小説『ソードアート・オンライン 守り抜く双・大剣士』
作者:涙カノ()

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第40話 =ギリギリセーフ=


=第55層=

「…リクヤ…!」

そう俺の名前を呼び目には涙を浮かべているユカだがその涙は表情から見ると恐怖ではなく喜びだろう。実際に俺も間に合ったときは本当にうれしかった。多分、自分の力で初めて大切な仲間を守ることが出来たんだからな。
…でも、お互い喜び合うのはもう少し後、か。

「お、お前…なんで…いや、どうしてここまで来れたんだよ!!」

そういいながらこちらをにらみ剣を構えるマルベリーが立ち上がったからだ。まだまだ抵抗するらしい、諦めて逃げればいいも
のを。

「…よっこいせっと」

「キャッ!」

その言葉を無視して俺はそのままユカの体を持ち上げて背中と膝の裏に腕を入れる…いわゆるお姫様抱っこをして安全なところ
…まぁ、キリトの近くだがそこまで移動させる。それにしても俺が筋力値を上げ過ぎているせいと恐らくユカが布装備と言うこともあってかとても軽く感じた。

「…待ってろ…すぐ終わらす」「…待っててね。すぐ終わらせるから…」

隣を見ると、同じような言葉を大事な人に投げかけるアスナが見えた。こいつは多分、クラディールと決着をつけるのだろう。
俺は…あのマルベリーとか言うあの男との決着をつけるために背中、腰から2本ずつ剣を抜き前へ歩み出る。
俺とアスナはマルベリーをクラディールの真逆に飛ばしたためそれぞれ反対に歩を進めていた。

「く、来るな!」

「俺の幼馴染がお世話になったみたいだな…」

多分、いつもなら…現実なら俺よりもかっこいいって言われているヤツだったんだろうが今はその真逆、その顔はぐちゃぐちゃになっており人間のものとは言いがたいものに近かった。その顔にある恐らく口な部分に向けて右で持っているオータムリリィで切り裂く。普通の突き攻撃、しかも手加減しているからそんなにHPは減っていない。

「ぶぁっ!……てめぇ…調子に乗りやがって…ハッ、ちょうどいい。どうせお前を殺してから奪うことも考え…ぐぁ!?」

奪うと言う言葉を聴いた瞬間、俺は左のキャリバーンを逆手に持ち替えその柄で思いっきりマルベリーを殴っていた。
いや、自分で殴ったんだけど…
多分、周りから見れば今の俺はいつもの俺とは違う、って思うやつもいるだろう…それはすでに自覚している。今の俺ならこいつをためらいもなく殺すことが出来るだろう…

「言いたいことはそれだけか…!!」

さらに逆手のまま斬り上げて左腕をそのまま切断し部位欠損状態に陥らせる。少しずつ、HPが減っていくのが見えるがそれを気にせずに胴体に一閃、ガクンとバーを削らせる。

「く、くそぉっ!!!」

残った右手でこれまた派手に装飾された剣で振りかぶってくるけどその剣の腹にオータムリリィを打ちつけ外へと弾く。俺が狙
ったのはそれだけではなくいつか見せた武器破壊…それすらもすることが出来、その証拠にパキンと何かが割れる音がしマルベ
リーの手の中から武器が消えていた。
でもそれでもまだ終わらない。
本来なら発生する技名を叫ぶと言うシステムを自分の意志で口を閉じ発生させないようにする。もしそして特殊二刀流…双・大
剣士の最強の斬りつけ攻撃が『グランバースト・クエイク』ならば今から行うのは最強の連続突き攻撃だ。2本を一緒に構えモー
ションを立ち上げ、一気に放つ!

「……!!」

持てる筋力値をフルに活用し突いては戻しを繰り返す9連続攻撃『連塵龍影刃』だ。それを上手くコントロールしすべてを致命
傷にならないダメージで攻撃を与えていく。攻撃が当たるたびにやつの顔から血のような鮮紅のエフェクトが舞い散る。

「ヒィィィィィッ!!」

「………さて…」

キャリバーンを背中に戻し、右で持っているオータムリリィの切っ先を奇妙に甲高い悲鳴あげながらへたり込むマルベリーへと向けて呟く。
その切っ先を見たマルベリーは器用にも片腕だけで土下座の姿勢を取るように地面に這いつくばる。

「…わ、悪かった!ここでも、現実に帰ってもあんた等の前にもう2度と現れない!!だから!!」

「お前に…ユカの受けた苦しみ全部…そのまま返してやろうか…!」

「い、嫌だぁぁぁ!!し、死にたくないぃぃ!!!」

そう頭を地面に思い切りつけ残った右腕で頭を抱えて命乞いをしているこんな男がこの2年の間、ずっとユカの心に巣くってい
たなんて思うと怒りしか涌いてこない…
これが…こいつがいなければユカはサチやシリカ、リズたちと一緒にこんな世界でも、もっと良い世界になったはずなのに…!


