小説『プライベート・ホスト』
作者:ウィンダム()

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そんな強がりを言う昭吾に玲子は、
 
   そう・・・。でも、高をくくらないほうがいいわ。
   相手は曲りなりとも国家権力なのよ、あなたが考えているほど甘いものじゃないわ。
   それに、あなたいつかわたしに言ったわよね? 
   行動の自由を確保し遣り易くするためには目立たないことが一番だって。
   なら、少し身辺に気をつけるべきじゃない?

玲子にそう言われた昭吾は返答ができずに黙り込む。
暫くすると昭吾は、

   ・・・確かに、君の言うとおり、そうかも知れないね。
   なんと言っても行動の自由が確保されていることは、
   ビジネスを遣りやすくするための絶対的な条件だからね。
   当分遣りにくくなるだろうね。

玲子は遠くの景色を眺めながら、
 
   ねえ、これからもビジネスを続けていくの?
 
   ああ、続けていくよ。
   他に実入りのいいビジネスはないからね。
 
   そう・・・。
   でも、これからは十分に用心しないとならないわね。
   誰にも疑われたり嫌疑が掛からないようにしないとね。

玲子の言葉に昭吾は考える。
暫くすると玲子は、
 
   ねえ、いい方法があるわ。

と切り出してくる。
 
   いい方法? どんな?

玲子は昭吾を見ると笑みを浮かべて、
 
   わたしはこの学校では礼儀正しい優等生、勿論、それは近所でも家でもね。
   だからこれをカモフラージュにすれば、あなたをわたしのオンリーにすることができる。
   そして誰にもその関係を知られはしない。
   周囲にはわたしとあなたが、お付き合いしている普通のカップルにしか見えない。
   わたしとあなたを監視下に置く公安警察だって、そんなこと絶対に分からない。
   どう? いいアイデアだと思わない?

昭吾は玲子の提案に驚くと同時に呆れながら、
 
   ハハ・・・、君のオンリーになれってか?
 
   そういうこと。

とにこやかに話す玲子に半ば呆れながら感心する。

   しかし君は大胆な事を考え出すね。
   それに、オンリーなんて言葉をどこで覚えたのか知らないけれど、
   女子高生の使う言葉じゃないことは確かだよ。

笑う昭吾に玲子は真顔で、 

   綺麗事言ってる場合じゃないわ、あなた生きるためにビジネスをしているんでしょ?

   それはそうだけど、しかし、だからと言って何をしてもいいとは限らないさ。
   それに、俺をオンリーで囲える経済力が君にあるわけない。

   あら、わたしを見くびらないで欲しいわ。
   わたしは高校生かも知れないけれど、あなた一人くらい養える財力はあるのよ。

そう豪語する玲子に思わず、

   まさか!

と笑うと、 

   ウソじゃないわ!
   わたしには生前贈与という形で受け継いだ遺産の一部があるのよ。
   だからわたしはあなたのリピーターでいられたのよ。

昭吾は驚きながら玲子を見ると、
 
   へえ、それは知らなかったな。
   すると君はセレブな高校生ということか。
 
   そうよ、わたしはセレブな女子高生よ。
   あなたセレブが専門なんでしょ? 
   だったらわたしはあなたの専門に沿ってるはずよ。
 
   しかし、そんなこと言っても、オンリーなんか抱えたら、いかに受け継いだ遺産があろうとも、
   そんなカネなんてあっというに間になくなっちまうぜ。

玲子は笑いながら、
 
   アハハハハ、あなた何も分かっていないわね。
   わたしの受け継いだ遺産はプロのファンドージャーによって運用されているのよ。
   だからあなたへの報酬なんて、その運用収益からいくらでも払えるわ。
 
   すると君は利息で食えるってこと?
 
   そうね、下賎な言い方をすればそうなるわね。
 
   ヒュー! たいしたものだ、君が大口預金者だったとはね。
 
   大口預金? 違うわ、ヘッジファンド運用よ。

玲子の話に昭吾は驚く。
 
   ヘッジファンドだって? へえ、こいつは驚いた!
 
   あら、あなたヘッジファンド知っているの?

   ああ、知っているよ、リピーターからよく聞くよ、その話。
   オフショアに本拠を構えるヘッジファンド。
   確か最低出資額が一億円以上で99人までしか応募できない。
   残りの一人はファンドマネージャーで、自らが身銭を切り総勢百人で運用スタートする。
   そして弾き出すリターンは軽くテンパーを超える、というより二十パー、三十パーはざらだという。
   富裕層相手の資産運用ビジネス、それがヘッジファンド。

玲子は感心ながら、  
 
   よく知っているじゃない、さすがセレブ専門は違うわね。

と感心しながら笑うと、昭吾を見つめて、
 
   ねえ、これでもわたしを、ションベン臭い小娘だなんて思う?

昭吾は苦笑しながら首を振ると、
 
   いいや、君はセレブなお嬢様さ。
 
   そう、ありがとう。
   それじゃ、キマりね?
   あなたはわたしのオンリーよ、もうオバサン達なんかに好きにはさせない。
   あなたはわたしだけのオンリー・・・。

微笑む玲子。
しかし昭吾は、

   いや、それは断る。

玲子は話の腰を折られたかのように怪訝な顔で、
 
   どうして?

   前にも言ったとおり、俺は君とビジネスの関係でいたくないんだ。
   君とはプライベートな関係でいたんだ・・・。

玲子は昭吾の考えを変えさせようと、
 
   何を言ってるの? 今の状況が分かっているの? 
   そんなこと言ってる場合じゃないのよ、わたしとあなたは監視下に置かれているのよ、
   それが分かっているの?
 
   ああ、分かっているさ、
 
   なら、なぜ断るの? 
   誰にも知られず怪しまれることなくあなたが安全にビジネスを続けるには、これしかないのよ!

懸命に説得しようとする玲子に昭吾は、
 
   確かに君の言う通りかもしれない。
   それに、俺の身を案じてくれる君の気持はとても嬉しいよ、ありがとう。

そう言って席を立つ昭吾は、
 
   お互い身辺に注意しようよ、じゃ。

と笑って手を振ると観覧席を後に歩き出す。
そんな昭吾に玲子は、
 
   待って!

昭吾を呼び止める玲子は、

   現実を考えなさいよ、わたしはともかく監視対象にされたあなたが、
   これからどうやって公安の目を掻い潜ってビジネスができると思うの? 

問い質す玲子に昭吾は、
 
   俺のビジネスなんて所詮は男女の色事さ。
   生物として抗えない本能に根ざすものを法律で規制できるなんて考えるほうが間違っているよ。
   相手が公安だろうがなんだろうが本能に根ざすビジネスは、
   官憲の目などいかようにでも掻い潜れるものなのさ。

そう語ると笑って背を向け歩き出す昭吾に玲子は、
 
   バカ! あなたはバカよ! 

と投げつけた。

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