小説『プライベート・ホスト』
作者:ウィンダム()

しおりをはさむ/はずす ここまでで読み終える << 前のページへ 次のページへ >>

或る日の夕方。

例によって昭吾はリピーターの待つ場所へプライベートホストとして赴く途中だった。
今夜のお相手は某一流ホテルのスイートルームで待っているスーパーセレブ。
昭吾にとって数少ない上客の一人。
気を張る相手のためか、今夜の昭吾は頭の先から爪先までブランドでキメるという念の入れよう。
昭吾はK駅ロータリーでタクシーを拾うと某一流ホテルへと向かった。
今夜のリピーターは直接部屋に行くことができない、そのためラウンジで待つことになる。
ラウンジのソファでコーヒーを飲みながらリピーターが迎えに来るのを待っていると背後から肩を叩かれる。
リピーターの迎えとばかりに振り向くと、なんとそこにはドレスアップした玲子がいる。
昭吾を見ながら笑みを浮かべる玲子は、
 
   ここでなにしてるの?

玲子は、驚いて自分を見る昭吾の形を一瞥すると、
 
   へえ、随分とキメているのね。

感心している玲子に昭吾は、
 
   あ、いや、その・・・、君こそなぜここに?

しどろもどろしながら話す昭吾に、
 
   わたし? わたしは、明日このホテルのレストランで親族の結婚式があるのよ。

そう言うと昭吾の隣に座る玲子は、
 
   ねえ、もしかして、アレ?
 
   アレって?

玲子は惚ける昭吾を笑うと、
 
   ビジネスタイム、でしょ?

と昭吾を見つめる。
 
   今夜のお相手はどんな方?
 
   そ、そんなこと、君に関係ないだろう。

顔を逸らす昭吾に玲子は意味深な笑みを浮かべると、
 
   どうせエッチなことするんでしょ?

露骨に言われた昭吾は思わず感情的になり、
 
   煩い! 関係ないだろう!

と玲子を睨む。
 
   なによ、睨まなくてもいいじゃない、わたしはあなたのリピーターよ、

と笑みを浮かべる。
昭吾は溜息を吐くと、
 
   とんだリピーターだよ、君は。
 
   あら、どうして?
 
   だってそうだろう? 同じ学校の女の子が俺のリピーターだなんて、
   こんな話、聞いた事がない、第一誰がこんなこと信じると思う?

玲子は笑いながら、
 
   それでいいじゃない、わたしとあなたの関係は私たち以外に誰も知らないのよ。
   親も学校も担任の先生もクラスメートも誰も何も知らない。
   知っているのはわたしとあなたの二人だけ。
   ねえ、これってスリリングじゃない?

呆れる昭吾は、
 
   なにがスリリングさ、君は人の弱み付け込んでいるだけだ。
 
   人聞きの悪いこと言わないでくれる? いつ、わたしがあなたの弱みに付け込んだと言うの? 
   わたしとあなたは秘密を共有していると言っているだけよ。

玲子は昭吾に体を寄せて見つめると、
 
   仲良くしましょう、黒崎君。

と笑みを浮かべる玲子。
 
   今の俺はアキラだ。
 
   違うわよ、いまのわたしはあなたを指名したリピータじゃないのよ、スクールメイトよ、
   だからあなたは黒崎君よ。

昭吾は玲子を見つめると、
 
   それもそうだね。

笑う昭吾はメイクアップしドレスアップした玲子を改めて見ると、
 
   ふ〜ん、メイクすると大人っぽくなるんだね。なかなか素敵だよ。

玲子は笑みを浮かべると、
 
   そう、わたし大人っぽい? 黒崎君好みかしら?
 
   え? ああ、まあね。

玲子は照れながら、
 
   さすがプロのホスト、褒めるの上手ね。
 
   いや、君に対してはスクールメートとして接しているだけだ。
 
   そう、なら、ありがとう。

昭吾は玲子に、
 
   ところで、どこの部屋に泊まっているの?

玲子は昭吾を横目で見ると、
 
   なぜそんなこと聞くの?
 
   いや、べつに、ただなんとなく聞いてみただけ。
 
   そう? 今夜予約入れようかしら、場所はわたしの部屋・・・。
 
   今夜はダメ、これから会うリピーターが押さえているから。
 
   そう・・・、残念ね、せっかくエッチなこと教えてもらおうと思ったのに。

際どい言葉で笑う玲子に呆れ果てる昭吾はものも言えなくなる。
暫く沈黙すると昭吾は、
 
   君はさっき、秘密の共有と言ったけど、どうやら秘密は双方の秘密というこのようだね。

玲子は不思議そうな顔で、
 
   双方の秘密? なぜ?

昭吾は玲子を見据えて、
 
   学校での君は、もの静かで大人しく礼儀ただしい清純で成績優秀な女の子、
   でもそれは仮の姿、本当の君は積極的で大胆不敵、
   エッチにさえ興味を示す刺激を求める女の子、だろ?

玲子は昭吾の指摘に黙っていたが、そのうち噴出すように笑い出すと、
 
   ええ、そうよ、あなたの言うとおりよ。

昭吾を見つめながら、
 
   わたしは学校でそんな優等生を演じてきただけよ。でも、もうそんなこと沢山! 
   わたしは模範囚じゃない!

玲子はラウンジを行きかい談笑する人々を見ながら、

   わたしは自分らしく生きたい。でも・・・、それができない。

どこか寂しそうに俯く玲子は、昭吾を見やると、
 
   あなたの秘密がプライベートホストなら、わたしの秘密はあなたが指摘する本当のわたしよ。
   あなたの秘密を知っているのはわたしだけ、わたしの秘密知っているのはあなただけ。
   あなたとわたしは互いの秘密を知りえるフェアな関係よ。

そう告げると笑みを浮かべて玲子はソファを立ち、
 
   わたしはこれから親族とのディナーがあるので、じゃね。

と手を振るとラウンジを後にした。
立ち去る玲子を目で追いながら、
 
   ・・・互いの秘密を知りえるフェアな関係か・・・。

昭吾は玲子の持つ二面性がなんとなく解るような気がしてきた。
学校での大人しく清純な優等生としての玲子、でも、それは作られた仮の姿・・・。

その仮の姿でいなければならない玲子の苦悩。
昭吾にだけは誰にも見せない本当の自分を見せる玲子・・・。

昭吾は暫く玲子を優先的なリピーターとして扱うことにしようと、そんなことを考えていると、
目の前に黒いドレスを来た婦人が座る。
 
   久しぶりね、アキラくん。

ようやくリピーターのお出迎えだ。
昭吾は黒いドレスのスーパーセレブに連れられスイートルームへと消えて行った。

-5-
Copyright ©ウィンダム All Rights Reserved 
<< 前のページへ 次のページへ >> ここまでで読み終える