小説『ハイスクールD×D×H×……』
作者:道長()

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第十三話


ガラララッ

オカルト研究部のドアを開けると、已に彼等は臨戦態勢に成っていた。

「全員居ますね。協力の是非を確認……しようと思ったけど、その必要は無さそうだね」
「当たり前でしょ。私の管理している土地を荒らす様な堕天使にはお仕置きをしなくてはね」

リアスの満面の笑み。
実に良い笑顔である。怒気を滲ませていなければ、さぞかし絵になっていただろう。

「一誠は勿論だが……、他の皆はどうだ?」
「問題ありませんわ」
「僕も、むしろ誘ってくれて感謝しているくらいだよ」
「私も大丈夫です」

三人とも同意してくれている様だ。話が早くて助かる。

「それでは戦力の割り振りと大まかな作戦の説明をする。私以外のメンバーは教会に突入し、先ずアーシア・アルジェントの確保。その後は其処にいるだろうレイナーレの撃破だ。他の奴は適当に蹴散らしてくれて構わん」

リアスと女王の姫島は当然だが、木場と搭城も下級悪魔としては破格の戦闘能力を持っている。彼等なら下級堕天使と悪魔祓い程度は問題無く倒せるだろう。それこそ一誠のカバーをして釣りが返ってくる位はやってのける筈である。

「慶路は行かないのか?」

一誠が最もな質問をしてきた。確かに私が教会に行かないのは不自然に思うだろう。

「私はゲストの出迎えだ。何、すぐに終わらせて合流する」
「ゲスト……?」
「援軍の事だよ。兵藤くん。多分譲刃くんは、一族の人と組んで対処に当たるんじゃないかい?」

疑問符を浮かべた一誠に木場がすかさずフォローを入れ、察し良く、私が言おうとしてくれた事を代弁してくれた。まぁ。それは当たりでもあり、外れでもあるのだが……。

「そんな所だ。事は一刻を争う。外に車を待たせているからソレに乗ってくれ。それと……」

コートのポケットに突っ込んで置いた、一枚の札を一誠に手渡す。ルーン文字とラテン語、漢字が刻まれている何とも奇怪な札である。

「これを渡して置く」
「これは……?」
「神器が抜き取られた際、一定時間代わりになってくれるものだ。最悪アーシア・アルジェントの神器が抜き取られた時はコレを彼女の背中辺り当てろ。そうしたら勝手に術式が発動する」

駒王に来た時、一通りの道具を持ってきて置いて良かった。備え在れば憂い無し。人命が懸かっている仕事をしている以上、常に最悪の事態を想定するのは大変だが必要な事だ。

「それとこれは教会の見取り図。此方はリアスに預ける」
「ありがとう。有効に活用させてもらうわ」

さて、コレで準備は整った。だが

「全体に知らせて置く事はコレで終わりだ。最後に一誠」
「ん? なんだ?」

これだけは伝えて置かねばなるまい。

「リアスから聞いたかもしれんが、神器は……」
「使用者の想いの力で動く、だろ」

任せろ、と言わんばかりの頼もしい笑みを浮かべて応えてくれた。つい此方もつられて口元が緩んでしまう。

「分かっているのなら良い……、お前なら完全に力を引き出せると信じているぞ」
「ありがとよ!」

そうだ。真っ直ぐな一誠ならきっと神器を使いこなして、友達を助けられるだろう。後は私が援軍を潰せばそれで終わり。ただそれだけの事。



「それでは作戦開始だ。諸君、健闘を祈る」



「「「「「おうっ!」」」」」















「此方B班。北ブロック、閉鎖完了しました」
「了解した。君達のブロックの閉鎖で最後だ。次に私が連絡、もしくは堕天使か悪魔祓いが来るまで待機していてくれ。もし来た場合は投降するようなら保護、抵抗した場合は武力を行使して構わん」
「了解」

