小説『ソードアート・オンライン 守り抜く双・大剣士』
作者:涙カノ()

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=第48話 圏内戦闘=

木立の合間を縫うように走り市街地に入り裏通りをどんどん抜けていく。なんとかレベル差のおかげで置いてかれる、といったことや後ろからついてくる子供たちに抜かれるといったことはなくて助けてもないのに俺の心はすでに安堵に包まれていた。

いくつもの曲がり角を右、左、右、左と普通なら迷う道をカーナビでも見てるんじゃないかって言うくらいにどんどん突き進んでいくと灰緑と黒鉄色で統一された装備をしている()の皆様が見えてきた。

「おっ、保母さんの登場だぜ」

「…子供たちを返してください」

硬い声でサーシャさんはガラの悪そうな()の人間に言う。

「人聞きの悪い事言うなよ。すぐ返してやるよ。ちょっと社会常識って奴を教えてやったらな」

「そうそう。市民には納税の義務って奴があるからな」

わははは、と男たちが甲高い声を上げて笑う。ふと目を落とすとぶるぶるとサーシャさんの拳が震えるのが後ろで見える。

「……もう我慢できないんだけど…」

「ここで事を大きくしたらもっと危ないよ…!」

話を聞いてるだけの俺でもあいつらをぶっ飛ばしたくなって一瞬、跳びかかろうと足に力を入れるがそれをサチに止められてしまい、それに反抗しようとするが今はサチの方が正論、2,3度深呼吸して気持ちを抑える。

「ギン、ケイン、ミナ!!そこにいるの!?」

「先生!先生…助けて!」

サーシャさんの呼びかけに小さな女の子の声が聞こえ、まだ無事なのを確認できた。

「お金なんていいから全部渡してしまいなさい!」

「先生…駄目なんだ…!」

その指示にも次は男の子の絞り出すような声で弱弱しく否定の声が上がる。

「あんたらずいぶんと税金を滞納してるからなぁ…金だけじゃ足りないよなぁ」

「そうそう、装備も全部置いてってもらわないとなぁ…防具も全部……何から何までな」

要は裸になれ、ということらしい…。この人たち、ロリコン?もしくはショタコンって言うんだっけ?

「……軍の人って全員頭おかしいのかしらね…」

「…そうかもしれませんね…」

軍のこのふざけた言い分を聞いたユカはコソコソとシリカに耳打ちをしていた。多分、74層で一方的に地図データをよこせと言ってきたどこかの中佐を思い浮かべているのだろう。
でも恐らくここにいる()を除く全員、その()に怒りを覚えているだろう。というか、俺はもう我慢できない。サーシャさんも同じのようで男たちに詰め寄るが動こうとするそぶりをまったく見せない。そして圏内で発生する犯罪防止コードのせいでダメージを与えるどころか押したり、引いたりして動かすということは一切まねできない。それは今のように悪意のあるプレイヤーが通路をふさぐマナー違反行為「ブロック」を簡単にすることが可能ということだ。その一個上のレベルの「ボックス」というのもあるらしいが…

「……悪い、先行くぜ!」

「えっ?…あぁ、もう!私もいくよ!」

そのマナー違反な行為を破る方法は簡単だけど難しい方法だけどある。それは相手の身長を跳び越えるジャンプをすればいいだけだ。跳躍なら筋力補正が半端じゃないため自身があるから余裕で「ブロック」で子供たちをふさいでいる男たちを飛び越え、その向こう側に着地する。その直後、サチも同じく跳び越えてきて俺の隣に立つ。キリトとアスナも我慢できてないのか同じようにその男たちの上を跳んで綺麗に着地していた。

「リズ、シリカ、ユカ!援軍きたらそっちでよろしく!」

俺の声におくから「仕方ないわね…」とリズから呆れながら返事が返ってくる。一瞬、合間から見えた光の反射でどうやらユカがすでに武器を出しているらしい。

「もう大丈夫だよ、みんな装備を戻してね」

サチの声に少年たちはすぐに頷くとあわてて防具を広いウィンドウを操作し始めた。

「おい…オイオイオイオイ!」

「…なんだよ」

俺が低く答えるとブロックしていた男の中の1人がわめきだしていろいろと文句を言って来た。がそいつよりも一際重装備をしている―俺らにしてみれば紙みたいなものだけど―リーダー格の男がそれを押しとどめ前に出てきた。

