小説『ソードアート・オンライン 守り抜く双・大剣士』
作者:涙カノ()

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第44話 =あいさつ=


=第22層=

ちょっとした大騒動から数日後、リズのお店も休みと重なり久しぶりに昼過ぎまで寝ていたんだけど「昼まで寝てちゃ駄目でし
ょ!」とサチにたたき起こされ軽い昼ごはん+スイーツを作っていた。

「……たく…せっかくいい夢見れたのによ…」

「いつまでもグチグチ言ってないで早く作りなさいよ」

へいへい、と空返事しながら夢を思い出す。確か内容は…昔のことだっけ、このSAOが始まるよりももっと前
今更思い出しても俺には真似できることないな、と自嘲気味に笑いながらタルトを作っていると「なに笑ってるの?」とユカに
つっこまれてしまったが…。

「…出来たぞ〜ソンロンゴアのミンチ丼とトルカ苺のタルト」

ソンロンゴアとは生食専用の魚でその丼物はいわゆるネギトロ丼だ。上の層で取れたのがこちらに出回ってきてそれをシリカた
ちが朝市で買ったらしい。そして珍しく現実と同じく苺と呼ばれているこれは形、味がそのまま苺だからこう呼ばれており、ト
ルカというのはトルカの畑という場所で取れるから苺の名前につけられている…プレイヤーの中でだけど…。実際はとてつもな
く長い名前だけど恐らくプレイヤーの誰一人として名称を進んで言うやつはいないだろう。

それにしても本当に料理簡単だよな…。どんぶりはともかくタルトなんて材料混ぜて焼くだけじゃないからな…スイーツなんてこっちでしか作ったことないけど。

「……ぁむ…タルト美味しいわね」

「本当…スイーツで男子に負けるって複雑だなぁ…」

いきなりサチとユカがタルトを食べだすが一緒に出されたらそこら辺は自由、というのがこの世界の暗黙の了解だ。唯一ってい
っちゃなんだけど数少ない娯楽だからそこにマナーやらなんやら言われると害されて気分が悪いというのが共通の考えなのでい
つしか定着していった。

そして料理スキルを同じく完全習得(コンプリート)しているサチだが負けているというのはどうやら数字に見えない隠れス
テータス的なもので「ご飯類」、「パン類」そして「デザート類」に分かれているらしく「デザート類」に関しては俺のほうが
高レベルなためこういう表現をしていると思う。

「全国の男性パティシエさんに謝れ…」

さすがに俺はともかくそれは偏見だぞ。

「…はむ…はむ……ふぁれかひふぁみひゃいふぇふよ?」

「シリカ…なんて言ってるかわかんないわよ…」

その直後、来客を知らせる鐘が鳴り響くので「誰か来たみたいですよ」と言おうとしたんだろう。紅くなっているシリカにティ
ッシュっぽいものを渡しながらいまだ鳴らしている人物がいるであろう玄関に向かう。

「はー…い……ど、どうした?」

「こんにちはリクヤ君。引越しの挨拶に来たの」

俺がドアを開けると栗色のストレートへヤーを風になびかせている知り合いであるアスナが立っていた。その後ろには全身黒い服装の同じく知り合いのキリトが立っている。
いつもなら驚かないし、ちょっと前、俺が逃げてしまった時にどうやらサチたちがこの家を教えたらしいので訪ねてくるのもわからなくもない。
ただ…服装がそれぞれいつもの白い制服と黒コートではなくセーターとロングTシャツなのだ。
そして今さっき「引越し」という単語か…確かここから少し離れた場所に誰も住んでいないログハウスが1つあったけど。

「まさかあそこに!?」

「あぁ、あそこに家を買ったんだ」

と、キリトは俺の記憶どおりの場所にあるログハウスに指を向けた。

「…狙ったのか?」

「何がだよ」

だってこの家に俺たちが住んでいることを知っててあそこの家を買ったんだろ、と俺が言うとどうやら前からあそこを買うこと
は決めていたらしいのだが残念、お金が足りない、工面しなくては…などということになり時間がかかってやっと昨日あそこを
買ったらしい。

「なるほどな〜」

で、知り合いの引越し挨拶ってなにしゃべればいいんだ?

