小説『影は黄金の腹心で水銀の親友』
作者:BK201()

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プロローグ ラインハルトの腹心(注:実在します)


―――1939年ドイツ―――

ラインハルトは詐欺師と出会い、その影は詐欺師との再開に喜んだ。
そしてその日の夜ラインハルトとその影であるアルフレートは酒場に来ていた。

「ライニ、彼のことをどう思っている?」

ライニ、ことラインハルトに詐欺師について尋ねる。ちなみにライニとは愛称で今は軍務ではないのでそう呼んでいる。

「フム、卿のほうこそどう思っているのだ?」

「楽しんでる。喜びに満ち溢れてる。感動している。ああ、言葉では表せれないよ。何せ本当に久しぶりの再開なんだから!!」

酒場とはいえ、僕のテンションはやや高すぎるようだ。周りからも少しばかり目を惹かれている。

「私はクラフトの言うとおり戦争を仕掛けようと思うよ」

ただ静かに突然とそれだけを告げる。だが、それを言うのを知っていたので賛同する。

「いいと思うよ。ヒムラもアドルフもそれを望んでる。まあ、どの道勝てないだろうけど、目的は果たせるよ。邪魔だったフォルミスも既に僕が殺してる。後は口実を作るだけさ」

「そう言われると卿はこの日のためにまるで今まで知っているかのように行動してきたな?」

「そうだよ、僕はこれを、この日を知っている。既知ではなく、確固たる事実として知っているのさ」

呟くように言う。酒場の喧騒によってその言葉はかき消されるが何の問題も無い。そして言葉を続ける。彼に対する忠義を記すために。

「僕は影だ。誰かに依存しなければ此処に居れない。そして君は太陽だ、ライニ。僕は君の後ろで居続けるよ」

その年の八月、ドイツは後にグライヴィッツ事件と呼ばれる事件を口実としポーランドに対し宣戦布告をした。




******




「やあ、カール!本当に久しぶりじゃないか!最後に会ったのは何時だっただろう。君の初恋は続いているかい?」

「相変わらず、騒がしいことだ。だが、質問には答えよう。私と君が最後に会ったのは前の世界の三千年頃だよ。全く、少しは座の方まで来てどうだい?そうすれば君とは頻繁に会えるだろうに。そして未だに私の恋は続いているさ」

相変わらず聞けばこちらが苛立たしくなりそうな言葉遣いで話してくる水銀…いや今はカール・クラフトか。それにしても初恋はまだ続いていたか。

「それは良かった。君の恋を僕は応援しているからね。今度その子、え〜っと「マルグリットだよ」そう!そのマルグリットのためにプレゼントを用意するよ。君がいかに素晴しいという事を手紙に書いて」

「結構だよ。彼女に贈り物を渡すのは私だけで十分だよ」

「君も相変わらず過保護だね、カール」

そして相変わらず惚れた女性には甘い奴だ。まあ、後で彼女の気に入りそうな物をカール経由で渡せばいいか。

「そうかね、まあ別にいいではないか。所で、君は黒円卓には所属するのかね?今ならば二番、七番、十番が空いているが?」

「僕は入らないよ。影の魂は売れないからね。そうでなくとも二番は厄介事の請負になるだろうし、七番なんて天秤は僕には向かない。何せ確実に贔屓するだろうからね。十番は諜報役だ。そんなものはしたくも無いよ」

「やはりか、しかしそうなれば誰がいいと思うかね?」

「二番は傀儡でも用意しろ。七番はあれだ、地獄(ヴァルハラ)で生き残った奴にすればいい。十番は適当で良いだろ」

「そうかね。君の予想は当たるから頼りにしているよ」

そりゃカールとは違って起こりえた未来の一部を知ってるからね。ほとんどが虫食いの記憶になってるとはいえ。僕の起源は喰らう事だから都合の悪い未来や平行世界の可能性を喰らって過去にその記憶を持ち込んでるようなものだからね。ある意味ではカールと逆のことをしているようなものだ。

「では、次また会うとしよう」

「ああ、我らの栄誉の為に。そして」

「「君の(私の)愛する女性の為に」」




******





―――1944年 ドイツ首都ベルリン―――


「クソッ!」

SSの部隊一人は蹂躙されていく都市を見ながら走り続けていた。

「隊長、他の奴らはどうなりましたかね?」

そのすぐ後ろを同じように走っている二人の若い下士官の内一人がそう呟く。

「知るかッ!他の奴らより自分のことだけ考えてろ!」

そう言いながら隊長と呼ばれた士官は壁まで走りぬけ、特注のMP44(Stg44)を構えて壁越しに撃ちまくる。

「パンツァーを構えろ!あの赤軍の戦車(イヌ)にぶちかましてやれ!!」

そう部下に指示するとすぐさまパンツァーファウストを構えて敵である赤軍の戦車に撃ち込む。
パンツァーは見事に戦車に当たり戦車は物言わぬ鉄屑へと変貌した。

「よーし!やったぜ!」

部下の一人がその場を立ち戦車を倒した喜びを噛み締める。

「オイ、バカッ!?」

その瞬間一発の銃弾が彼を襲い、それに続くかのように大量に銃弾を撃ち込まれる。
彼が肉片になるまで一秒も掛からなかった。

「クソ、クルツ!ここから離れるぞ。走って付いて来い!」

クルツと呼ばれた下士官は仲間がやられたことに恐怖しながら隊長に従って走り抜ける。しかし、

「ウアァッ!?」

目の前に居た隊長は砲弾に巻き込まれ吹き飛ばされる。クルツも隊長も直撃ではなかったものの隊長の方は吹き飛ばされ既に事切れていた。
クルツは思う。どうしてこうなったのだと。元々彼は軍人ではない。徴兵によって仕立て上げられ、銃を人に向けて撃った経験も無い人間だ。自分よりも成績の良かった同じ部隊の仲間達は目の前で撃たれて死んだ。唯一戦場での経験のあった隊長も砲弾に巻き込まれ死んだ。残っているのは自分だけ。その現実に恐怖する。

(ならどうするんだ?君は特別でも何でもないだろ?)