「あんたら見ない顔だけど…解放軍にたてつく意味がわかってんだろうな?何なら本部でじっくり話聞いてもいいんだぜ?」

そういいながらブロードソードを腰から抜きペタペタとわざとらしく手のひらに打ちつけながらこちらへ歩いてくる。時々ピカピカと太陽の輝きを反射して刀身も光るがその輝きには一度の損傷、修理を経験していない薄っぺらさが表れている。
どうやら戦闘をしたことがない、もしくは武器を自分の半身と思っていない武器に愛着心を持っていないやつらしい。

「子供からカツアゲする正当な理由でも教えてくれるのか?」

「あぁっ!?(圏外)で答えてやろうか!?おぉっ!?」

どうやらキレさせてしまったらしい。俺の方が身長が低いとわかると上からものすごい目力を含んだ視線でこちらをにらんでくるがまったく怖くない。それどころかその身長差を脅しに使えると舐められている事にむかついた。

「…はぁ……」

ため息をつきながらキャリバーンをオブジェクト化、いつもの通り左で持ち中段に構え「必中必倒」と呟く。
これも秘奥義の台詞なのだが急に叫びだすのはやっぱり恥ずかしいので声を最小限にとどめる。そして呟いた直後からシステム補助が発動しそのリーダー格の男を中段に構えたキャリバーンで一突き、前に出た勢いでそのまま前中し上がった右足で辛うじて上げている頭にそのまま食らわせる。

「クリティカルブレード……!!」

「ぎゃぁあっ!?」

もちろん(圏内)ではHPは1ドットたりとも減ることは絶対にない。それどころかこちらからの攻撃は…というか圏内での対プレイヤーへの攻撃は不可視の壁に阻まれてその体に触れることさえ出来ない。でもこれは攻撃者が犯罪者(オレンジ)になる心配もなくなるということだ。
こいつを利用したのが「圏内戦闘」という、その名前どおり圏内での戦闘訓練だ。

でもその不可視の壁に阻まれるといっても攻撃した威力とかはどこへ行くんだということになるがそれは全部攻撃を受けた側にシステムカラーと衝撃音、多少のノックバックの3つが襲い掛かる。このシステム、パラメータとスキルが上昇するにつれどんどん過大なものになっていき普通じゃ絶対に食らいたくない技のようになる。このおかげで実戦に限りなく近く訓練が可能となる。ダメージを食らわないのがわかっていてそれが体に染み付いている人なら怖がる必要もないのだけど一般人は普通こんなことやらないから恐ろしいものへと昇格する。

「…そんなに剣使いたいのならここで相手するけど」

そう、倒れた男の前に立ち言う。

「お、お前等!……見てないで……何とかしろ!!」

その声に後ろの兵士たちがおのおの武器を取り出し構える。そして俺たちが入ってきた通路から音を聞いたのかぞろぞろと同じような兵士が現れる。『クリティカルブレード』はソードスキルでいうなれば中級の分類に入ると思う。細かく分類すると中の上くらいか…。
その分、効果音も大きいのでそれで気づかれてしまったのだろうが一網打尽に出来るのでちょうどよかっただろう。

「もう…騒ぎ大きくし過ぎだって……」

「まぁ、俺たちも手伝うんだけどな」

「キリト君の言うとおりだよ。私も我慢できないから」

サチ、キリト、アスナもそれぞれの武器である棍『パードベンテ』、片手剣『エリシュデータ』、細剣『ランベントライト』をオブジェクト化し構える。キリトにいたってはユイを抱っこしたまま相手をするらしい。サチはそれほどでもないがアスナはかつて狂戦士と呼ばれていた頃に戻っているような雰囲気を漂わせていた。
前の方を見るとシリカたちもそれぞれ武器を出していて増援に備えているのが見え、なんだかんだ向こうもやる気なんだな…と少々の笑みとともに思いもう1本の愛剣であるオータムリリィを右手に持つ。

「すぐに終わらせるか!」

「足元すくわれないでよね」

なんかサチがちょっと厳しい…


ともかく、面倒だったけどソードスキル、もしくはテイルズ技でないとノックバックは発生しないためずっと同じようなのを使い続けていた。さすがに秘奥義系統は使わなかったけど…
それでも数が数だったからアレから3分くらいが経過した。そしてそこには同じ鎧を装備している()の人間がいくつも死体となって……ないけど、呻いていたり気を失っていたりしていた。向こう側を見ると同じくらいの人数がのびている。

