小説『先生は女子大生』
作者:相模 夜叉丸()

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そんな感じで先生とのコミュニケーションを少しずつ取りつつ受験勉強をして過ごすこと3ヶ月、とうとう7月に突入した。暑い夏がもうそこまで近づいてきた。いや、もう歩くだけで背中がじっとりと汗で濡れる。1学期最後の定期試験を面倒くさいながらも受け、いよいよ12日の終業式終わり、ホームルームで吉田先生は教卓の前で軍隊の教官みたいに腕組みをして言った。
 「えー、夏休みは今までの遅れを取り返す大事な時期だ。夏休みは受験の天王山と言って、ここで努力するかしないかで大きな差がつくぞ。」
 一宮先生も言ってたなぁ、そんなこと。
 「時間があるから思う存分取り組んで欲しい。しかし時間は確かにたくさんあるが、その時間の使い方を間違えるとダラダラしてしまうこともあるから十分注意するように。あと、体調の管理はきちっとしなさい。夜遅くまで勉強するのもいいが、適度に休息を取らないと頭に入るものも入らなくなるぞ。いいな。」
 先生の熱血指導が終わり、日差しがとても熱く感じ始めた11時頃、アスファルトの地面が熱を放ち始めた道端で僕は歩きながら鞄から単語帳を取り出して読み始める。もうこのスタイルは僕にとってお決まりのものとなった。学校の行きと帰り、50個ほどの英単語をジックリと確認していく。それを50個につき1か月のペースで進め、最後のページが終わるとまた1ページ目から始める。この反復して学習する方法は有効で、この一冊の約3分の1の単語はほぼ完璧に覚えられた。道でやらなくてもいいじゃないか、という突っ込みは無しでお願いしたい。もうクセなので、なかなか止められない。
 1900個ある単語のうち900個から950個目の単語を読みながら歩いてると後ろから複数の足音が近づいてきた。僕はそれに気が付かなかった。歩くことと英単語と、電柱にぶつからないようにしてたことに注意がいっていたからだ。気が付いた時には、その足音の主の一人が僕の左肩に思い切りぶつかった。その拍子に僕の持ってた英単語帳は赤透明シートと分離して地面に落ちた。その足音の主たちが僕の前に来てへらへら笑ってた。僕にはそいつらが誰か分かってた。
 「ああ、ごめん。いたの?そこに。」
 髪をワックスでおっ立ててる3人組のリーダー格の太田とその取り巻きの若林と武元だ。他にもじゃらじゃらとチェーンのようなものがぶら下がってる僕は嫌なタイミングで会ったなと思って不快な目付でそいつらを見た。
 「なんだよ。」
 僕はサッと単語帳を拾い上げて言った。
 「別に。ただまだお前はあのダっサイフォークでも聞いてんのかなって思ってさぁ。」
 
 「・・・。」
 僕は黙って耐えていた。普段から人に怒ったことが無い。だからいつ、どのタイミングで何を言えばいいのかわからない。ことが無い。
 「なぁ、俺たちにあんなこと言わなければお友達もたーくさんできたのにねぇ。黙ってりゃよかったんだよ。お前のその口の悪さでどんだけムカついたと思ってる?ねぇ・・・。」
 怒りに震えながら黙ってる僕の肩に手を回した。
 「お前みたいな大学落ちちまえよ。その代わり俺たちがもっといい大学行ってやるからさ。ね?昭和野郎。」
 若林も武元もへへへと笑っている。僕はその時、昭和野郎のフレーズで頭が真っ白になり静かにキレた。
 「・・・あのさ、その頬っぺたのつぶつぶ、そばかす?」
 
 「・・・・あ?」

 「なんだ、ってきり鼻くそを頬っぺたに付けてんのかと思っちゃたよ。えへへ。」
 太田は素早く僕の胸ぐらを掴み、てめぇ!!、と大きな怒号をあげた。
 「調子に乗んな!」
 太田が怒号を挙げ、目をひんむいて右手を手を上げかけ殴りかかろうとしたその時だ。
 「そこ、何してんの!!」
 甲高い声けど男っぽいような女性の声が響く。僕は後ろ向くと髪を後ろで束ね、紺のジャージ姿を着た体育科の高橋先生が叫んだ。
 「やべっ。」
 太田は高橋先生を見ると他の二人を引き連れ一目散に駅の方へと走って行った。
 「あっ、こら待ちなさい!」
 逃げ足だけは速い。
 高橋先生が僕の横まで来ると大丈夫?と声をかけた。
 「大丈夫です。」
 先生はやつらの逃げた方向を見てふうとため息をついて腰に両手をあてがった。
 「何があったの?もし私でよければ聞くよ。」

 「・・・・いや、大丈夫です。」
 高橋先生は心配そうに、でも、と言い加えた。
 
 
 
 

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