無線を切り、大きく息を吐く。恐らく教会の方はもう始まっているだろう。

さてと……

「斬」

予め呼び出して置いた『斬鬼 羅刹』で大地を斬る。音も無く、傷痕も無く、コンクリートの大地を刃が通り過ぎる。

「剥離」

その言葉と共に風景がブレる。
徐々にそのブレは大きくなっていき、

「固定」

そして突如そのブレは止まり、どこか味気無い、乾いた世界を眼球が写す様になる。

「良し……」

これで半径1キロ程度に境界線を引けた。私が死なない限り、この異空間は崩壊する事は無い。
これで彼等は増援として教会に行く事も、逃げる事も出来なくなった。

「それでは此方も始めるか……」

一応『羅刹』は仕舞って置こう。人ならざるモノには少々毒気が強すぎる。














どこかわざとらしい月の光が、三人の堕天使を事務的に照らしている。そして突如彼等が立ち止まった。
どうやら異変に気付いたようだ。

「おかしいわ……。さっきから同じ所を回ってる……」
「結界……いや。それにしては手応えが無さすぎる……」
「ヤな感じ〜。さっさと壊しちゃおうよ」

堕天使カラワーナは論理的に、ドーナシークは感覚的に、ミッテルトは感情的に、三者三様の反応をしていた。ただし、警戒心を露にしているのは共通である。

「やっと来たか」
「……貴様は……」
「久し振りと言った所か。堕天使ドーナシーク」

いつの間にいたのか。
黒い人影が彼等の前に姿を見せていた。月明かりに照らされているその顔は、冷たく、しかしながらこの世界では異質な生者の灯火を――だがやはり凍えるようなモノを――眼に宿していた。

「これは貴様の仕業か?」
「そうだな。これは私が原因だが、結果はどうなるかは君達に掛かっている」

ドーナシークの問いに淡々と答える慶路。

「投降しろ。今なら禁固辺りで済む」
「ねぇ。ドーナシーク。コイツ、ムカつく〜。早く殺しちゃいましょう〜?」

クスクスと、耳朶に残る嘲笑を発するミッテルト。どうやら目の前の人間の事を取るに足りない存在と思っているらしい。

「気を付けろ。ミッテルト。どうやらソイツのせいで、この前ドーナシークは怪我をしたらしいからな」
「へぇ〜、ドーナシークをね〜……。でも三人相手にどこまでやれるかしら?」

カラワーナの言葉に少しばかり興味を持ったらしいミッテルトが好奇の眼差しを慶路に向けた。

「ねぇ、貴方。私達に協力しない? 貴方の結界術は中々使えるものみたいだし。戦闘能力も高い。顔も、前にレイナーレ様にベタ惚れだった、あの人間のバカ面よりずっと良いし」
「……あの人間とは……一誠の事か?」
「そうよ。ほんと、彼には笑わせて貰ったわ」
「そうね。良い酒の肴だったわね」
「今思い出しても腹が捩れそうだわ!」

慶路を除いた三人が笑いを堪え切れずに吹き出した。

「…………もう一度……聞く…………。投降する気は無いのだな」
「それはコチラの台詞だ。貴様こそ、今ならレイナーレ様に進言して悪魔祓いとして雇ってやってもいいぞ? 人間にしては優秀な様だからな」

割かし本気の調子でドーナシークが問う。何かを必死に噛み締める様に話す慶路の様子には気付いていない様だ。

「断る。いやしかし。本当に良かった。今更降伏されたらどうしようかと思っていた所だ……。いや。本当に良かった……」

独り言の様に呟く慶路。とはいってもその声は堕天使の耳に届いており

「何が良かったって……? 図に乗るなよ! 人間風情が!」

勘に障ったらしいカラワーナの怒号が響き渡る。
しかし慶路は表情一つ変えない。寧ろ先程より色の無い、氷像の様な冷ややかさを醸し出し始めていた。
それが更に気に食わなかったのか

