小説『プライベート・ホスト』
作者:ウィンダム()

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カプセルを開けると透明の液体が見える。
昭吾は一瞬躊躇いながらも透明の液体をグラスの中に入れる。

透明な少量の液体がワインに混ざり合う。

戻ってきた洋子はテーブルに着くと、
 
  はい、これ。

とパンフレットを出す。
 
  これは?
 
  留学案内よ。
 
  え、留学?
 
  そうよ、ねえ、アキラくん、外国の大学へ行かない? 
  もし行く気になったらわたしがあなたの身元保証人になってあげるわよ。

と笑顔で勧める。
 
  へえ、外国へ留学か・・・。
 
  いいわよ、ロサンゼルスは。
 
  え、ロサンゼルス?
 
  そうよ、ロスの大学へ留学するの、どう、素敵でしょう?
 
  ええ、確かに憧れますね。
 
  そう、考えておいてね。

と嬉しそうに笑う。

やがて食事が終わり二人でシャワーを浴びるとベッドで情事が始まる。
ムードを好む洋子は常に恋人の役目を要求してくる。
昭吾は洋子の反応を見ているが一向に眠気を起さない。
あのカプセルは効き目がないのかと疑問に思いながらもいつしか情事が終わる。
添い寝をしながら洋子は、
 
  ねえ、外国へ行って、わたしとボランティア活動をしない?
 
  ボランティア? それはどんなこと?

洋子は天井のミラーを見ながら、
 
  今の世界は経済的矛盾が大きくなっているわ。
  学校にも行けずに富裕層の住宅街でゴミ漁りをする子が多くいるわ。
  それも女の子よ、あなたと同じ年頃のコよ。
  そんなの目の当たりにすると、いくらなんでも酷過ぎるる経済格差よ。
  あなたもそれを目の当たりにしたら、きっとそう思うわ。

洋子はミラーに写る自分の髪を掻きあげると、
 
  わたしね、ワールドドリームというNPOに所属しているのよ。
  それは学校に行けない子供たちに経済的支援や学問を教えることを目的として設立せれているのよ。
  このNPOは世界各国に支部を持っているわ。
  そして経済的矛盾の直撃を受けている人々に救援の手を差し伸べる活動をしているの。

昭吾は感心して、
 
  へえ、それは素晴らしいことですね。

洋子はニコリと笑うと、
 
  あなたと同じ年頃の女の子が、生活の為に富裕層のゴミ箱を漁らなければならない。
  そのために学校にも行けない、そしてそんな状態を放置しているその国の政府。
  ねえ、アキラくんがそんな実態を目の当たりにしたらどうする? 
  そんな女の子にも学校へ行って勉強ができるように手を差し伸べてあげたいとは思わない?

昭吾は洋子の話を聞く。
どう考えても洋子の所属する組織が公安警察の言う国際テロ組織とは思えなくなってくる。
 
  そうですね、なんとかしてあげたいと思いますね。
 
  そう思うでしょう?

すると洋子は半身を起すと、
 
  ねえ、わたしと一緒にアルゼンチンに行きましょう、そして救援活動しましょう。

と笑顔で話してくる。
 
  しかし、僕は、まだ学校があるから・・・。
 
  うふん、勿論、卒業してからよ、そしてロスの大学へ留学して、アルゼンチンで活動するのよ。
  ロスの大学には私たちの仲間の教授たちがいるわ・・・。

話し続けている洋子は次第に呂律が回らなくなってくる。 
 
  どうしたのかしら・・・、とても眠くなってきちゃった・・・。
 
  きっと疲れが出たのでしょう、少し休んでください。
 
  そう、なんか・・・悪い・・わね・・・、

と言っているうちに洋子は寝入ってしまう。

昭吾は眠ってしまった洋子を見ると、例の装備品を出して洋子の腕に当てる。
すると、プシュッ、という小さな音が聞こえる。
腕には赤く小さな注射痕のようなものが残っている。

どうやらマイクロ電子タグが体内インプラントされたらしい。

昭吾の胸には一抹の罪悪感が沸き起こる。
が、しかし、これも自分が生きるため。
そう心に刃を置くようにベッドから起き上がると、
昭吾は気持よさそうに寝ている洋子をそのままに身支度して部屋を出る。
そしてHホテルを出ると、例の公安刑事が立っている。
 
  任務成功したようだね。

笑顔で話す公安刑事に例の装備品を返すと、
 
  うむ、協力ありがとう、これで君は自由の身だ。
  君への監視は解除される。

刑事は昭吾を見つめるとニヤリと笑い、
 
  それともうひとつ、幸せを掴めよ、彼女と一緒にな。

と笑って手を振ると、走ってきた覆面パトカーに乗り込み走り去っていった。

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