小説『先生は女子大生』
作者:相模 夜叉丸()

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 他人から意見されてこんなにスッキリしたのは今までそんなになかった。自分が悩んだり後悔していることが、実は他人から見れば微々たるものだということもある。
 今回の場合も、別に悩み相談を持ちかけたつもりはなかったんだけど、先生の回答は至極的確なもの。良識のある大人ってのは、こうゆうことが言うんだな。
 その後、僕は今まで通りのテンションになっていく。


 7月の夏休みの夏期講習が終わり、もう8月の上旬。暑さはいっそう増していった。気温は40度を超え、外は灼熱地獄となった。
 市谷スクールでの授業もいよいよ前半戦が終わろうとしていた。先生が出す宿題、曰く、愛のムチを何の苦も感じずにこなしていった。愛のムチって、いや、別に縛られたいわけではない。
 先生はあの時の告白を聞いた後でも普通に接してくれた。もちろん気を使わせてる可能性もあるが、僕は今まで通り話すようになった。年もそんなに離れてるわけではないが、こんなに身内でない大人に安心感を持ったのは初めてだ。本人は、大したことだとは思っていないだろうが。
 「どうも。」
 塾での夏期講習。現在、時刻は7時半。この時間帯ではラストの授業だ。夜9時まである。僕は再び先生の隣に座った。
 「では、最後だね。・・・あ、そういえば漢字ちゃんとやってる?」
 机から教材を取り出しながら先生は僕に聞いた。
 「はい。漢検2級レベルまでなんとか覚えました。」

 「えらいっ。」
 先生はニコっと笑った。僕はそういえば話はずれますが、と前置きした。
 「さっきの奴、あいつも高3ですよね?」
 さっきの奴というのは、このコマの1つ前に一宮先生が担当していた。男だ。同じ高校生。多分僕とは違う高校の。校則が緩いのか、髪は金髪に染め、ピアスをし、ジャラジャラと腰に貴金属みたいなものをぶら下げてる、まぁ、太田みたいなやつだ。近くの席で、僕は違う先生から授業を受けていたのだが、そいつに関して気になることがあった。
 「そうよ。田中君と同じ。」
 
 「あいつ、ずっとタメ口で話してましたよね。」

 「彼、いつもそうよ。」
 僕は、教室を出ようとするチャラ男くんを見てから先生の方を向いた。
 「腹立ちません?」
 先生はうーん、と言って、ペン先を口元に軽く当てた。
 「あんなものじゃない?今の子って。そんなに珍しくないよ。」
 僕はちょっと大げさにえーっ、と言った。
 「信じられないですよ。先生にタメ口って・・・考えられないなぁ。」
 
 「女の子にも多いかな。いわゆる友達感覚ってやつ?まぁね、そりゃ年上の私としては多少はムカっとはくるけど・・・。」 
  僕はふんっと鼻を鳴らして腕を組んだ。
 「最低限の礼儀として絶対タメ口なんて言いませんけどねっ。」

 「家族くらいならまだ許されるんだろうけど。」
 先生はそう言いながら僕の前にプリントを2枚差し出した。
 「ではでは早速ですが、今日はその礼儀と日本人に関する評論文の問題をやりましょう。」

 「はい。」
 僕はシャーペンを握りしめた。

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