小説『プライベート・ホスト』
作者:ウィンダム()

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あくる日。

校内で玲子とかち合う。
玲子は昭吾を見ると昨日の不敵な態度と打って変わったようにニコリと微笑み、
そしてしおらしく会釈すると通り過ぎていく。

しかし今の昭吾は玲子の微笑みに違うものを見ている。
それはあたかも相手の弱みを握った者が見せる優越の笑みを・・・。

   ・・・まいったな・・・

昭吾は玲子の後姿を追いながら思わず呟いてしまった。

玲子は昭吾の秘密を握っている。
とすれば今後、玲子に対して迂闊なことはできない。
それどころか彼女は今後どんな要求を突きつけてくるかも分からない。

はてさて、どうしたものか・・・。

それから数日後。
授業中に携帯が振動する。

   魔子 PM1600 2H JRK駅北口

玲子からだ。
メッセージ内容はこの前と同じ。
昭吾は舌打ちするとメッセージを削除しようとするが自分の秘密を握っている以上それもできない。
やむなく昭吾は、

   OK

と返信する。

昭吾は制服姿のままK駅北口で待った。
腕時計を見るとPM1600ジャスト。
すると後ろから肩を叩かれる。
振り向くと制服姿の玲子が笑みを浮かべている。
 
   来てくれたのね、さすがプロフェッショナルね。

玲子は昭吾の姿を一瞥して問う。

   今日はスーツじゃないの?

身形を尋ねる玲子を白けた目で見る昭吾。
 
   なんの用さ。

玲子は昭吾を見つめると封筒を差し出し、
 
   ギャラよ、受け取ってくれるわよね?

と昭吾の目を見る。
昭吾は玲子から視線を外すと溜息を吐きながら、
 
   しょうがないな・・・。

と呟くとギャラを受け取る。
玲子は嬉しそうに微笑むと、
 
   じゃ、いまから2時間、あなたはわたしのプライベートホストよ。

昭吾は嬉しそうな笑顔を見せる玲子に、
 
   で、今日はどうしたいの?

玲子は昭吾の隣に立つと、
 
   そうね、まずプレイ内容から説明して。

相変わらず際どい話をさらりとしてくる玲子。
呆れる昭吾は思わず苦笑し、
 
   ふふ、いいよ、説明する。でも、ここで立ち話もなんだからあそこのベンチに座りながら話そう。

歩道に設置されているベンチを指し示すと玲子は、
 
   あのベンチ? ムードがないわね、それだったらTデパートの1階にあるコーヒーショップにしない?

昭吾は玲子の要望に従い、
 
   わかった、そうしよう。
 
   あら、案外素直なのね。
 
   俺は今、君のプライベートホスト、お客様のご要望にお答えしているまで。
 
   へえ、面白いわね。

昭吾と玲子はアーケードを通り左に曲がると広場を歩きそのままTデパートに向かう。
 
   ねえ、黒崎君。

話しかける玲子に、

   アキラと言ってくれよ、今の俺はビジネスタイムだから。

玲子はそんな昭吾を見ると、
 
   そうだったわねアキラさん、ごめんなさいね。
 
   いいよ、もう、で、なにさ?
 
   世の中って面白いわよね。

と笑う。
 
   どうして?
 
   だってそうじゃない? 傍から見れば私たちは学校帰りの高校生カップルにしか見えない。
    でも、その実態は、お金で買ったホストを従える女子高生よ、傑作だわ!

大笑いする玲子に釣られるように昭吾も笑う。
 
   言えてるよ。じゃあ、今度は俺から聞くけど・・・。
 
   何よ?
 
   君みたいな頭脳明晰で綺麗な子が、なんだって俺のような男をカネで買うのさ? 
   そんなことしなくたって君なら言い寄る男はいくらもいるだろう?

すると玲子はキッとなると、
 
   煩いわね、余計なこと聞かないで!

ピシャリと叩く玲子に昭吾は笑みを浮かべて顔を逸らす。

やがて二人はTデパートのコーヒーショップに着く。
店外のガーデンに並んだ白いテーブルとイスを見ると玲子は、
 
   ここにしましょう。

ガーデンの隅のテーブルにつくと、昭吾は
 
   コーヒー買ってくるけど、銘柄は?
 
