小説『先生は女子大生』
作者:相模 夜叉丸()

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と、なんてことない会話をしながら通いなれた通学路を歩いているともう最寄駅に着いてしまった。この時間帯は人が少ない。少し汚れたコンクリの壁の近くや鳩の糞が所々染み付いてるプラットホームには僕の学校の生徒が多くいた。僕と木南は反対方向の方面なので、彼と改札口で別れを告げた。
 

 家の玄関を開けて中に入った。今日は母も出かけてていない。僕は二階の自分の部屋に直行した。扉を開けて制服を脱ぎ、ハンガーにかけてベッドの上にある普段着に手を伸ばして素早く着た。僕はふと机の上に目が行く。例の市谷スクールのパンフレットだ。縦長の冊子に、塾の名前とネット授業コース、個別指導コース。他にもつらつらと書かれていた。僕が行くことになるのは個別指導の方。それを持ちながらベッドに体を沈めた。
 まっさきに頭によぎったのはどんな先生が授業するんだろうということだ。先々週に親と説明を教室長なる先生に受けに行ったところ、全部大学の先生がしてくれるとの事。少なくとも厳しすぎる先生はイヤだなと率直な感想を思った。んじゃどうゆう先生がいいのかと聞かれても良く分からない。とにかく重要なのは初回授業の明日だな、僕はそんなことを考えながら天井を見つめた。
学校の授業は土曜の半日授業ではあったものの、長らく授業を受けてなかったせいか妙に疲れた。いつもより空いた帰りの車内で僕は立ちながら居眠りをしそうになってしまった。うとうとしながら無意識の中で僕はあることを呟いた。
 (今日は、塾かぁ・・・。)
 家に着くと僕は靴を脱ぎ、リビングへ向った。リビングルームには母と姉が台所で今日の夕食の支度・・・かどうかよく分からないけど、野菜の皮を剥いたりしていた。僕に気がついてお帰りと二人は言った。
 「ただいま。ねえ母さん。」
 僕はソファに学生鞄を置き、食卓テーブルのに座って母さんに話しかけた。
 「塾って5時からで良いんだっけ。」
 まな板で包丁を器用に使い、そうよとだけ一言言った。最近ちょっと体系が若干ぷっくりしてきた姉にちらっと目をやると何だかニヤニヤしていた。
 「何、姉さん。」
 笑いを堪えながら口を一文字にしてたが堪えきれずぷふっと笑いがこぼれた。
 「いや、市谷ってさぁ、大学生が先生やってるの知ってた?」
 「うん。パンフで拝見済み。で・・・?」
 姉が台所からこちらに振り向いてニヤつきながら言った。何が笑いのツボになってるのか僕には分からないので僕はちょっとイラッときた。
 「だから何?」
 まだ笑いを堪えている姉はこう言い放った。
 「う〜ん。もし、もしもだよ?カズ君の先生が女子大生のお姉さんだったらカズ君ちゃんと授業受けてご帰還できるかなぁって思って、何で私と話せて他の人と喋れないんだか。ウブなのかねぇ・・・。」
 姉がどうしてこんな話に持っていくのかというと、以前僕が姉の大学生時代の友人に会ったときのことである。僕は生まれてこの方、女の人と話したことが無かった。話をするのは親戚と母と姉くらいなもので、見ず知らずの女の人と話すとき、とても緊張して恐怖ですらあったのだ。別に隠してるつもりも無かったが姉はそのことを知らなかった。
 そこで、たまたま姉の友人に会う機会があったのだが、まぁ、ガチガチになってまともに目も向けられず、それを見た姉が家とは違う態度を取る僕に大爆笑し、以来、ずっとこれをいじり続けている。
 「あんまりからかわないでちょうだい。カズがまた怖がるでしょう。」
 母もこれを聞かされてからこうゆう話題になると決まって笑いを隠せないのだ。
 僕はもう何も反論できないのでソファに置いてある鞄を持って二階の僕の部屋に行くことにした。リビングからの去り際、僕は姉に何も言わずべぇっと舌を出して二階へ直行した。
 
 
 

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