小説『ハイスクールD×D×H×……』
作者:道長()

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第六話


「だりぃ……」

とにかくダルい。夕麻ちゃんに殺される夢を見るようになってから朝が異常にキツくなった。更に日光に関しては紫外線が皮膚を突き破って神経を直接いたぶってるんじゃないかと思うくらいだ。

「よぉ。心の友よ。最近朝がキツそうだな? 素晴らしいネタでも手に入れたのか?」

気だるげに机に突っ伏していた俺に、丸坊主の見た目はスポーツマンの松田が朝からテンション高めに声を掛けてきた。つい最近までは俺も朝からこれくらいだったはずなんだけどな……。

「違う。最近とにかく朝がキツいんだ。夜はめちゃめちゃ元気なんだけどよ」
「ふ。思春期特有のリビドーを持て余してるのか?」

眼鏡を押し上げながら元浜がキザなセリフを言うみたいに話し掛けてきた。でもあだ名は「エロメガネ」「スリーサイズスカウター」という。

「多分違う……と思う」

あの感覚は性欲を持て余したんじゃなくてこう……夜行性の動物が生活する感覚に近いと思うんだよな。感覚が何かを捕まえるために鋭くなってるというかなんというか。

「ふーん……。こういう時に限って先生は家の用事で休みだしよ」

松田の言う先生というのは慶路の事だ。慶路のあの一言で俺達は新たなる扉を開けられた。「スカートの裏地」は盲点だった。アレにエロの気配を感じるとはアイツ結構ムッツリだったんだな。
そんな慶路だけど京都の実家で一悶着が起きたらしくて今は学校を休んでいる。

「松田よ。きっと先生は我々のために実家に戻ってまで秘蔵のコレクションをもってきてくれているに違いない」
「なるほど!さすがは先生だぜ!」
「生憎そんなものは持ってないよ……」

松田と元浜のテンションに置いてけぼりをくらっていると久し振りに聞く声が聞こえた。

「先生!イッセーのテンションが間違って熟女モノのDVDを見てしまった時くらいに低くなってます!」

ロリコンの元浜がそんな事をぬかしやがった。あれはあれで中々味があって良いものだぞ。

「あ〜……。貧血か何かじゃないかな?きっと」

慶路の声のする方に顔を向ける――














――死ね――




「ッ!?」

突然の目眩。改めて慶路の方を見るといつもの曖昧な笑みを浮かべている。

(気のせいか……?)

慶路はいつもどおりに松田と元浜の話に呆れながらも最後まで付き合っている。しばらくしてチャイムが鳴るとそれぞれの席に戻って行った。

「その感覚は正しいよ」
「えっ?」

去り際に慶路が諭すような声で置いていった言葉は今日の授業が終わるまで耳に貼り付いて離れなかった。














松田と元浜と一緒にDVDの鑑賞会を終えた帰り道。背筋に冷たいものが走った。

スーツを着た男だ。親の仇でも見るかのように俺を睨み付けてきた。

嫌な汗が背中を伝い、脚は真冬でもないのにガクガク震えてしまっている。

「これは数奇なものだ。こんな都市部でもない地方の市街で貴様のような存在に会うのだものな」

ヤバい。何を言ってるかはよく分からないけど本能に近い所で相手が危険なヤツだと理解している。

――その感覚は正しいよ――

何故か慶路の言葉が頭をよぎった。
……なら。

「逃げる!」

いままで通ってきた道を振り返って全速力で駆け抜ける!幸い最近俺は夜になれば力が湧いてくる体質になってるから本気を出せば逃げられるかもしれない。

「ほう。実力差を感じ取ったか……」

わけがわからないっつーの!
何そのドラグ・ソボール的発言!俺はドラゴン波なんて撃てねーよ!

とにかく走る! 周りの風景を置いてけぼりにするくらいのスピードで必死に脚を前へ前へと回転させる。逃げる場所なんて考えてない。相手を撒くために路地を右へ左へとハチャメチャに走って相手を撹乱する。
やっぱり夜の俺の身体はおかしい。これだけのスピードで走っても未だに息が切れない。

こうなったらとことん逃げてやる!

体感的に約15分だろうか? 俺の人生で間違いなくベストレコードであろう速さで走り続けた。

開けた場所に出て少しだけ上がった息を整える。

そこで気付いた。

「ここって……」

なぜだろう? 来たことがある気がする。
心肺機能を落ち着かせる為に噴水の辺りまで歩みを進める。
そこで、ああ。と。

「夕麻ちゃんとのデートで最後に来た場所だよな……」

ならこの既視感も納得出来る。自分は無意識の内にココを目指していたのか? まさか……。
そして確かその夢の最後は……。

「逃がすと思うか? これだから下級な存在はこれだから困る」

振り向くとまたさっきのスーツを着た男が居た。
いや。今度は背中に黒い羽根が生えていた。

(趣味の悪いコスプレだな……。にしちゃ生々しいっていうか……まさか本物か!?)

ファンタジーはビリー・ホッターとアズカバンの囚人(カズヤ)で十分だよ! パワーアップしてダーク♂カズヤになって戻ってきたのにはビックリしたな!

「お前の属している主の名を言え。こんなところでおまえたちに邪魔をされると迷惑なんでな。こちらとしてもそれなりの……。まさか、おまえ『はぐれ』か? 主なしならば、その困惑している様も説明がつく」

何やら一人でブツブツ呟いてる。そういうのはTwitterでやってくれ!

そこで唐突に夢の結末を思い出した。俺は最後に夕麻ちゃんに殺された。その時の夕麻ちゃんには黒い翼が生えていて……。

なるほど。これは夢の再生だ。バックが夕日か月か、美少女か男かの違いは有るが間違いない。

「ふむ。主の気配も仲間の気配もなし。消える素振りも見せない。魔法陣も展開しない。状況分析からすると、おまえは『はぐれ』か。ならば、殺しても問題あるまい」

物騒なことを口走る男が手をかざす。
その手の先にいるのは俺だ。
不愉快な耳鳴りとともにおぼろげな記憶からかつて自分に向けられたあるものを思い出す。

光の槍だ。

そして俺はアレに貫かれて――

――どうせ死ぬなら、私が拾ってあげるわ。あなたの命。私のために生きなさい――

あの夕暮れより鮮やかな紅い髪の持ち主はもう一度現れてくれるだろうか? でもあれはあくまで夢の話。実際現実(いま)には所々に差異がある。
となれば助けてくれるとしたらあんなロマンチックできれいな幻ではなく――

カチャリ

もっと現実的で鉛の様に重苦しい人間臭い存在だ。

パァン

「グッ!?」

間違いなく奇跡の類であろう光の槍は人の業による一発の鉛弾によって打ち砕かれた。
そこにいたのは

「流石に二度は殺させんよ」

闇に溶け込ませるかのように全身を黒で塗り固めた惚れ惚れするくらいの人の化身。見覚えのある闇夜より深い黒の髪と黒い瞳。

「生きてる様だな。 一誠」

――その声(おと)を以て俺の悪夢(ゆめ)は終わりを告げた――

-7-
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