小説『先生は女子大生』
作者:相模 夜叉丸()

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 それから、先生と少しずつだが話をするようになった。授業終わりの五分間とか、授業中に少しばかり。何てことない会話。ある時は、
 「部活は何やってたの?」
 またある時は、
 「柔道って授業でやってるけど、あれ技かけられるのちょっと怖いんだよね。」
 人間なんて単純なもので、苦手だと思ってたことが実はやってみると出来ることを知らない場合が多い。僕の場合、苦手とかそうゆうレベルの問題ではないのかもしれないけど。とりあえず、目の前にいる女子大生の先生はクリアーかな。
 そして6月の下旬、お互い多少だが気を許せるくらいにまでなった。恋愛シュミレーションゲームじゃないので別にもっと突っ込んだ関係になる必要はないけど、まぁ仲良くなるくらいは良いんじゃないかな。そんなジメジメした梅雨時の市谷スクールにて。
 「フォークソングが好きなんです、僕は。」

 「フォークソングって神田川とか、あと・・・翼をくださいとか?なかなか渋い趣向だなぁ。」
 先生は目を丸くして驚いた口ぶりだった。
 「音楽の授業の時なごり雪を歌ったんですけど、素晴らしい歌だなぁって。ギター始めたのもフォークソングを弾きたかったからなんです。最近はあんまり弾いてないんですけど。」
 先生は本当に珍しそうにへぇー、と感嘆していた。
 「先生は聞く専門ですか、音楽は。」
 先生は笑窪をへっこませわざとうふふと笑ってみせた。
 「実は今、大学でバンド組んでいるんだ。田中君みたいに昭和の歌ではないんだけどね。」

 「あっ、そうなんですか!じゃぁどんな曲を弾いてるんですか?」

 「私はベースなんだけど、弾いてるのはBOOWYが中心かな。」
 ・・・うん。えーと。僕はそれを聞いてしばらく沈黙してしまったのだが、BOOWY?先生が、BOOWY・・・?
 「えと・・・BOOWY。」

 「うん、BOOWY。」

 「・・・氷室京介?布袋とかの?」

 「そう・・・だね。いや勿論私が歌ってるんじゃなくてバンド仲間の女の子が歌ってるんだけど。」
 そもそも男しかいないバンドの歌を女性が歌って、しかも先生がBOOWY?見た目が清楚な先生が髪を振り乱して先生がベースギターをかき鳴らす様子はなんだか想像しがたかった。
 「男の声が出せるんですか?その人って。」
 
 「彼女ハスキーボイスなのよ。」
 
 「ああ、なるほど・・・。」
 
 「そんなに以外かな?」
 僕は顔の前で手を激しく振って否定した。
 「いや・・・、女性でヴィジュアル系って何か想像しがたくて。」

 「まぁ・・・そうだね。」

 「こんな風にやるんですね、先生が・・・。」
 僕はふざけてギターを激しく弾き鳴らす真似をし、頭を大げさにユサユサ振ってみた。先生は、そんなことしないってば、と言いながら口を押えて爆笑してた。
 こうして楽しい5分間は今日も終わった。

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