「…リ、クヤ!…駄目…よ。人殺し…は…!」

「…っ!?」


その頭に向かって剣を振り下ろそうとしたとき、麻痺により口もあまり動かなくなっているのに必死に声を出すユカに俺のこれからやろうとしていることは止められ、剣がマルベリーのわずか数センチ上でとまった。

「……だな…駄目だよな、人殺しは…」

俺は今までオレンジプレイヤーだが2、3人は殺してきたと思う…その殺したときの前後の記憶はすでにあいまいだ。でもここまで必死に止めるということは俺は仲間の目の前で殺しを行ったことがないのだろう…。

「俺はお前を絶対許さない…だからさっさとどっかに行ってくれ」

そういいながらオータムリリィすらも納刀しクルリと反対に回ってユカの元にむかう。さっさと麻痺毒解いてやらないと…などと思いながらポーチを確認しながら結晶を探す。
…結晶系全部ユカに預けてたじゃん…どうしような、なんて視線を送ろうとユカの顔に目を向けるとその顔は喜びでもなんでもない、驚きの顔に包まれていた。

「クックック……やっぱり馬鹿だなぁ!!!」

「…リクヤっ!!」

「それはお前だろ?」

左足に体重をかけスキルを発動させる。『アラウンドステップ』を…。このおかげで普通じゃありえないスピード、といっても姿が消えるなんて大層なものじゃないけど…でも、これのおかげで自動的にマルベリーの左側に回り込むことが出来た。

剣士…いやこのSAOプレイヤーは常に背後の警戒は怠ってはいけない。それを怠る=死に繋がるからだ。キリトのような片手剣を使うプレイヤーとかアスナやユカ、サチのような敏捷値の高いプレイヤーは緊急で離れることも可能だろうがアックス使いや俺のような大剣使いはそうはいかない…まぁ、それをこのスキルで俺は補ってるわけだけど。
でも、これもタイミングが命なので後ろにはやはり気を配っておかなければならない。ミスったらこちらにも隙が生まれてしまうから…

ということで俺が後ろを向いたときが隙だと思ったのかメニューを開き新たな剣を振り下ろそうとしたんだろう…でもそれは見事にかわされて逆に隙だらけになっていた。突然の瞬間移動みたいな出来事にマルベリーは目を見開いて驚いている。

「じゃあな…」

そのままオータムリリィを抜刀、その勢いで首を境にして2つに斬り分ける。その勢いで急速にHPバーは減っていき、俺の見ている中、マルベリーのHPバーは空っぽになりこのゲームでのゲームオーバー…すなわち≪死≫を迎えた。

「ひ、人殺し野郎が…!お前がいなけりゃあの女を俺」

まだ意識があったのか首だけで話し出すマルベリーだったがナーヴギアの起動時間になったのかその頭はポリゴンと化しその言葉は言い終わることはなかった。

…あの女を俺のものに出来たのに、とでも言いたそうだったな……それに、人殺しって罪ならすでに被ってるよ…

そんなことを思いながらクラスメイトのはずのポリゴンの破片を俺はずっと見ていた。
でも…リアルで少なくとも知り合いだったやつを殺しても何にも感じないって本当にどこかイカれてるのかな…


======

「…大丈夫か、ユカ?」

「うん…私は大丈夫…」

「そっか……よかった」

時間も経ち、ユカも体の自由が利き始めたらしく俺の肩にもたれながらもふらふらしながら立つことが出来ている。
向こうを見るとどうやらクライマックスって言い方も変かもしれないけどクラディールの体に黄色の光を纏ったキリトの拳が深々と突き刺さっておりその直後にクラディールはポリゴンへと姿を変えた。

「…あっちも終わったな…」

「えぇ……そういえば、なんでここまでこれたの?」

ユカが言うにはユカたちがここまで来るのにおよそ1時間かかったらしい。約5kmにどんだけ時間かけてんだよ、とつっこみかけ
たけどゴドフリーさんだから仕方ないと割り切る。ギルド本部から入れると約6km、普通でも結構な時間かかる距離だと思う。

「今回は、本当に偶然に助けられたんだよ」

そういいだし、あのときのことを思い出す…といっても30分くらい前だけど…。

―――――――――――――――――

「…暇だ…早く戻ってこないかな〜」

「いや、行ってからまだ30分しか経ってませんって」

シリカに冷静なツッコミを入れられるも俺にしては30分待つのは長い。無駄なところでせっかちな俺はこういった待つ時間って
言うのが本当に嫌いで落ち着くことが出来ない。何度もメンバーに「子供か!」って怒られることも少なくない。

「…サチ、ここって何かいいものあったっけ」

「えっと……グラムライト草っていう草があったはずだけど」

グラムライト草…現実でいうヨモギのようなものだがこういった変な草はどこでも取れる。いうなれば第1層始まりの街でも…
けれどグラムライト草は第55層でしか取れず、ここの攻略も俺はあまり参加してなかったため採取する機会がなかった。アスナ
はどうか知らないけどそれはサチも同じらしい。その代わりサチはアスナと一緒にソース作るときにもらったらしいけど。

