小説『Life Donor』
作者:bard(Minstrelsy)

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「ここ、どこ? 何なの、この部屋。時計だらけだし」
 案内された少女は部屋を見回し、呆気に取られていた。
 少女の名は藤内奈美(ふじうち なみ)。少し崩した制服は、シジマの知らない学校のものだった。
「流石に、変わったカフェって訳じゃ、ないよね」
 彼女の視線は部屋を回り、カクリへと向かった。
「残念ながら」
 受け流すようにカクリは微笑み、そのまま彼女に残酷な事実を告げる。
「ここは狭間の部屋。あなたのように生と死の狭間をさまよっている方が辿り着く場所です」
 何それ、と奈美は笑う。質の悪い冗談だと思っているのだろう。自分が死ぬ訳が無い。そう言いたげにカクリを見上げた。
「生憎ですが、これは冗談ではありませんよ」
 薄氷のような声。自分の置かれた状況が普通ではないとようやく気付いたのか、奈美の顔色が変わった。それでも認めたくないのか、必死に笑おうとしている。シジマは彼女から視線を逸らす。苦手なタイプだ。
「この部屋に来る前の事は覚えておられますか?」
「そ、それは……帰り道で……」
「帰り道?」
「あ……えっと……」
 奈美は眉根を寄せる。記憶を探っているのではない、とシジマは気付いた。言いたくないのだろう。その証拠に、組み合わせた指先が微かに震えている。
 これ以上待っても言葉は返って来ないと判断したのか、カクリは緩く頷く。奈美の瞳は怯えていた。
「藤内奈美さん、このままですと、あなたは死にます」
「え……どういう事なの?」
「そのままです」
「あたしが、死ぬって事?」
「このままでは、ですけれど」
 カクリは携帯を机に置く。それを見た彼女の目が丸くなった。
「あたしの携帯? 何でここに? でも、あたしのはここに……無い? どうして?」
 奈美は忙しく言葉を並べている。動揺しているのだ。カクリはそんな彼女を鼻で笑うように見下ろし、言った。
「あなたには二つの道があります」
 弾かれたように奈美が顔を上げる。
「一つはこのまま死を受け入れる事。もう一つは、生きるために審判を受ける事」
 選択を。カクリの瞳が促す前に、奈美が答えた。
「そんなの、生きるに決まってる。あたし、死にたくない」
 カクリはシジマを見て頷いた。今は、考えるべきではない。シジマは思考を打ち切り、携帯に手をかざした。
「藤内奈美さん、あなたの道を決めます。これより、審判を開始します」
 光が広がり、三人を包み込む。その先に意識が引き込まれる感覚に身を任せ、シジマは目を閉じる。彼女の、戸惑う声を聞きながら。

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