小説『プライベート・ホスト』
作者:ウィンダム()

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それ以来、玲子はひっきりなしに昭吾を呼び出しては、どうでもいいようなことを要求してくる。

例えば、

玲子の知り合いのパーティでの彼氏役、ダンスのお相手、テニスのお相手、茶道のお相手、
サイクリングやハイキングのお供、クラッシックコンサートのお供、果ては犬の散歩に至るまで。

実にどうでもいいことばかりに付き合わせる。
そしてその度にギャラを出す。
よくもこんなことにカネを出し続けることができるものだと感心するより呆れてくる。

玲子のどうでもいい要求・・・。
そんな玲子に付き合ううちに昭吾は薄々気づきだす。
どうやら玲子が孤独な状態に置かれているらしいこと・・・・。

いくらビジネスとは言え、玲子にいつまでもこんなことを続けさせるわけにはいかない。
それに彼女は同じ学校の同級生だ。


或る日の授業中。
例によって玲子からメッセージが入る。

   魔子 SAT PM1000 6H JRK駅北口

昭吾は玲子のメッセージを読むなり即座に、
 
   NO

と返信した。

初めて拒否する玲子からのメッセージ。
彼女はきっとクレームを付けてくるだろう。
すると案の定、帰路に着く昭吾の前に玲子が現われる。
玲子は立ち止まったまま昭吾をじっと見続ける。
そして玲子をチラリと見て通り過ぎる昭吾を目で追う。

昭吾は玲子を無視するように歩くと玲子はその後を付いてくる。
いつまでも付いてくる玲子に業を煮やした昭吾は彼女を撒こうと、昭吾は突如ダッシュで走り出す。
すると玲子も走り出す。

アーケード内の繁華街を走りながら振り返ると懸命に追いかけてくる玲子が見える。
昭吾はアーケードを走り抜けるとそのままJRK駅北口まで来ると立ち止まって振り向く。
すると玲子も立ち止まり、ハアハアと肩で息をしながら昭吾を見ている。
そんな玲子を他所に昭吾は駅構内のコインロッカーから袋を取り出す。
そして肩で息を切らせる玲子に近づくと、 
 
   さっきから俺の後を付けてくるけど、何か用?

玲子はチラリと昭吾を見ると、顔を逸らしながら、
 
   なぜ拒否するの?

問いかける玲子の手を取ると、ロッカーから取り出した袋を手す。
 
   これ、いままで君が俺に払ったギャラだ、すべて返すよ。

   どういうこと?

昭吾は暫く玲子を見続けると、
 
   もうよせよ、いつまでもこんなことにカネを使うなんて。
 
   わたしのお金よ、どう使おうとわたしの自由でしょ。
 
   そりゃそうだが、でも、こんなことは不健全極まりないあり方だよ。

玲子は笑いながら、

   不健全極まりないですって? 
   自分のやっていることを棚に上げてよく言えたものね。

と昭吾を詰る。

   ああ、言えるとも。
   俺は生きるためにやっているからさ。
   しかし、君は道楽としてやっている。
   この差は大きい。

玲子は怪訝な顔をすると、

   生きるため? 生きるためって、どういうこと?

   ん? わからないか? 俺は遊ぶ金欲しさにお遊びでやっているんじゃない。
   生きるためにやっているのさ、食うためのビジネスだよ。
   遊び半分の援交や君が道楽で俺にカネを使っているのとは訳が違うってことさ。それに・・・。
 
   それに? それにって?
 
   俺はこれ以上、君をビジネスの対象として扱うことはできない。
   というよりそんなことしたくないんだ。

玲子は俯き加減で聞いている。
 
   なぁ、俺にして欲しいことがあるなら、普通に言ってくれ、こんな形じゃなく。
 
   普通にって?
 
   わからないか? 
   カネが絡んだビジネスではなく、プライベートなものとし言ってくれ、と言ってるんだ。

玲子は黙って聞いている。
 
   君の頼みごとなら俺は喜んで引き受けるさ、いくらだって協力するよ。

玲子は昭吾を見つめると目を逸らし背を向けながら、

   そう・・・。でも、わたし、

と言いかけて振り向くと、
 
   わたし、プライベートのあなたに興味ないの。
   わたしが興味あるのはビジネスタイムのアキラよ。
   さようなら・・・。

そういい残すと玲子は雑踏の中に消えていった。

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