最終話 「ミートパイ」
「こちら、第十二惑星探査機、搭乗員ビルナー。応答せよ」
『こちら、地球指令部クラウス少佐。どうぞ』
「また君か、クラウス少佐」
『ビルナー、調子はどうだい?』
「まずまずだな」
『どうだい、ビルナー。そろそろ地球が恋しい時期だろう?』
「……まあ、な」
『なあ、ビルナー。地球に還ったら、まず何が食べたい?』
「そうだな――ハリエダ通りにあるレストランのミートパイかな」
『おいしいのかい? そこのミートパイは』
「その逆さ」
『と言うと?』
「とびきりまずいのさ、別れた妻の手料理に似てるんだ」
『……そんなものが食べたいのか?』
「あのミートパイを食べれば、地球に還ってこれたんだと実感するはずだからな」
『なるほど。ぜひ口にしてみたいものだな、そのミートパイ』
「それは無理だな。クラウス少佐」
『……なぜだ?』
「もういいんだ、少佐。俺も馬鹿じゃない。もう分かっている」
『……何のことだ?』
「人類は滅亡している、だろう?」
『…………』
「おかしいと思っていたんだ。定時連絡ではいつでも君が応答するし、ここ数年そちらからの通信がぱったりとなくなった」
『…………』
「君は博士の作ったAIシステムなんだろう?」
『……気づいていたのか。ビルナー』
「なあ、クラウス。どうして俺に黙っていた?」
『寂しいんじゃないかと思ってな』
「この俺がか? 冗談言うなよ。知ってるだろ? 俺には家族も帰る家もない。寂しいわけないじゃないか」
『いや、違う。違うんだ、ビルナー』
「何が違う?」
『僕だ、僕が寂しかったんだよ。きっと』
「…………」
『君の言う通り、僕は博士の作ったAIシステム、ヒューマノイドだ。もちろん、『心』はない。そのはずなのに可笑しい奴だと思うかい?』
「いや……」
『でも分かるんだ。分かってしまう。この気持ちはきっと寂しさなんだ』
「なあ、クラウス」
『なんだ? ビルナー』
「本日を持って任務完了。これより地球へ帰還する」
『……いや、しかし』
「無事、地球に帰還できたなら――」
『できたなら?』
「クラウス。君と一緒にミートパイを食べよう」
『悪くない提案だ』
了
Thank you for reading this story. December 16, 2010 Niyon Kuroma