「一瞬で片がついたな」

まぁ、当然といえば当然だろうな…この人数を攻略組8人で相手すればすぐ終わるだろ、この世界じゃ3分も早いほうだし。

「パパ?…いっしゅんって、どのくらい?」

「えっと……1秒もないくらいじゃないか?」

「にぃ、うそついた」

そこ、うるさい。

妙に静かなので後ろを見てみるとサーシャさんと子供たちが俺たちのほうを見て絶句していた。怒りに任せすぎたか、やりすぎたか?などと少々焦りながら考えをめぐらす。

「やりすぎ…ちゃったかしら…」

「…そうかも…」

とユカたちはこちらへ歩いてきて―気絶している人を踏みながら―今の状況を反省している。サチも武器をしまって苦笑いで答えるがすぐに顔を暗くする。
だがしかしその表情を変えるには十分な反応を見せる。

「す…す、すげぇ…!!」

突然一番前にいた赤毛の少年が目を輝かせながら言った。

「姉ちゃんたちすっげえよ!!初めてみたよあんなの!!!」

「な、言ったろ?この姉ちゃんたちは無茶苦茶強いって」

そういいながらユイを抱いたまま前へ出てくるキリト。キリトが動いたからか一気に子供たちがサチやアスナ、ユカ、シリカにリズなど恐怖の対象だった()をボコボコにしてくれた人たちへと集まっていった。その反応を受けた当の本人たちはまんざらでもない様子だし。
それにしてもすごかったな…サチとアスナのあの連携は…。サチが上に打ち上げてそれをアスナが連続で突き上げてさらに空中に止めておいてまたサチが棍で空中コンボを決めてさらにアスナが…と俺が最初に吹っ飛ばしたリーダー格の男が手玉に取られてたのは面白かったのもあったけど少しだけ恐怖も感じてしまうあの攻撃は…。

そのときだった。

「みんなの……みんなのこころが…」

子供たちが戯れているのを少し遠くで見ていたキリトにおんぶされているユイが何もない宙に手を伸ばしたのは。声が聞こえた俺たち全員でその方向を見やるが何にもなく青空が広がっているだけだった。

「みんなの……こころ……が…」

「ユイ!!どうしたんだ!ユイ!!」

キリトが必死で呼びかけるとユイは2,3度瞬きをしてきょとんとした表情になった。その間に母であるアスナも駆け寄ってきてユイの小さな手を握る。

「ユイちゃん…何か思い出したの!?」

「…あたし……あたし……」

何かを思い出そうとするように頭を抱え顔をしかめるユイ。本当につらいのか眉をひそめうつむいている。

「あたし、ここには……いなかった……。ずっと、ひとりで、くらいとこにいた……」

そして唇をかむと突然…

「うあ……あ……ああああ!!!!」

という細い喉から出たとは思えない甲高い絶叫とともに恐ろしいものを見たような表情をしていた。
そしてその直後ユイの体がぶれるとともにこの世界では絶対に起こらないはずの「ザ、ザッ」というノイズ音がここにいる全員の耳元で鳴り響く。それに驚いてアスナは反射的に自分の耳を押さえてしまったが、不運なことに丁度その時ユイは体を後ろへのけぞらせてそのまま落ちようとしていた。

「…くっ……ユイ!!!」

耳元でノイズがなるが今はもうどうでもいい。筋力をもてあますことなく使いユイの元へとジャンプする。背中から落ちる寸前だったのをそのまま受け止め絶対に地面に当ててたまるか、という思いで自分の体を下敷きにする。

「ユイちゃん!」

「…大、丈夫……」

「にぃ…ママ……こわい……ママ……!!」

そのままアスナにパス、ユイを抱き上げてもらう。実際、痛みはないのだがその分不快感があってなんか気持ち悪い。
アスナがユイを抱きしめて数秒後、謎の怪奇現象は収まり硬直していたユイの体から力が抜けるのがわかった。

「……なんなんですか…今の…」

このシリカの言葉はここにいる全員の言葉を代弁したものだろう。そのシリカの胸の中でピナも弱弱しく震えていた。今起こった事がわからないまま一旦、教会に帰ろうということで気絶してる兵士を全員で踏みながら帰ることにした。






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