小説『ハイスクールD×D×H×……』
作者:道長()

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第十一話


「……なんだこれは……」

思わず疑念の声を上げてしまう。
遺体の大体の処理が終わった後、家に戻り、ついさっき来た書類に目を通していると妙な事実が浮き上がって来た。

「宗派も所属教会もバラバラ……。これでは一軍団としては成り立たんぞ……」

悪魔祓いにも宗派がある。確かに彼らのやり方に宗派による大きな違いは無い。だが聖剣エクスカリバーも管理している三大宗派(エクスカリバーは先の大戦で複数に砕けてしまいキリスト教の三大宗派の手に渡っている)の溝は大きくは無いが、決して無視出来る程小さい訳では無いのだ。

個人単位なら当事者同士で折り合いを付ければ良いが、軍団となれば宗派が違うと言うだけで完全な統率には時間が掛かる。何かしらの軍事行動を起こす際、宗派は可能な限り揃えるのが普通だ。
だが、今回集まった悪魔祓いは「はぐれ」とはいえ、宗派の統一性など皆無。しかも経歴を見る限り一癖も二癖もある人間ばかりである。統率には長い時間が掛かるだろう。その証拠に、今さっきの殺害が統率出来ていないことを如実に示している。
これでは大規模に傭兵を、いや。義勇兵を募ったのと大差は無い。それなりに位が高い堕天使だったらこんな事は有り得ないのだ。

「となれば今回の行動は末端に近い堕天使が行ったのか……? つまりアーシア・アルジェントは組織全体の意思では無く、個人的な意思によって目を付けられたと……?」

ここでリストアップされた堕天使の中から上級堕天使と、大部分の中級堕天使が外れる。
残るは僅かな中級堕天使と、悪魔祓いに武器を与えられる程、光力の高い下級堕天使が残った。
そして最近駒王の近くで見られた堕天使を絞れば……。

「一誠殺害の疑惑が有るレイナーレ……。コイツが当たりか?」

まだ確証は無いがこの辺りが妥当だと思われる。後は彼女がアーシア・アルジェントの何を狙っているかが分かれば良い。

「……取り敢えずココまで分かれば上出来か……」

大きく一伸び。
実はさっきから欠伸が出てしょうがない。睡眠不足は仙術や丸薬で誤魔化しているが、それにも限界がある。一度マトモに休んで置かないといざという時に動けなくなる。明日は一誠も休ませるようだから、その護衛もしよう。
しかも明日はあまり好きでない英語の授業が有るのだから、休むのは最早天の啓示とも言って良いだろう。
世界の共通語が日本語になれば楽なのだが……。何故動詞が主語の後にすぐ来るんだ? 日本語は動詞が最後に来るのに。あれは日本を弱体化させるために、人類が言葉を使い始めた頃から仕組まれた世界単位での陰謀だと思われる。

「シャワーでも浴びて寝るか……」

流石に死体を扱った手のまま寝るのは、精神的にも衛生的にもキツいものが有るからな。相手には少々悪い気がするが……。














翌日、昼過ぎ。

「どうしてこうなった……」

リアスに連絡を取って学校を休み、一誠の護衛をする旨を告げた後、一誠の行動を朝から見守っていたのだが……。

「あぅぅ……」

ハンバーガーショップで、注文に難儀している。金髪と碧眼が特徴のシスターことアーシア・アルジェントと

「あ、あの注文は……」

その対応に困っている店員。

そして……。

「すみません。俺と同じメニューで」

何故か最重要ターゲットと親しげにしている一誠が居た。

(何故一誠がアーシア・アルジェントと……)

何故私が接触したくとも接触出来なかった人間と、お前が仲睦まじくポテトを摘んでいるのだ……。
駆け出しと言っても一誠は悪魔。そんな彼が神に仕える外国人のシスター、しかも美少女との接点が在るとは思えないのだが……。

(まさか以前リアスに怒られたのは……)

彼女に関係が有るのか。
ハンバーガーショップの向かい側にある書店で今週発売のMの付く分厚い漫画雑誌(Jは既に読み終えている)を読みながら、一誠達の姿を千里眼と魔術を使って、監視兼、盗み聞きしている私。
我ながらストーカーも良い所である。一誠という対象に美少女が付属しただけで犯罪臭が漂い始める、不思議!

(む? 移動するのか)

丁度野球漫画(因みに自分はファーストの三年の先輩が好きである)を読み終わった所で二人が席を立つ。

(幸運と言えば幸運なのか)

もしかしたら何か掴めるかもしれない。予想外だったが護衛は続行だ。

「あ。五千円しか無い……」

ついでに読書もな。















「峠最速伝説イッセー!」
「速いです! 速いです、イッセーさん!」

昼食の後、一誠達はゲーセンに来ていた。お巡りさんがいたら即刻補導であろう光景に、今の自分を重ね合わせて仄かな罪悪感を感じながら、彼らの様子を伺う。

一誠の若干痛い姿を見てこどもの様に、はしゃぐアーシア・アルジェント。





「よし。俺が取ってやる!」
「えっ! で、でも!」
「いいから、俺が取るよ」

次にクレーンゲームに興じる二人。
五回目でやっと人形を落とし、一誠がそれを手渡す。
礼を言うアーシア・アルジェントは本当に嬉しそうだった。
それを見ている私は、

(……何ともまあ)

デートというより、仲の良い兄妹を見ているような、見ていると心が温まるような光景に、うっかり本来の目的を忘れてしまいそうになっていた。

「よし! まだまだこれからだ! アーシア、今日一日遊び尽くすぞ! ついて来い!」
「は、はい!」

そう言ってゲーセンの奥に消えていく二人。

(やれやれ……。遊び盛りの王子様と世間知らずのお姫様の護衛といくか……)

仕方無い。今日一日振り回されてやろう。















「あー、遊びすぎたな」
「は、はい……少し疲れました……」
(その通りだ。尾行する此方の身にもなってくれ……)

結局夕方まで遊んでいた二人が歩道を並んで歩いていた。
悪魔の体力基準で店内を駆け回るのは止めて欲しい。この程度でへばる程、柔では無いが。

「ととと」

イッセーが不意に体勢を崩す。
どうやら足に違和感が有るようだ。

表情を曇らせるアーシア・アルジェント。
身を屈めるとイッセーにズボンを上げさせて、イッセーの左のふくらはぎに手を当てると。

(! あれは!?)

