小説『世界一の幸せ者』
作者:桐原 蓮(★高畠の車窓から★)

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男は今日、56歳の誕生日。
彼の邸宅には100人以上の芸能関係者や、政界の要人などが集まっていた。
今回でちょうど26回目になるこのイベントは、1年のうちで一番楽しい日だった。
誕生日など、歳を重ねるにつれ鬱陶しくなるものだが、彼はこの日がくるのを楽しみにしていた。

彼は、貧しい農家の生まれだった。
夏休みになると、周りの子は遊園地などの観光地で遊ぶのだが、彼の遊び場はいつも、葡萄園や田んぼといった農作地だった。
他人が羨ましいと思った事が一度もないと言えば嘘になるが、それでも、季節ごとにかわる山の景色は少年の彼に、大きな夢を与えていた。

そんな彼に、人生の転機が訪れたのは、大学三年の秋だった。
生まれが農家なだけに彼は、農学部に入り日夜、農業の発展のために研究を重ねていた。

「おい!やったぞ☆成功だ!!」
一緒に研究をしている教授が、顔を真っ赤にして研究室に入ってきた。
「やったって?何をですか?」
「生えたんだよ!松茸!」

彼等は、人類でまだ誰も、なしえた事のない松茸の栽培に挑戦していたのだ。
大学には、日夜報道陣がつめかけた。
この研究で特許を修得し、1年中何をしなくとも大金がまいこんでくるようになった。

「今年も、1年お疲れ様でした。」
別に疲れてなどいないのだが、社交辞令なのだろう。皆口々にそう言うのだった。
「今や、収入はビル・ゲイツ並ですか?」
「政界への進出は考えていないのですか?」
様々な質問が飛び交う中、彼は自分の息子のところへ行きこう質問した。

「おまえは、自分が幸せだと思うかね?」
息子には、自分が味わってきたような辛い事は、一切させてこなかった。欲しい物はなんでも買ってやれたし、遊園地にも多いときで年に100回は行っていた。
「幸せだとして、どのくらい幸せだ?」
息子ははじめ困ったような顔をしたが、やがてこう答えた。
「世界一、いや・・・少なくとも日本一幸せだよ☆父さんの息子でよかった☆」

彼は、さらに続けた。
「では、世界一とはどのくらいだ?どのくらい金持ちならいい?どれくらい土地があればいい?地球丸ごと買えてしまう位か?笑」
これには、息子も言葉を詰まらせた。

「世界で一番の幸せ者・・・・それはね・・・・・・。」

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