   そうね、今日は気温も高いから、アイスコーヒーでいいわ。

昭吾はアイスコーヒーを二つ持ってくるとテーブルに着き、一つを玲子に渡す。
 
   はい、ミルクとガムシロ、それとストロー。

と玲子の前に置くと、
 
   ありがとう、で、いくら?

   いいよ、奢るよ。
 
   でも・・・、

カネを払おうとする玲子を、

   いいから。

と制止する。

   そう・・・。

玲子はストローに口をつける。
暫くすると、
 
   ねえ、さっきの話だけど、プレイ内容を説明して。

昭吾は興味津々といった感じの玲子を見ると笑みを浮かべて、
 
   人は見かけに寄らないって言うけど君はまさにその通りだね、そういうことに興味あるの?

笑いながら聞いてくる昭吾に、
 
   そうよ、だから聞いているのよ。

と、あっけらかんとして答える。
昭吾は呆れながら笑うと、
 
   プレイ内容かい? オールマイティさ。
 
   オールマイティ? なぁに? それって。
 
   お客様のお望みに全てお応えする、つまりなんでもござれって事さ。
 
   へえ、なんでもいいの?

と笑う玲子に、
 
   まぁ、そういうこと。ただし、生命に関わることや犯罪に関わることはダメだけど・・・。

玲子は昭吾を見ながら笑みを浮かべると、
 
   そう、じゃ、わたしを抱いてと言えば、そうするの?

大胆に聞いてくる玲子に苦笑しながら、
 
   ああ、そうしてほしけりゃ、そうするよ。
 
   へえ、じゃ、抱いてよ、いますぐ。

コーヒーに口をつけた昭吾は咳き込むと呆れるように、
 
   ちょ、ちょっと待てよ、いくらなんでもこんな公衆の面前でそんなこと出来る訳ないだろう!
   だいだい俺と君のナリを考えろよ、制服着ているんだぜ。

文句を言うと玲子は笑いながら、
 
   ふん、なによ、なんでもいいって言ったくせに。
 
   待てよ、公衆の面前だと言っているだろう?
   しかも制服着用の高校生の俺たちが、そんなことしたらどうなると思ってんだ? 
   官憲にパクられないまでも同じ学校の連中に見られるだろう? 
   ただでさえこの辺りはそんな連中が多いんだ、
   今ここで、こうやって君と二人でコーヒー飲んでいるところだって、
   誰かに見られているかも知れないんだぜ。
 
   いいじゃないよ、見られたって、別に悪いことしているわけじゃないんだから。

昭吾は玲子の言い分を聞くとニヤリと笑い、
 
   いや、悪いことさ。今の俺と君は普通の高校生同士のカップルじゃない。
   カネで買われたホストと客の関係さ。

玲子は昭吾の言い分を笑うと、
 
   確かにそうね、あなたの言うとおり。でも、そんなこと誰が判ると言うの? 
   黙ってれば誰にも判らないことじゃない。それにこれで誰かが迷惑している訳じゃなし、
   だったら何も悪いことしていないに等しいじゃない、違う?

昭吾は玲子の論法に思わず苦笑し、
 
   たいしたタマだな君は・・・。さすがに成績有鬚なだけあるよ。

感心しながら玲子を見ると、
 
   まあいい、君の論理は一理あるとしても、
   考えなければならないことは誰かに見られることによって広まる噂だよ。
   いま君とここでコーヒー飲んでいることを誰かに見られることによって流布される噂と、
   公衆の面前での派手な行為を見られることによって流布される噂は質が違う。
   あらぬ噂が立てられればそれだけマークされ易くなり、なにかとやり難くなる。
   行動の自由を確保し遣り易くするためには目立たないことが一番なのさ。
   明晰な頭脳を持つ君なら俺の言うこと解るだろう?

玲子は昭吾を見続けると、
 
   解ったわよ、それなら誰も見ていない所でならいいのね?
 
   まぁ、そう言うこと。
 
   ふーん、そう・・・。じゃ、あなたは、誰も見ていない所でいつもそんなことばかりしてきたの?

