――最後に、お前の身に備わった力について、わかる程度ではあるが書いておく。テラ、お前は悪魔の実の能力者だ。そしてお前の身体的特徴からして「超人系」では無く、「動物」。何がモチーフになっているかまでは見抜けなかったが――恐らく、予想だけで述べるなら、狼の一種――
――何故お前がそのような力を手にする事になったのか。手紙の前半でも書いた通り、私も母さんも全く分からない。捨て子だったお前を拾ったときには、お前は既に能力者だったんだ。
こんな可能性考えたくもないが、前のろくでなしの親がお前に食べさせたのか。……ろくでなしだなんて、私達が言えたセリフでは無いのかもしれないけど――少なくとも、私達はお前を愛していた。
テラ。どうかお前が、産みの親にも育ての親にも悪く似ない、良い大人に育つ事を心より願う。
「こんな夜中まで寝ずに何を熱心に読んでるのかと思えば。目が悪くなるぞ」
「余計なお節介だよ」
時刻は、男の言葉通り、夜中。辺はすっかり真っ暗だが、松明の明かりで少々見にくいものの手紙の内容は読める。夜眠れない時なんか、星空を見上げるか、こうやって手紙を読むぐらいの事しかやる事が無いもんだから、ボロボロになるまで手紙を読み返したりしている。
男は少年の言葉に、「そおかい」と一言。
「しっかし、何でお前はずっとあのまま狼になった状態で移動し続けなかったんだ?」
「寝ている動物達を無意味に起こしちゃうから。それに、こっちのほうが落ち着くし、休憩したかったし」
「うーむ……俺としては動物よりも山賊のほうが恐ろしいんだが」
まだ俺の決断が不服か、この男は。内心苦笑いしながら俺はそう思う。ぶっちゃけ、山賊も危険と言えば危険だが、動物も下手すりゃ山賊より凶暴だぞ。
俺は護衛を頼まれただけなんだけどなあ、ぼそぼそ。
まあ、機嫌を損ねられて支払い報酬が下がりました、なんて事は嫌だしなあ。重要な旅の路銀……。
「とはいえ、次の町までそんなに距離は離れてないな……、仕方ない」
「お!悪いねえ、急かしちゃったみたいで」
何を言うか。
仕方なく、能力を使って姿を変える。全身からフサフサな毛が一気に生え、凡ゆる部分の骨が太くなる何とも言えない感覚――が一瞬で通り過ぎて、次の瞬間その場には人間では無く、一匹の白い狼が立っていた。
目の辺と鼻の上、胸の辺に赤い模様が描かれている。そして、全身から、まさしく温かい陽の光のような光を放っている。身長は二メートルくらいのサイズだ。
うんむ、やっぱり夜だから力がセーブされてるな。
「さあ、乗った乗った。体力は有り余っているし、全速力で行くぞ」
「やっぱりお前さん、変わってるねえ。まあ、良い。ほら、出発してくれ」
何度も言われたさ。もう慣れたけどね。
せめて、散々文句を言われた仕返しだとばかりにスピードを付けて俺は走り出す。こうなるとカルーだとか言う生き物より早く走れる自信がある。何時か競走出来れば、な。
背に乗せた男の悲鳴を聞きながら、しめしめと笑う俺であった。
――だが、狼の一種なのだろうか。まだこの世界で発見されていない、不思議な種がモチーフになっているのかもしれない。その能力に私なりの名前をつけるとしたら……イヌイヌの実モデル『アマテラス』と名付けよう。『アマテラス』が一体どういう生物なのか、何故その名前がふと頭に浮かんだのか――