決まってる。此処から逃げたい。生き延びたい。もうこんな所から一刻も早くこんな現実から逃げ出したい。

(いいだろう。その願いを叶えてあげるよ。凡そ最悪の形で)

その瞬間クルツは疑問に思う。一体誰が話しかけてるのかと。そして悪寒を感じ後ろを振り向くと……そこには得体の知れない|影()がいた。

「う、うああぁぁー!」

言われもないその影に恐怖し此処が戦場であることにも関わらず走り出す。



何時まで走り続けただろうか?億劫になりながらも、ふと回りを見渡してみると気付いた。静か過ぎる、と。いくら彼が恐怖を感じ現実から逃避したからといっても現実がなくなるわけではないのだ。なのに何も見えず、何も聞こえなかった。いやそもそも此処は何処だ?俺は何のために生きてるんだ?そもそもオレハナンナンダ……

「あ、ああ、ああああぁあぁぁああ!!!???」
「わああぁぁあぁ!」
「おい馬鹿!撃つな!?味方だぞ!?」

その戦場は唯でさえなかった秩序を狂わし混沌と化していた。



******



「Mit schwarzer Mtze, Totenkopf (黒い帽子に髑髏と)
und silberweien Schnren, (白銀の飾り紐。)
so sieht man heut landauf, landab (今日人々は各地で見る、)
die braune Front marschieren; (褐色の前線が行進するを。)
wir sind der Freiheit letzter Hort, (我等は自由の最終保護者、)
sind mutig, sturmerfahren, (雄々しく前衛にたち、)
verlachen trotzig feigen Mord. (臆病な殺戮に抗して笑う。)
Wir sind die schwarzen Scharen. (我等は黒い小隊。)
Valleri, vallera, valleri, vallera, (ヴァレリ・ヴァレラ)
Wir sind die schwarzen Scharen. (我等は黒い小隊だ。)」

独り軍歌を歌い酔いしれながら戦場で歩く。傍から見れば自殺行為だろう。しかし誰も気に止めない。気にすることが出来ない。彼の周りの人は全て狂ったように叫ぶだけだった。
この場にいて狂わないのは黒円卓に連ねる者達だけだった。SSも連合軍も赤軍であろうとも彼の周りは阿鼻叫喚の地獄絵図だった。

「君達の魂は無駄にはならないよ。皆ライニの地獄(ヴァルハラ)で永遠に生きるだけだから」

そう呟き彼は戦場を歌いながら歩き続ける。

「Auf! auf! Ihr Kmpfer, Mann fr Mann, (起て起て闘士よ、残らず起て、)
hoch flattern unsre Fahnen, (我等の旗をひらめかせ。)
tragt sie zum letzten Sturm voran, (闘士らが最後の前進をする時、)
sie sollen euch gemahnen: (必ず諸君らを思い出す。)
SS marschiert! Die Strae frei! (親衛隊よ行進、街路を開け!)
Die Sturmkolonnen stehen! (突撃縦隊ここにあり!)
Sie werden aus der Tyrannei (闘士らは圧制から自由の道へ)
den Weg zur Freiheit gehen! (進んでいるのだ。)
Valleri, vallera, valleri, vallera, (ヴァレリ・ヴァレラ)
den Weg zur Freiheit gehen! (そう、自由の道へと。)

Wir kmpfen um der Freiheit Recht (我等は自由の権利を求め、)
fr Volk und Heimaterde. (民族と国土の為闘う。)
Wir wollen sein ein frei Geschlecht (我等は自由の民、)
am eig&amp;#039;nen, freien Herde. (自存と自由の集団とならん。)
Drum auf! Bereit zum letzten Sto! (だから起て、最後の突撃へ!)
Wie&amp;#039;s unsre Vter waren! (祖先が為した如くに起て!)
Der Tod sei unser Kampfgenoss&amp;#039; ! (死が我等の戦友ぞ、)
Wir sind die schwarzen Scharen. (我等は黒い小隊、)
Valleri, vallera, valleri, vallera, (ヴァレリ・ヴァレラ)
Wir sind die schwarzen Scharen. (我等は黒い小隊だ。)」

「ライニ。残念ながら影である僕は君に魂を売ることは出来ないが、君が再び現れることを期待してるよ。それまでしばらくは眠るから。カール、聞こえてるだろう。そう伝えてくれ。勝利万歳(ジーク・ハイル・ヴィクトーリア)」

そうして彼は戦場を離れる。

その後、歴史は史実通り連合軍が勝利を収め、彼アルフレート・ナウヨックスは捕まり裁判を受けるが1960年にて行方不明となる。しかし事実が公表されることは無く、彼は裁判にかけられることなく死去したという事になった。



******



「それで、暇だから私のところに来たと?」

「そうだよ。だって君が言ったじゃないか、たまには座に来いと。十六年も待ってやったのに何も出来ないんだから、期待はずれもいい所だよ。スワスチカが開くまで此処で待たせてもらうよ」

「まあ良いが、君はこれからどうなると思っているのだ」

「期待はするさ。ラインハルト達もこれで準備が整った。後は人形の出来と君の女神がそれを喜ぶかどうかしだいだよ」

これより、史実と異なる一つの物語が始まる。彼は影であり決して舞台で頂点に立つことはないが、それゆえになかなか興味深い。では一つ死と呪いを持つ『交響曲第九番』における最初にして最悪の序曲を御覧あれ。


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