小説『先生は女子大生』
作者:相模 夜叉丸()

しおりをはさむ/はずす ここまでで読み終える << 前のページへ 次のページへ >>

「ちょっと言い合いになっただけですから。」

 「・・・そこまで言うなら。でももし何か困ったことがあったら私でも担任の先生に言いなさい。大事になる前に。」

 「分かりました。そうします。」
 高橋先生は顔が思いつかなかったのか一瞬黙ったがすぐに思い出したようだった。
 「分かったわ。じゃ、もう帰って良いわよ。」

 「はい。ところで高橋先生は何をしてたんです?ここで。」
 
 「部活前のランニングよ。」
 あっ、柔道部の高橋先生ってこの人のことだったんだな。先生は柔道部の女子部員の指導を行ってる人で熱血ぶりと強さでこの学校で有名だった。部活前にランニングをし、毎日道場からは怒号が響く。僕はほかの部活になんか興味なかったからこの人が高橋先生だったなんて初めて知ったなぁ。
 ま、この先生の目にとまったんならあいつらもしばらくは変なことはできないだろう。僕はその熱血先生に別れを告げて駅まで歩いて行った。

 
 太田・・・僕はこの名前を見たり聞いたりするとなんだか不愉快になる。それがこの学校の太田以外の人でもなんとなく拒絶反応を起こしてしまう。
 高橋先生にはちょっと言い合いになっただけと言ったが、実を言うとこれは今日が初めてじゃない。ちょくちょく取り巻きの若林や武元と共に僕はああゆうことをされる。僕はだいたい黙って見過ごすだけだ。だが、何の理由もなしにこんなことは普通されない。僕ははっきりとあの時のことがキッカケなんだと思い当たることがある。・・・それは、まだこの高校に入学したてのころだ。
 学校と言う場所は結構恐ろしいもので、学年が上になるにつれてそれが増してくる。何のことかと言えばクラスメイトのことだ。小学校から経験済みのことだが、入学から1か月くらいになると気の合う仲間同士でクラスの中でグループを作り出す。でも、どこにも入ってないでいると周りから可哀想な子という目で見られる。みんなそれが嫌でなんとかしてグループの輪に入ろうとする。
 僕もそんな臆病者の一人だった。昔は。なんとなく自分でキャラ設定をして、その範囲内で学校生活を送っていく。だいたいみんなそんなもの。学校の顔と家での顔は多分違うと思う。ヤンキーなふりしてる奴はだいたい父子家庭か母子家庭。もしくは家庭が崩壊寸前だったり、それは極端な例だけど。
 5月、6月になるとみんな落ち着いてきて、たまにその仲間内で遊びに行ったりするようになる。それで親睦を深めるということだ。もちろん僕もそれに参加したりしていた。
 とまぁ、ここまではごく一般的な学生の話だが、打ち解けていい気になり、自分の本性を露わにすると人には嫌われるのだということを僕は経験していくのであった。
 それは夏休みの始め、僕はグループ内の友達3人ほどに誘われて、あるアイドルグループのコンサートに行くことになった。その友達の中の一人が抽選でチケットが4枚当たって、それで行かないかということになったのだ。
 秋葉原発、グループ名に48が付く某人気アイドルグループのコンサート。テレビで話題の彼女らを見に行けるということでテンションがあがっていた。・・・僕、以外は。
 待ち合わせの駅に着き、会場に向かい、もぎりの所で女性スタッフにチケットを渡す。そして指定された席に向かう。異様な熱気に包まれる中、コンサート開始。
 僕以外の友達はそれぞれ応援している女の子たちの名前を叫ぶ。
 「たか○なー!!!」

 「とも○んー!!!」

 「ま○ゆー!!!愛してるー!!!!」
 僕はショルダーバックを肩から下げながら呆然と見ていた。
 コンサートが終わり、会場の外で僕以外の友達はあれが良かったこれが良かったと無邪気に話している。その中の一人が僕に話を振る。
 「なぁ、お前は誰が良かった?」
 僕は立ち止まった。そして天を仰いで僕は言った。
 「全然何とも思わなかった。」
 
 「えっ・・・。」
 
 「いや、あのさ・・・・。」
 ここで僕は本音を話さずに楽しかったと言えばよかったものをと、今にして思えば。
 「そもそもA○B自体そんな好きじゃないし、何が良いのかなぁ。みんなおんなじような顔に見えて誰が誰だか。しかも別に歌もそんな大した歌でも無かったよ。何?カチューシャって何?注射針のこと?」
 僕は昔から天邪鬼なところがあって、世の中の流行だとかが嫌いだった。コンサートもお付き合いのつもりだったし、楽しかったと嘘でも言えば良かったと、これもまた今にして思えば。さらに輪をかけて毒舌を周囲にまき散らす癖もあってか、友達はみるみるうちに引いていった。別に悪気があるわけではないのだがどうしても言ってしまうのだった。
 「・・・・・。」
 
 「しかもテレビの価値観を僕らが共有することはないよ。だってあの人たち普通の人だもん。何かタレント性があるとも思えないし。テレビで可愛いって言うから可愛いみたいなのはそれちょっと違うと思うんだ。流行ってそんなもんなんだろうけど酷いと思うよそれは。いずれ数年後にはまた違う流行が生まれてそっちの方に目が行くんじゃないかな?そもそも流行ってのはマスコミが作り上げてるもんらしいよ。毎年毎年トップのお偉方さんが今年は誰を売り出すかって決めてるんだって・・・そんなんじゃ良い歌だとか良い俳優さん女優さんが出てくるわけないよ・・・・。」
クラスや学校で必ず1人いる変わり者。僕はその類だったかもしれない。自分の気持ちをコントロールできないことが度々あった。
 しかし、これは結果的に友達が離れる原因にはなったが、これは太田の件とは関係ない。この性格が災いして後々太田に絡まれることになるのだった。キッカケはこのコンサート事件から4か月後の10月だった。
 
 

-12-
Copyright ©相模 夜叉丸 All Rights Reserved 
<< 前のページへ 次のページへ >> ここまでで読み終える