な限り情報をかき集め、それをまとめ、眷属達にデータとして手渡していた。

「特に匙。あなたに渡したデータには特別に重要な箇所には線が引いてありますから、そこだけでも必ず頭に入れておきなさい」

「は、はい!」

ソーナの言葉に匙が元気よく答えた。

「お話は終わりましたか?」

そこへ、1人の男が現れた。

「シェムハザ様」

その男とは、グリゴリの副総督である、堕天使のナンバー2のシェムハザだった。今回、シェムハザはアドバイザーとしてシトリー眷属を指導していた。

「データを見させてもらいました。いち、ゲームにおいて、ここまで相手のことを調べ上げた者はいないでしょう。実に素晴らしいことです」

「ありがとうございます、シェムハザ様」

賛辞の言葉に頭を下げて礼を言うソーナ。

「此度は、あなた達に見せたいものがあってこちらに来させていただきました」

「見せたいもの、ですか?」

シトリー眷属の女王『クイーン』である真羅椿姫がポツリと呟く。

「本当は見せるかどうか悩んでいたのですが、君達のゲームへ臨む姿勢を拝見させていただいた結果、見せることに決めました」

シェムハザが魔力でモニターのような物を発現させた。

「これからお見せするのは、先の駒王協定の折に、グレモリー眷属の兵士『ポーン』赤龍帝、御剣昴と、白龍皇、ヴァーリの戦いの模様をおさめた記録映像です」

「「「「!?」」」」

その言葉にシトリー眷属一同が驚愕した。

「あ、あの・・・」

シトリー眷属の戦車『ルーク』である、由良翼紗がおそるおそる手を上げた。

「リアス様達は私達のことをあまり把握していないとお聞きしています。それを見てしまったら不公平ではないかと」

相手の事を詳細に知るシトリー眷属に対し、グレモリー眷属はシトリー眷属のことを半分も把握できていない。これでは公平ではない。と、判断した。

「・・・おっしゃることはわかります。ですが、この映像を見ても同じことが言えますかね?」

シェムハザはその記録映像を流し始めた。











・・・・・・・・・・
・・・・・・・
・・・・


流された記録映像は、最後、美猴に介入されたところまで流され、終了した。

「「「「・・・」」」」

その記録映像を見たシトリー眷属は、一同に言葉を失っていた。

「これが赤龍帝・・・」

「私、姿をほとんど捉えれなかった・・・」

「あんな威力の砲撃を連発されたら避けられっこないよ・・・」

口々に弱音を吐いていった。

赤龍帝、御剣昴の情報も当然、データとして頭には入っていた。だが、実際戦いを目の当たりしたことはなかった。その光景は、予想をはるかに凌駕していた。

「この時点では、白龍皇のヴァーリの方が2枚・・・いや、3枚程上と言ったところでしょうか」

「あいつは、そんな格上の奴を倒したのかよ・・・」

匙も同様に驚嘆しながら呟いた。

「ですが、私の推察を言わせていただければ、仮に、10回戦闘を行えば、7〜8回は赤龍帝が勝利を収めると思いますよ」

「「「「・・・」」」」

その言葉を聞き、さらに沈み込んだシトリー眷属。

「此度のゲーム。あなた方の勝率は、ひいき目に見ても1割程でしょう。周りも同様の見解です。ですが・・・好都合ではないですか」

「えっ?」

「皆さんにお聞きします。勝利とは何ですか?」

シェムハザはシトリー眷属に問いかける。

「勝利というものを1つの側面から見てはいけませんよ。勝利とはそれによって大きな何かを得ることでもあります。何も得られなければ、それは勝利とは言えません」

「えっと・・・、どういう意味ですか?」

匙が言ってる意味が理解できず、問い返した。

「勝率が高いと予想されるグレモリー眷属は、ただ勝利を収めても評価があがることはないでしょう。場合によっては下がることも考えられる。ですが、勝率が極端に低いあなた方は、善戦するだけで高い評価を得ることができる。この差は大きいですよ? 完勝を目指さなければならないグレモリー眷属は打てる策が限られますから作戦も読みやすい。降りかかる重圧もこちらの比ではありません。中には優位性により少なからず慢心している者もいるかもしれません」

シェムハザは尚も言葉を続ける。

「可能性は、0ではない限り、そこにあるのですよ。このゲームを是非、次に、ひいては、あなた方の夢に繋がるゲームにしてください。・・・と、長話になってしまいましたね。それでは私はこの辺で失礼させていただきます。皆さん、健闘を祈っていますよ」

そう締めくくり、シェムハザはその場を後にした。

シェムハザの言葉を聞き、先程まで沈み込んでいた時とは対象に、シトリー眷属の目に大きな力が宿っていた。

「では、先程見せていただいた記録映像をもとに彼の対策を立てましょう。・・・結論から言って、現状の私達の戦力と実力では、彼と戦って勝つのは不可能に近いでしょう」

「そんな! じゃ、じゃあ、俺達は勝てないんですか!?」

匙が立ち上がりながら叫んだ。

「誰もそんなことは言ってません。私達は戦いで勝つのではなく、ゲームで勝てばいいのですよ」

ソーナがメガネのブリッジを押し上げた。その瞬間、メガネのレンズがキラリと光った。

決戦前夜。各々が作戦を立てていく。

翌日、グレモリー眷属とシトリー眷属のレーティング・ゲームが、始まる・・・。











続く

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