「調子付くなぁぁぁぁ!」

カラワーナが極太の光の槍を形成し、風切り音と共に慶路に投げつける。
爆発音が砂埃を撒き散らしながら堕天使達の元まで響く。

「あ〜あ。ヤっちゃったね〜。折角良い人材が手に入ると思ったのに〜。」
「短気は良くないな。カラワーナ」
「うるさい」







「四仁が一人。譲刃刀路が血統、慶路の名の元に命ず。喚起せよ。『斬鬼 羅刹』」
「「「!?」」」

聞こえてはならない筈の音が厳かに、さざ波の様に響く。
砂埃の中から少しずつ、人影が現れ始めた。その手には数秒前には存在していなかった一振りの太刀が握られている。



「我、万物に遣わされし、断罪の刃にして、天秤の計り手なり」


「ゆ、譲刃……!?」
「何故ここに居る!? この土地にはグレモリーがいるのだぞ!」
「中途半端な土地だからここで儀式をしたのに……」

動揺する三人を尻目に慶路が遂に日本刀に手を掛ける――

「我が名は譲刃慶路。推して参る」

刹那

一息で人がカラワーナの元に跳び

「あ……」

袈裟に銀閃が躯を疾る。

ドサッと、重力に引きずられて上体が肩口から、冷たいセメントの大地に墜ちた。
残ったモノも鮮血を迸らせながら思い出した様に倒れた。

「ヒッ!」

ミッテルトがカラワーナを分断した凶刃を思わず見てしまう――







――しね………………シね…………死ね……死ね…死ね死ね死ね死ね殺す殺す殺す殺す殺す憎い憎い憎い憎い憎い憎い滅滅滅滅滅滅滅滅滅滅滅滅滅滅滅滅滅滅滅滅滅滅――







「あ……う……あは。あはは……」
「ミッテルト……?」

不審に思ったドーナシークが虚ろな笑いが聞こえる方を見る――

「アハハハハハハははははははHAHAHひゃひゃひゃあ〜……ぁぁぁぁああああああアアアアアAAAAaaa!」
「しっかりしろ! 何をされた!」

頭を抱えワラい続けるミッテルトに語り掛けるが





「あぁぁぁ〜〜もぅ! 早く殺してぇよ! そnな ●シタイんデしょ! Sぁ早 、はやく、ハヤク、 ヤク、はYAク、〜 〜〜〜〜 〜― ―」




「ああ」

残酷な程美しい刃が一瞬の躊躇いも無く首を跳ね飛ばす。
跳ね飛んだ首には未だにワラッた顔が貼り付いたままだった。

「ッ……」

距離を取らねば一瞬で終わると、ドーナシークが間合いを広げる。
それを慶路は追い打ちをかける事無く、黙って見ていた。

「譲刃の者よ……! それはまさか……!」
「……お前の思っている通りだ」

慶路が『羅刹』に付いた血を払いながら、言葉を返す。

「『壱式【業器】(ギルティ・ギア)斬鬼 羅刹』其れが此れの名だ」
「やはり……!」

怯えた表情を浮かべながらも、心底納得いったらしいドーナシークが首を縦に揺らす。

「クソッ……! ここは……」

何とか逃げようと翼をはためかせ――





「逃がさん、翔べ。『羅刹』」

中空で銀が翻ると

「ガッ……」

翼を両断する。痛みに堪えきれずドーナシークが転がる様に倒れる。

役目を果たせなくなった羽の残りが未練がましく痙攣していた。
そしてヒタヒタと、濃厚な死の気配を引き連れながら黒い影が近付いて行く。

「終わりだ……」

シンとした空気は身動ぎせず、影のさながら断頭台の様に掲げられた凶器を受け入れていた。

(ああ……。そういえば)

審判者の姿が重なって見える目の前のモノを見て、己の精神が押し潰されていく音を聞きながら、ドーナシークはふと思い出す。

今代の譲刃の当主の二つ名を










「『鋼鉄の断罪者』〈アイアン・エグゼキューショナー〉……」










――空気を裂く音も立てず、裁きは下された――

-15-
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