小説『先生は女子大生』
作者:相模 夜叉丸()

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「え〜とね。これからほぼ毎日英語の授業をやっていくわけだけど、主に過去問と問題集を使ってやりましょう。」
 
 「はい。」

 「それから宿題なんだけど、これからは週に1度出すということでやっていきますよ。」
 僕はえっ、と思ったがそれには続きがあった。
 「ただし、プリントを5枚。月曜に出して土曜日に提出してもらって答え合わせということで。あまり答え合わせに時間を使ってもしょうがないしね。・・・よろしいかな?」
 ということは1日1枚ということだな。別にハードでも何でもないや。
 「はい。全然平気です。」

 「うん。ということでですね早速だけど、・・・先週の宿題は、ちゃんとやってきましたか?」
 いたずらっぽい顔で僕の顔を覗き込むように先生は言った。僕は得意な顔をして宿題だったプリントを出した。
 「勿論ですとも。」
 僕はいつもの先生とのやり取りをしながらチラチラっと先生の顔色をうかがう。あっ、なんとか平気ですね。体もあんまり汗臭くなくなったし。・・・ああ良かった。
 そして、夏休み最初の授業が始まった。


 どこの学校にも必ず夏期講習というものは存在して、高校3年になった今でも行われる。当然僕の高校でもそうだ。
 期間は夏休みの前期・中期・後期の3つに分かれており、それぞれ1週間ずつ授業が行われる。授業は大学みたいに選択ができ、1日の中で行われる科目を事前に選択する。僕は7月18日から22日までの前期を選択し、市谷スクールもあるので午前中の英語と古文を選択した。
 窓の外には太陽に照らされた町とその上には青い空が広がる。爽やかな青さの中に白い雲が流れる。そして蝉の声が窓の遠いところから聞こえてくる。僕は、それを感じながら授業に臨んでいた。
 選択と言うことは当然それに出席しない者もいるわけで、教室の中は少しばかり席が空いている。これがまたいいんだな。英語担任の野沢先生が黒板の前で力説する
 「いいか、英語の長文読むときにいちいち接続詞や文章に印しつけるやつがいるが、そんなことする必要は本来ないからな。毎日文章を読んでいけばそんなことしなくてもほとんど読めるようになる。あとはどれだけ単語や文法事項を知ってるかどうかの問題だ。じゃ、それを踏まえて早速この駒坂大学の過去問の文章を解いてみろ。制限時間は20分。・・・はい、スタートっ。」
  (うっしっし。これくらいの文章くらい読めますがな。)
 僕は心の中で余裕を見せた。今まで市谷スクールでもこれくらいの文章は何度も読んできたし、大したことない。分からない単語があれば飛ばして、全体の内容が分かればこんなものはと、しばらく思って読んでた。
 (エリーナが、行った、初めてのデートで、母が、買った、着た、ワンピースを、ジェイソンが、見て、白いワンピースを褒めて・・・ワンピース。エリーナ・・・ワンピース?)
 僕は、ワンピースの単語を何度も頭ん中で繰り返した。繰り返すと、ある光景が浮かんだ。受験勉強してようが、妄想のスイッチとゆうのは発作的についてしまうものらしい。
 (先生もワンピースって着るのかな・・・。)
 一面に咲き広がる向日葵。空は青く、太陽が照りつける。そこに麦わら帽子をかぶり、純白のワンピースを着こなす先生。風が吹き、髪をなびかせながら、片手で帽子を押さえて佇む。太陽の光が、先生のワンピースをよりいっそう輝かせ・・・・・。
 「田中。」
 脳裏に浮かんだその光景は見事に消えた。僕の隣に野沢先生が立っていた。
 「終わったのか?」
 ペンの動きが止まってたのを気にしていたのだろうか。
 「いや、まだです。」

 「じゃ、はやくやれ。あと10分も無いぞ。」
 

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