みるみる内に一誠の銃創が無くなっていく。
治癒魔術か?
いや。魔力、ましてや仙術に使われる気等は感じなかった。
となれば……

(神器(セイグリッド・ギア)……か。つまりアーシア・アルジェントが狙われた理由は……)

どうやら堕天使は彼女の神器が欲しかったらしい。悪魔まで治せる神器は希だ。悪魔が治せるのなら堕天使も治せる。堕天使、悪魔共に喉から手が出る程欲しい代物である。

(では何故単独行動を……?)

これ程希少なモノなら上に知らせるのが当たり前だ。そして組織全体で確保に当たるのが確実かつ、正しい方法の筈……。

(そういえば、報告書に儀式関係の物品が教会に運ばれたと書いてあったな……)

ゆっくりと、今までは只の情報の羅列に過ぎなかったものが意味を成して一つの事象へと組み上がっていく――

(ん?)

誰かの嗚咽が聞こえて組み立て作業を中断。
声のした方を見ると……

(何を泣かせているんだ……一誠)
アーシア・アルジェントが座り込んで泣いていた。その姿は触れたら折れてしまいそうな位、儚げで弱々しい。
どうして良いか分からないといった風体の一誠は彼女を連れて、ベンチに腰を下ろした。
座った後、少女がぽつり、ぽつりと語り出す。



それは徐々に落ちていく夕日が洒落にならない位に似合う、物語から切り取ってきたかの様な「聖女」から「魔女」に転落した彼女が生きてきた道筋だった。














(……嫌な話だ)

一頻りアーシア・アルジェントの話に耳を側立てて、胸から這い上がって来た苦いモノを少しでも吐き出すために呟く。
そうやって何かが変わる訳では無い、だがそうしないと息が詰まってしまいそうだった。

(怪我を治せるからと言って、勝手に「聖女」に祭り上げ、悪魔を治したからと言って今度は「魔女」として追放か……)

しかも「魔女」と宣告された時誰も彼女を庇う人間は居なかった。そうして神の加護を受けられなくなった彼女は堕天使に下った。

他者の利益を優先するものが最終的に自分勝手な人間に食い潰される。
そんなことはよくある話である。だが、だからと言って彼女の過去をよくある話で済ませて良い筈が無い。
そして、そんな誰よりも救いが必要な彼女を天は救わない。誰よりも神を信じた彼女が望んだのは只の友達だった。そんなささやかな願いすら聴かぬというのか。

(ふざけるなよ……)

何故彼女が報われない? 必死になっている人間が苦しむ社会等在ってたまるか。それに彼女の頑張りは、敵である悪魔一人を治しただけで吹き飛ぶ程薄っぺらいものでは無い筈だ。

腹の底から溶岩の様に熱く、絡み付くような怒りが込み上げてきた。

その努力、なんとかして報いてやりたい。だが私は……



――良いかい。絶対に人間は殺しちゃダメだよ? そしたらボクは――

過ぎ去った筈のモノが戒める様に私を縛ってくる。

(手を差し伸べて何になる。また繰り返すのかもしれないのだぞ……)

もうあの時の自分とは違うと分かっても、逃れようの無い過去が私を臆病にさせる。故にもう――



「アーシア、俺が友達になってやる。いや、俺たち、もう友達だ」

些か寒々しい追憶をしていた私は、一誠の言葉に思わずきょとんとしてしまった。

「あ、悪魔だけど、大丈夫。アーシアの命なんて取らないし、対価もいらない! 遊びたいときに俺を呼べばいい! あー、ケータイの番号も教えてやるからさ」

一誠が必死に言葉を繋げる。御世辞にも上手いとは言えない喋り口だ。例え天地がひっくり返っても一誠はセールスマンにはなれないと思われる。こんなに辿々しく、感情を剥き出しにした話し方ではとてもじゃないが、商売は出来ないだろう。

けれども

「……どうしてですか?」
「どうしてもこうしてもあるもんか! 今日一日遊んだだろう? 笑い合っただろう? なら、俺とアーシアは友達だ! 悪魔だとかそんなの関係ない! 俺とアーシアは友達だ!」

それゆえに真っ直ぐで、一点の曇り無く。

「それは悪魔の契約としてですか?」
「違うさ! 俺とアーシアは本当の友達になるんだ! そういうのはなしだ! 話したいときに話して、遊びたいときに遊んで、そうだ、買い物にも今度付き合うよ! 本だろうが花だろうが何度でも買いに行こう! な?」

心に響く、なんと美しく、眩しい言の葉であろう。
私では決して出来ないだろう、害意も打算も無い、バカ正直な一誠だからこそ言える祝詞。

人間の醜い面を見せ付けられてきた魔女にとって、何れ程の救いとなるだろうか。

事実少女は口元を手で押さえながら、嬉し涙で眼を再び濡らしていた。

(……本当に良くも悪くも真っ直ぐな奴だ……)

おかげで私まで泣きたくなってきたじゃないか。そして……




「感動の場面でよくもまあ。己の醜い欲望を堂々と晒け出せるものだな? 堕天使レイナーレ」

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