と聞いてくるので昭吾は開き直るように、
 
   ああ、そうさ、そんなことばかりしてきたのさ。それが俺を指名してきたお客さんのお望みだからね。

玲子は昭吾を見ながら、
 
   呆れた・・・。

そう呟く玲子に思わず笑う昭吾は、
 
   ハハハ、呆れたって? そんなことこっちのセリフだよ。
   どこの世界に高いカネ払ってホストを買う女子高生がいるのさ?

呆れながら笑う昭吾に玲子は笑みを浮かべながら、
 
   ねえ、わたしの隣に座ってくれない?
 
   いいよ。

昭吾はイスをずらすと玲子の隣に座る。
玲子は街並みを眺めながら、
 
   ねえ、いつもどんな人達をお相手にしてるの?
 
   ん? セレブさ。
 
   セレブ?
 
   そう、資産豊富だけど、女として相手にされなくなった中高年女性を相手にしているのさ。
 
   なんでそんな人達のお相手をしているの?
 
   そうね・・・、まず第一にお金があるから。いろんなもの買ってくれるし、食事も奢ってもらえる。
   第二に可哀想だから。
 
   可哀想? なぜ?
 
   なぜって、だってそうだろう? 
   誰からも女として相手にされなくなったり扱われなくなったりしたら、
   こんな寂しいことってないだろう? そう思わない? 
   例えばさ、君が女として誰からも相手にされないとしたら、こんな哀しく寂しいことはないだろう?

昭吾は注意深く玲子を見る。
玲子は目を逸らして俯く。

   だから俺はそんな人達にもう一度女としての喜びを体験させてあげているのさ、そして感謝される。
   言わば一種の人助けさ。
 
   ふ〜ん・・・。

感心して聞いている玲子に昭吾は、
 
   ところで、君はなぜ俺を指名したの?
 
   ちょっとね、興味を感じたからよ。
 
   それはプライベートホストの正体に? それともエッチなこと?

ズバリ問いかける昭吾に笑みを浮かべると、
 
   両方よ。

昭吾は意外といった顔で、
 
   へえ、プライベートホストの正体を知りたいという理由なら分からないでもないけど、
   でも、君のような優等生がエッチに興味があったなんて、正直言って驚いたな。
 
   優等生はエッチなことに興味もってはダメだなんて、そんなこと誰が決めたのよ?
   優等生は模範囚なんかじゃないわ。
 
   でも、君は女の子だろう?
 
   だったらなんなの? 女の子はこんなことに興味持っちゃダメだなんて言うつもり?
 
   いや、別に、そうじゃないけどさ・・・。

玲子は昭吾を見つめると、
 
   女の子だって、けっこう興味あるのよ。ねえ、わたしのように同い年の子には興味を持たないの?
 
   ないね。
 
   なぜ?
 
   なぜって、前も言ったとおり、俺は小娘に興味はない。
   なんたって大人の女の魅力には敵わないからね、財力はあるし面倒見はいいし。
 
   ふ〜ん・・・。

暫く沈黙すると、
 
   ねえ、どうしてプライベートホストなんてしているの?
 
   その質問は君に関係のないことさ。

するとアラームが鳴り、
 
   おっと、時間だよ。

と席を立とうとすると、
 
   ねえ、予約って当日じゃなければダメなの?
 
   いや、一週間先までならOKだよ。

帰る仕度に掛かる昭吾は、
 
   ところで、君、家は近く?
 
   ええ、まぁね。
 
   送ろうか?
 
   遠慮するわ、でも、なんで?
 
   え、いや、君みたいなタイプが一番危ないからさ。
 
   へえ、そうなの?
 
   そうだよ、君のようにどこか大人しそうな子が一番狙われやすいんだ。
 
   心配してくれてるの? アキラさん。
 
   アキラ? 黒崎でいいよ。もうビジネスタイムは過ぎたんだから。
   ここから先はプライベートタイム、だからスクールメイトとしての気配りさ。
 
   そう、それはありがとう。だけど、プライベートタイムのあなたに興味ないの。
   でも、アキラさんでいるときのあなたにならとても興味を感じているわ。

玲子は昭吾を見つめると、
 
   今日はとても楽しいひと時をありがとう、いずれまたお相手をヨロシク、じゃね。

手を振る玲子は昭吾を残して一人帰っていった。

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