電子音が秒針の音を掻き乱す。今までとは違う、時計のアラームではなかった。耳障りな程の音量で鳴っているそれが携帯電話の着信メロディだ、としばらくしてシジマは気が付いた。生きていた頃によく耳にしたアーティストの曲だ。彼は少しだけ懐かしさを覚える。
しかし、一体誰のものなのか。設定した覚えは無いが、自分のものだろうかとポケットを探ってみる。だが、そこには何も無かった。ややあって、自分の携帯は部屋に残してきた事を思い出す。まさかカクリのものなのかと彼を見るが、違う、との答えを返された。
「客人が来たんだよ」
「この部屋にあるのは時計だけじゃないのか」
「基本的にはそうだけど、条件さえ満たせば時計と同じ扱いになる」
「同じ扱い……? 気になっていた事だけど、どうして時計なんだ? 時計は一体何なんだ? 何の意味があるんだ?」
「客人を迎える方が先だ。今は君の質問に答える時じゃない」
探そう、とカクリはシジマを促す。もう一度問い質そうとしたが、彼はシジマを無視して部屋の奥へと向かった。仕方なく、彼の後を追う。
二人は音の源を探しながら部屋を巡った。やがて、シジマは小さな棚の奥からそれを見付け、手に取る。鳴り続けるそれは、やはり携帯電話だった。デコレーションが施され、キャラクターのストラップが付けられている。持ち主は女性、それもシジマとそう年の変わらない学生だろう。
「不慮の事故とか、なのか」
「それは本人に訊けばいいし、審判で確かめる事になるだろう。気になるのか」
「多少は……」
「以前と同じ通りに接すれば良いよ。身構える必要は無い」
客人を迎えに、カクリは扉の方へと向かった。
これの持ち主は何故生き続けたいと思うのだろう。シジマはソファで待ちながら思う。やりたい事が多いからか、それとも何か他の大きな理由があるのだろうか。
シジマの余命は、あと四十年。ここから何年与える事となるのだろうか。