「……よし、採ってくる」

「まさか、それ使うんじゃ…」

「そのまさかだけど…じゃ、行ってくる」

今までいろいろと試行錯誤している俺が作っているものは「だし」だ。…鰹とか昆布とか鶏がらとかまず気にせずにだけど。この世界、いじめなのかどうか知らないけど醤油抜き醤油ラーメンだったり味なしきつねうどんだったりとそういったスープ系はありえないほど不足してる。
サチやアスナも「醤油は作れたけど…だしとかになると」って肩落としてたから自分の力で作るしかないと頑張ってるんだけど…
一瞬煮込めば出てくるだろって思ったやつ、それは俺もやった。魚モンスターから取れる骨や肉、鳥系モンスターから取れる骨や肉、あとは草類アイテムもまず煮込んでてみたけど…全部失敗に終わった。いろいろ組み合わせたりして近いものもできたけど何かが足りないのだ…何かが…。

そうしてユカたちの行った方向に俺も足を向けて進みだした。別に何にも言われなかったのでそのままグランザムを出てひっそ
りとしている荒野を歩き始める俺。進みながら採っていてもあまりモンスターが出なかったのはきっとあいつらが乱獲したから
だろうな…そのおかげか順調に、いらないだろってくらい草が手に入った。アイテム欄の名前のところに×37ってあったのを見
たときには正直採りすぎたか?とも思ったけど進んで少しのところでこんなに取れるんだから人気のない食材なんだな…なんて
思った矢先にユカからの『たすk』というメッセージが来たのだ。それを見た瞬間、なるべく曲がらないような道を選んで俺は
壁を蹴り跳んでいた。
_______________


何故それが助けを求める物だと理解できたかは多分、そんな展開にあこがれていた自分が昔いたからだろう…仲間のピンチをそ
の寸前で助けるというアニメみたいな主人公に。

「……だから、偶然だったんだよ」

「…なるほどね……でも私はそれで助かったのよね…」

ユカが助かった、と思うのならそれでいいだろう。俺はゴドフリーさんも助けたかったけど…

「……ありが……嘘…」

途中で言葉を切ったユカに「どうした?」と俺が聞く前に恐らくユカが見ていると思われる光景を俺も見てしまって、同じく言
葉をなくす。

キリトがアスナの肩をつかみ自身の唇をアスナにくっつけていたからだ。

その行為にアスナも反射で抵抗しようと顔、体を動かして押しのけようとしたがキリトに完全に掴まっていて逃れることが出来ていない。観念したのか…違うな、受け入れたんだろう。アスナがキリトに身を任せ目を閉じているのがここから確認できた。

「……ね、ねぇ…リクヤ…」

「な、なんでしょうか…」

なんだっけな、これ…どこかで聞いた覚えが…あ、ギャルゲー展開ってこういった物を言うんだね。確かテイルズの作品の中でも同じような展開があったっけ…アレのためにわざわざハードも買ったんだけど…うん、いい思い出だ。
などと隣にいる幼馴染の声を無視するかのごとく思考の海に溺れていきたかった。でも無視するのはいけないという良心も少なからず存在する…というか無視したら後々精神的に殺されそうなので空返事だが答える。

「…こっち向きなさいよ…」

「いや、なんでだよ」

俺は前の方でキスしてる2人にも、ユカにも目を向けないように何もない岩壁の方向に視線を移していた。
いや、だって人のキスシーンとか見てるこっちが恥ずかしいじゃん…その恥ずかしい顔を見られるって思うのもさらに恥ずかしいし…と思っていると突然両頬に手を添えられ無理やり違う方向を向けさせられた。

「ちょ…ユ…っ!?」

「……!」

俺の顔の方向を向けた本人、ユカが俺に唇をくっつけてきた。それも、俺の口に…。今の状況は2組の男女が距離を置いてそれぞれキスをしているという他人から見たらものすごい光景になっていると思う。突然のことに驚きまず動けなかったが状況が理解できたときには持てる力を全部使いユカを引きはがしていた。

「な、何してん……無理やりしてそのまま眠るってどういう神経してんだよ」

引きはがすも倒れないように肩をつかんで自分から少し引き離すと静かに寝息を立てている投剣使いが目に入った。その表情は安心からか小さな笑顔を浮かべており、なんか妹みたいで自然と俺も笑っていた。

「…よっと……帰るか…」

どうやったら寝れるんだろうな…すっかり寝てしまったユカをおんぶしなるべく音を立てないように俺はそこから歩き出した。
さすがにこの状況の空気くらいは読めるからね、うん。

実は後ろでおんぶされているユカは起きていた…ということはグランザムについてしばらくしたところでしか気づけなかったのは別の話だが。







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