小説『恋した魔物』
作者:裏音(雨月夜ノ歌声)

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平和を愛する王が治めるフリージア。
だが、町にはいつも魔物がやってきて町を壊していく。
魔物のリーダーであるエレン。彼女は人型の魔物で、他の魔物が町を壊す様を見ている。
「町を壊すなああ!」
「ん?」
まだ10歳ほどの少年が、エレンに剣を振りかざした。
「邪魔だよ、ガキ」
「っ! うわぁぁぁっ!」
エレンが手で軽く払うと、風が小さな渦を巻き、少年を数メートル先へ飛ばした。
「あんたたち、私が誰かもう忘れたのか?」
エレンは笑いながら近くに積みあがった樽にたち、こう叫んだ。
「私はこの世界の魔王になってやる。そして、お前ら人間を私の家畜として使ってやる。アッハッハ!」
樽が崩れ落ちそうになると、エレンは身軽な体で飛び、魔物の背中に乗って町を去っていった。
今日もまた、町は荒れた。


「うーむ…どうしたものか。あの魔物さえこなければ町は…」
城では、王であるアワンが頭を抱えていた。
「アワン、少しお休みなさい。このままでは、貴方の体が…」
妃のエルラが、アワンを気にかける。だがアワンは、聞く耳を持たない。
「ああ、このままでは私の創り上げた国が…」
「アワン…」
エルラは、魔王により苦しむアワンを見てられず、息子、フロウを呼び出した。
「母上、どうしたのですか?」
「いい、フロウ。よく聞いて」
エルラはフロウに、父であるアワンが気に病んでいること、魔物が毎日町で暴れていることを話した。
そこまで話すとフロウは、何かを察したようにうなずいた。
「母上、僕が、魔物を倒します」
「フロウ…ごめんなさい。ありがとう」
夜、ひっそりとエルラは家宝である、炎龍という剣をフロウに渡し、そしてフロウは魔物のいる森へと向かった。
だが、フロウの母であるエルラは、自分の判断に自身が持てず、最後には泣き出してしまった。
フロウが、無事にこの城へ戻ってくるようにと、星に願った。


森に入ったフロウは、まずは寝床を探し、火を焚いていた。
「父上が…そこまで追い詰められていたなんて…僕が絶対、魔物を倒してやる!」
「誰を倒すって?」
茂みの奥から現れたのは、魔物のリーダー、エレンだった。
「お前は…魔物?」
エレンは人型の魔物であるため、フロウのような反応も珍しくは無い。
「どうした? 私を倒しに来たんだろう?」
だが、フロウにはどうしてもエレンが町を襲っているようには見えない。
「その剣は飾りか? 来ないのなら、食い殺すまでだ」
風が鳴き、フロウは身動きができなくなった。殺される。そう思った瞬間、
「逃げない…か。珍しい人間だな。気に入った。お前は殺さない」
「…は?」
エレンはフロウの顔まで近づくと、フロウの唇を噛み、血をなめた。
「ッ!!」
フロウは痛みと驚きに飛びのき、唇の血をぬぐった。
「人間よ、名は?」
「…フロウ」
「ふむ…私は、エレン」
まさか人間と魔物が互いに名を教えるなんて、歴史上一度もなかった。だが二人は、見えない何かで結ばれてしまったような、そんな感覚に襲われる。
「どうやら…私はお前が好きなようだ。しばらく、一緒にいさせてもらうぞ」
「まっ…待った待った! 魔物に告白なんて初めてされたよ」
「ふふ…面白い反応だ。これは普通の人間よりも楽しいかもしれない」
エレンは手の上で風を作り、クルクルと葉を回し始めた。
「ちなみに私は風を操れる。見たところ、お前は炎のようだが…まだ使いこなせないようだな」
フロウは自分の能力を当てられ、驚いた。
「まぁ、これからよろしく頼むぞ」
ミイラ取りがミイラになる。とは、このことを言うのだろうか。
そう、フロウは思い、がっくりとうな垂れた。
魔物に愛された哀れな青年。二人の歯車が、今回りだす。

FIN

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