小説『ハイスクールD×D×H×……』
作者:道長()

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まえがき
木場と主人公の口調が大分被ってますね……。思考の部分は変えてるんで誰が話しているかは分かるとは思うのですが……。



グラウンドから野球部の威勢の良い声が聞こえる。時折ノックの快音の後に響く野次が高校野球の泥臭さを際立たせる。高校野球の魅力というのは技術ではなくやはりそのひたむきさであろう。彼らは負ければ終わりなのだ。故に一球に懸ける思いはペナントレースという長丁場で競うプロの比では無い。そこから生まれるドラマが観客を魅力し、テレビの前の少年に夢を抱かせるのだと思う。

それでだ。何故こんな事を考えているのかというと……

「此処。本当に学校の一教室なのかな……?」

教室中に書きなぐられた様々な術式(悪魔の式が使われていて世界的にも雰囲気的にも違和感たっぷり)、中央の魔方陣(冥界から魔力を引き上げてるのもあり、時々光ってる)、大気に満ちる濃厚な魔力(うっかりコップ一杯じゃなくてプール一杯突っ込んじゃったレベル)。見た目もさることながら、人よりも敏感なセンサーをしている自分にとってはさっきから脳内で警鐘が鳴りっぱなしなのだ。つまるところ先程までの思考はここから10分もあれば届く日常に対する思慕。一言で言えば現実逃避である。
この教室の防御能力は最早ちょっとした籠城が可能なレベルだ。それだけなら構わないのだが、どうも教室内の魔力と外の魔力の量と質が違いすぎて体が勝手に身構えてしまう。

「最悪の場合は此処を拠点の一つにしてこの町の防衛にあたるのよ?そう考えればこれでも足りないくらいよ」

答えるのは紅髪の美女。件のサポート対象、リアス・グレモリー嬢。上品な雰囲気の中にアクティブさを内包した女性である。学院の二大お姉さまの一角で学院で一番人気の女子生徒。
ソーナとは違い、温かみのあるタイプの造形であることと、行動力のある性格から高貴さと裏腹に親しみやすく感じる。
そして何より身体の一部分の成長が凄まじく、男子生徒が見たら数日は夜が大変だろう。……いや。寧ろ楽か?

「そうなんだろうけど……。落差が有りすぎてちょっと酔いそうなんだよね……」

昼食は消化して今は小腸にあるだろうから出るとしたら胃液だと思われる。
人体は素晴らしい。ちゃんと消化の過程毎に幽門やらで仕切ってるから逆流するものがある程度予想出来る。1〜10まで出たら色々とショックは大きいし。
……想像したら余計気持ち悪くなってきた……失敗……。

「ごめん……。本気でマズイよ。これ」
「ちょっと!? 朱乃! バケツバケツっ!」
「ただいまっ!」

掃除ボックスに駆け込んだのは黒髪ポニーテールの大和撫子。リアスと対になる学院の二大お姉様の片割れでクイーンの姫島朱乃。この子も足を振り上げる度に胸に直下型地震が起きるレベルである。あ。でも揺れ方的に違うか。

「はい。どうぞ」

笑顔でエチケットバケツを渡してくれる姫島さん。……その親切心と気遣いになんともアンニュイな気持ちになる。

「ありがとう。……けど多分大丈夫だと思う……。少しずつだが慣れてきた」

割りとスイッチがオフな感じで部室に入ったからだねこれ……。

今は戦闘モード気味になってるから問題は無いか。

「あはは。吐かなくて良かったね(チラッ)」
「……(ピクッ)」

雰囲気が変わったのを察したのか、今まで口を開いていなかった二人が反応する。

一人は男子生徒の木場祐斗。絵に書いたような爽やか系のイケメン。流石はキングを守るナイトと言った所か。いつもなら涼しげな目許を細めながら笑うのだろうが、今は寧ろ鋭くしている。

もう一人は小柄な美少女。塔城子猫。手にしていたチョコレートを食べるのを止めて此方に軽く目配せしている。身体に見合わずクラスはルーク。もし今からやり合うとしたら一番先に潰すのは彼女だろう。この密閉空間でルークの怪力と防御とやり合うのは愚の骨頂。

優先順位は塔城、姫島、リアス、木場か?恐らく部屋の術は姫島のだろう。

塔城を切り捨てた後、姫島を人質に取って脱出……。頃合いを見て姫島を目の前で殺害後、激昂したリアスを……。っといかん。切り替え過ぎた。微妙に抜きかけてたな……これ。

「すまん。切り替え過ぎた。敵意は無い」
「こちらこそごめん。つい反応しちゃってね……」
「……(スッ)」

警戒は解いて貰えたか……。睨むのは止めてくれたが、未だに塔城は品定めするような視線を投げてくる。

「優秀な下僕を持っているようだな?リアス」
「ええ。お陰で助かってるわ」

きれいな笑顔だ。切れ味が無い分ソーナよりも華がある。どうやら私の幼馴染みは今の所全員美人に育ってくれているようだ。

「前置きはこれくらいにして。それで要件なんだけどね……」

あちらから情報は回っているだろうが確認はしないとな。














「……こんなところかな」
「でしょうね。後は彼らが何かしらのアクションを起こすか、情報が入ってくるまでは動けないわ」

話しが終わりお茶を一口。温くはなってるが、それでも唯の苦い液体に成り下がっていない辺り茶葉は良いものを使っているようだ。それに淹れた人間(悪魔?)も良い淹れ方をしたらしい。

「と。そうだリアス。」
「何かしら?」
「少し耳寄りな情報だよ。二年の同じクラスに兵藤一誠っていう子が居るんだけど……」

最近気付いたが彼は恐らく

「彼は多分神器(セイグリッド・ギア)を持ってる。」
「本当?」
「流石に何かは分からなかったけどね」

良い物件を見つけた大学入学を控えた学生の親のような目をするリアス。
人の気配に異質なものが混じってたから間違い無いはずだ。

「気にかけて損は無いと思う。君の事だから無理矢理という事は無いだろうけど……」
「大丈夫よ。教えてくれてありがとう」

その後の話は他愛の無い世間話。時々笑い声や茶々が入る至って普通のもの。

もうちょい実の有る話をしろと突っ込みたくなるかもしれないが、どうせこれから嫌でも眉を寄せて話さなきゃいけないんだ。今はこの少しずれた日常を享受させてくれ……。














あとがき

もしかしたら原作のヒロインの何人かが慶路になびくかも……。だって一誠だけだと色々と一誠が大変ですし……。

割りとあからさまな伏線と微妙な伏線が有る今回。回収しきれるか……?いや。回収せねば。

それではまた次のお話で。

-4-
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