小説『先生は女子大生』
作者:相模 夜叉丸()

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「・・・・・。」
 それを思い出してみると、何だか急に気分が落ち込み始めた帰りの電車。じゃぁその暴走クセは高校3年生の今はも続いてるか?
 いや、もうさすがにこの2年ほどで変わりはした。あまり人と話すことも無くなったのも一理あるけど、それに何とか自分なりにこれじゃいけないと思って、口に出かかった率直な感想を場を考えず言うのを止めるように意識し、引っ込めなくちゃいけないときは引っ込めるように努めた。そのおかげで今じゃ何とか一般人並みに場を読めるようになってきた。
 でも、それでも太田たちにはやっぱり許せないんだろうなと電車が揺れるたびにピラピラと下が動くなかずり広告を眺めながら思った。こちらにも非はないわけではないから。
 家に帰ると母がまたいつものようにシリーズ物の韓国ドラマを見ていた。僕を見るなりお帰りと言った。
 「お腹すいたでしょう?お昼にしようか。」
 僕は気だるくぶら下げた鞄を持って2階に上がろうとした。
 「いいよ。今日はお昼いらない。」
 台所に立とうとしていた母が僕を見た。
 「どうしたの?具合でも悪いの?」

 「・・・そんなんじゃない。お腹減ってないんだ。」

 「あらそう・・・・。」
 少し心配そうな顔をする母を置いて僕は2階に上がろうとしたが、伝言があるのを思い出して階段の中腹で立ち止まった。
 「今日、2時くらいになったら市谷に自習しに行くから。」
 母の返事を聞く前にそそくさと自分の部屋に入った。制服も脱がず僕は倒れるようにベッドに横になる。視線の先には僕の黒ギターがスタンドに乗っかり黙ったまま。僕のゆういつのアイデンティティー、あるいはステータスの1つ。・・・先生もこうして自慢のギターを嬉しそうに眺めたりするのかな。先生は・・・ああ・・・・何か疲れたな。
 瞼が重くなり、僕は睡魔に誘われてそのまま夢の世界に飛んで行った。

 2時。日も傾き始める時間。夏の昼下がりと言うのはなんとなく爽やかなイメージがある。夏は暑いだけではない。空は青く、天高く積乱雲が姿を見せる。向日葵に蝉の声、風鈴。アスファルトから昇る蜃気楼。汗っかきな僕でも、そんな夏が好きだ。何となく特別な季節に思える。
 と、そんなことを思いながら僕は軽装に着替える。半袖シャツとズボン。まだ本格的な夏は来ていないが、今もこれで十分心地いい。
 ショルダーバックに勉強道具を詰め、いざ参らん市谷スクール。玄関を出ると日差しは朝より穏やかになっていた。僕は歩き始める。
 道を歩いていると人通りはそんなにない。今大人はだいたい働いている。見かけるのはお年寄りかベビーカーを押す女性ぐらいで。
 僕には、先ほど学校中の人から距離を置かれていると言ったが、ちょっと訂正がある。別に一匹狼なわけではない。
 下駄箱で太田に唾を吐かれたあの話、実は続きがある。
 あの後、僕はただ呆然としてたんだけども、その時僕に駆け寄ってくるやつがいた。髪を整えた爽やかなハンサムボーイ。
 「大丈夫?」
 
 「・・・・う、うん。えっと君は・・・4組の木南だっけ?」
 そのハンサムボーイは、木南だった。やつは教室にいると外から何やら怒鳴り声が聞こえたから駆け寄ってみたそうな。もっとも、やつが来たときには太田たちは教室に帰って行った時だったが。
 「何があったの?・・・・何かついてるよ。はい、ティッシュ。」
 木南はポケットからティッシュを取り出して差し出した。僕はありがとうと言いながら一枚とって顔にかかった唾をふき取る。
 「いや、何でもないよ。大したことない。ちょっといざこざがあって。」

 「・・・・そうかい?あれ太田たちだよね。何もないんならいいけど。」
 木南は僕と比べると性格は、まぁ反対とは言わないけど全く違う性格だった。木南。性格はすごく真面目で優しい。そのためかクラスを問わずいろんな人と繋がりを持とうとし、仲良くしているような人間だ。実際やつのことを悪く言う人はいなかった。加えて成績も常に学年3位内、運動神経も抜群だ。絵に描いたような優等生だった。しかもモテる。
 やつと話を交わすようになったのはそれからだった。無論、積極的に声をかけてくれたのは木南からだった。仲良くするというよりもむしろ僕を気遣ってのことだったと思う。
 僕は嬉しかった。声をかけてくれるうちに、気を許して僕も声をかけるようになった。そして木南とは時々昼ご飯を共に食べる中になっていった。
 木南は学年のほとんどの人と交流がある。だがそのほとんどの人たちとゆうのはイコール僕に距離を置いている人たちでもある。僕を快く思わない人たちは木南にこう言う。なんであいつとも話すの?
 実際、僕が人気者である木南と仲良くしてるのを良く思わないのもいるようで、たまに好奇の目でさらされることがある。
 だが木南はハッキリ言ったそうな。何を彼がしたか知らないが、一人を集中的に嫌うなんて陰湿なことはできない、と。

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