「…まぁ家入ってくれよ。サチたちにも知らせなきゃなんないから」

「お、おう…お邪魔します」

「お邪魔します」

なぜか緊張しているキリトに笑いそうになったが恐らく皆がいるであろうリビングに通す。するとさっきまで置かれていたタル
トは綺麗に片付けられており、真っ白な皿だけがテーブルの上にあるだけだった。

「ちょっと!俺まだ食ってなかったのにさ!」

「ご、ごめんって…あんまり美味しかったから」

「…ならいいけどさ」

人間、ほめられればどんなときでも喜んじゃうから納得してしまうのは仕方ないと思うんだ。リズに上手く丸め込まれたがアレ
くらいなら材料さえあれば簡単に作れるのでよしとしよう。

「あれ、アスナにキリト…どうしたの?」

「やっほ、サチ、それに皆も」

「引越しの挨拶に来たんだ」

「へぇ〜…じゃあお隣さんですね」

「隣っていうほどの距離じゃないけどな」

確かにキリトの言うとおりここから1、2分は歩かなきゃいけない距離だからな…と会話に耳を傾けながらいろいろな食材の入っている引き出しをさきほどのタルトの材料を探す。俺がスイーツを作るのは皆のためよりか自分のためにって気持ちのほうが大きいからもう1度作ってでも食べたいんだよ。
すぐにまぁ小さめの苺のタルトが完成…さて、ここで食べるべきか向こうに持って行って食べるべきか…ぼっちが嫌だから向こうに持ってくことにした。

「……なんだよ」

「最近、辛いものしか作ってないから…」

あはは、と苦笑いのように笑うアスナ。…そうか、キリトが極度の辛い物好きだからそれに合わせて作らないんだな…と思いな
がら1切れを手で渡す。もともと汚れないから俺も手で食べてるんだけど…。

「……はむ……おいしい!」

「マジか?…俺も少しくれよ」

すでに切り分けられているのをさらに1つキリトに渡す。

「…美味いな…」

「お前が甘いものを美味しいって言うなんて珍しいな」

「甘いものも好きだって。ただ単にそれよりも辛いものが好きなだけで」

キリトが拗ねたように言うのでそこから皆クスクスと笑い、さらに会話が発展していった。なんで俺たちがここに家を借りたの
かも聞かれたし、逆に聞いたりもしていた。世間話が終わるとやはり女子はそうなのか男子の俺とキリトを置いてけぼりにして
恋愛話に花を咲かせていた。

_______________

「なら俺たちはそろそろ帰るか」

「今度は私たちがそっちに行くと思うから、よろしくね」

「いつでもいいよ、お姉ちゃんたちなら」

こうして新婚夫婦はすぐ近くの自宅へと帰っていった。

「…まさか近くに引っ越してくるなんてね…」

「変な縁ね、本当に…」

ユカの言葉には本当に同意せざるを得ない…結構なときにまさかって場所でキリトと会うからな…などと思い返しているとなん
だかこの2年間、本当いろいろ会ったな…なんて再び思い出してしまった。前代未聞のログアウトの出来ないオンラインゲーム
にいろんな人と出会ったし、いろいろなピンチに陥ることもあったし逆にめちゃくちゃ楽なときもあった。

「これが…今の俺たちの日常なんだよな…」

「どうしたんですか?」

「…いや、もう普通じゃないことが普通になってきてるから」

俺の言葉に皆が同意し、少し自分の中でおかしくなったのか俺は笑ってしまった。それを筆頭に皆も笑い出す。本当にこんな平
和な時間が続けばいいのにな…





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