小説『[完結]180秒のサイレンス【掌編集】』
作者:九路間 二四()

しおりをはさむ/はずす ここまでで読み終える << 前のページへ 次のページへ >>

最終話 「ミートパイ」



「こちら、第十二惑星探査機、搭乗員ビルナー。応答せよ」
『こちら、地球指令部クラウス少佐。どうぞ』

「また君か、クラウス少佐」
『ビルナー、調子はどうだい?』

「まずまずだな」
『どうだい、ビルナー。そろそろ地球が恋しい時期だろう?』

「……まあ、な」
『なあ、ビルナー。地球に還ったら、まず何が食べたい?』

「そうだな――ハリエダ通りにあるレストランのミートパイかな」
『おいしいのかい? そこのミートパイは』

「その逆さ」
『と言うと?』

「とびきりまずいのさ、別れた妻の手料理に似てるんだ」
『……そんなものが食べたいのか?』

「あのミートパイを食べれば、地球に還ってこれたんだと実感するはずだからな」
『なるほど。ぜひ口にしてみたいものだな、そのミートパイ』

「それは無理だな。クラウス少佐」
『……なぜだ?』

「もういいんだ、少佐。俺も馬鹿じゃない。もう分かっている」
『……何のことだ?』

「人類は滅亡している、だろう?」
『…………』

「おかしいと思っていたんだ。定時連絡ではいつでも君が応答するし、ここ数年そちらからの通信がぱったりとなくなった」
『…………』

「君は博士の作ったAIシステムなんだろう?」
『……気づいていたのか。ビルナー』

「なあ、クラウス。どうして俺に黙っていた?」
『寂しいんじゃないかと思ってな』

「この俺がか? 冗談言うなよ。知ってるだろ? 俺には家族も帰る家もない。寂しいわけないじゃないか」
『いや、違う。違うんだ、ビルナー』

「何が違う?」
『僕だ、僕が寂しかったんだよ。きっと』

「…………」
『君の言う通り、僕は博士の作ったAIシステム、ヒューマノイドだ。もちろん、『心』はない。そのはずなのに可笑しい奴だと思うかい?』

「いや……」
『でも分かるんだ。分かってしまう。この気持ちはきっと寂しさなんだ』

「なあ、クラウス」
『なんだ? ビルナー』

「本日を持って任務完了。これより地球へ帰還する」
『……いや、しかし』

「無事、地球に帰還できたなら――」
『できたなら?』

「クラウス。君と一緒にミートパイを食べよう」
『悪くない提案だ』







Thank you for reading this story. December 16, 2010 Niyon Kuroma

-10-
Copyright ©九路間 二四 All Rights Reserved 
<< 前のページへ 次のページへ >> ここまでで読み終える