小説『プライベート・ホスト』
作者:ウィンダム()

しおりをはさむ/はずす ここまでで読み終える << 前のページへ 次のページへ >>

昭吾は思わず玲子を凝視すると噴出して笑い出す。
 
   フハハハハハ!
 
   なにが可笑しいのよ!
 
   いや、君にそんな趣味があったなんて・・・。
   それともそっち系のヘンな雑誌でも読んだのかなと思うと、つい可笑しくなって。

玲子は顔を赤らめると、

   煩いわね、引っ叩くわよ!

怒る玲子は、

   あなたオールマイティが売り物でしょ?
   だったら文句言わずに言うこと聞きなさいよね!

命令口調になる玲子に、
 
   ハイハイ、わかりましたよ、お姫様に仕える召使ね。

玲子は憮然として昭吾を見るとプイと前を向いて歩き出す。
昭吾は玲子の後を歩きながら、

   やれやれ、女子高生相手に召使プレイやらされるとは思わなかったぜ・・・。

自嘲しながら独り言を呟くと、玲子は振り向いて、
 
   なにか言った?
 
   いえ、女王様、じゃない、お姫様、なんでもありません。

と誤魔化しては見たが、もし、玲子がこのままエスカーレートして、
女王様だなどと言い出したらどうしようかな、と一抹の不安を覚
えた。

長い黒髪にアイマスク、真っ赤な口紅をつけ、黒のエナメルコルセットにハイヒールブーツ。
そして手には鞭を持ったミストレスの玲子を想像する・・・。

するとこれが案外サマになることが判ると思わずニヤリとする。
 
   なに独りでニヤニヤしてるのよ?

玲子に言われて慌てて妄想を打ち消すと、
 
   え、いや、なんでもないよ。
 
   おかしな人ね。

玲子はプイと前を向く。

玲子はデパート内に入りエスカレーターに乗るとレディスファッションの売り場で降りる。
すると玲子は、
 
   これから洋服を買うから、あなたそれを持ってね。

そう告げると売り場を物色しだす。
アレコレ見ては服を手に取り鏡で見ている。
そのうち手招きすると、
 
   ねえ、これ似合うと思う?
   これなんかどうかしら?

と昭吾に聞いてくる。
服の見立てにまでつき合わされるとは思わなかった昭吾はテキトーに相槌を打つ。

どのくらい時間が経っただろうか、女の買い物の長さにうんざりしてくる。
するとようやく数点の服を決めると店員がそれを持っていき包装してくる。
 
   はい、これ持って、召使さん。

玲子は包装した数点の箱を待たせる。
玲子はエスカレーターに乗ると革製品の売り場で降りると、さっそく物色を始める。
暫くすると数点の靴とブーツを選ぶ。
例によって店員が包装してくると、
 
   これも持って。

こうして昭吾の両手に荷物が積み上げられていく。
今度は下着売り場に行くと、
 
   まだなんか買うの?
 
   そうよ、でも付いてこないでね。

と告げると売り場に姿を消す。
昭吾は、今度は何を買うんだろうと荷物の脇から売り場を見ると、玲子の言葉に納得する。
しばらくすると包装された袋を持って戻る。
 
   これもお願いね。

さらに荷物を積み上げる。
 
   じゃ、いま持ってる荷物全部を配送コーナーまで持って行って。

荷物を持った召使を従えるように玲子は配送コーナーへと向かう。
 
   ここに荷物を置いて。

玲子は召使に指示すると配送手続きに取り掛かる。
手続きが終わる頃ちょうどアラームが鳴る。
 
   お時間ですよ、お姫様。

玲子は、
 
   ご苦労様。

と笑みを浮かべると、
 
   どう、 喫茶店にでもいかない? 付き合ってくれたご褒美に奢るわよ。

玲子は昭吾を誘うとデパートを出る。
そして玲子の行き付けの喫茶店へと向かう。
目立たない店構えの割には店内に入ると高級感のある静かな店だ。
 
   この店にはよく来るの?
 
   ええ、よく来るわよ、気に入ってるの、このお店。

玲子はメニューを差し出すと、
 
   好きなもの選んで。

と勧めるのでとりあえずコーヒーにすると、
 
   ここのケーキ食べてみない? ホームメイドでなかなかのものよ。

玲子が薦めるのでそれも頼むことにした。
やがてウェイターがコーヒーとショコラケーキを運んでくると玲子と昭吾の前に置く。

   ねえ、ちょっと食べてみて。

薦めるので試にフォークで一口食べてみる。
すると、ほんのりブランデーの香りがする甘みを抑えた苦味のある大人の味のケーキだ。
 
   へえ、なかなかいいね。
 
   でしょ? わたしもここのケーキ好きなんだ。

と笑みを浮かべる。
昭吾はケーキを食べる玲子を見ながら、たかだかショッピングに付き合わせるために、
プライベートホストにギャラを払う気持を推し量りかねる。

   ねえ、今日みたいなことなら、何も俺にカネ使うことないと思うけど・・・。

すると玲子は、
 
   いいじゃない、好きでやってるんだから。
 
   そう? でも、こういうことは俺より、彼氏に頼むとか、他にあると思うけど。

昭吾の言葉に黙っている玲子に、
 
   彼氏とかいないの?

と聞くと、
 
   余計なこと聞かないでくれる?

とピシャリと言う。

しかし昭吾はなにか釈然としない。
オバサン達ならともかく玲子のようにまだ若い娘がこんなことのためにカネを払うのはどこかおかしい。
不自然極まりない。

昭吾は学校での玲子を思い浮かべる。
すると彼女が仲間と遊んだり騒いだりしている姿を見たことがないことに気がつく。
女の子はともかくとして、他の男子と話たり行動を共にしている姿も見たことがないことに気がつく。

昭吾は玲子から受け取ったギャラの入った封筒をポケットから出し、
 
   これ、君に返すよ。

玲子は驚いて、
 
   なぜ? どうしてよ、

問う玲子に、
 
   ん? 今日はサービスデイにしておくよ、
   俺のギャラはこのコーヒーと美味しいケーキ、そして素敵な店を教えてくれたこと、
   これでいいよ。

と告げると席を立ち
 
   じゃな。

昭吾は笑みを浮かべて手を振りながら店を出。

   待ってよ!

玲子が呼ぶがその声を振り切って店の外を歩き出していく。

-7-
Copyright ©ウィンダム All Rights Reserved 
<< 前のページへ 次のページへ >> ここまでで読み終える