小説『先生は女子大生』
作者:相模 夜叉丸()

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少ししてからスーツから着替えた姉が台所の方に直行し、ビールビールと言いながら冷蔵庫を開けた。1本だけビールを片手にソファにやってきて、ドカッと僕の隣に座った。紺のジャージのズボンと黄色いTシャツというラフな服を着ている。
 「お帰り。」
 
 「ただいま、弟。」
 ニッと白い歯をむき出して笑いながら僕の頭をクシャクシャと撫でた。
 「やめてよ姉さん。というか、ご飯前なのにもう酒飲むの?」
 
 「うん。暑いからね。」
 姉はプシュッと缶を開けた。ビールのあの独特のにおいがする。姉は胡坐をかいてグビグビと飲み始み始める。僕はそれを横で見たが、何も無かったふりをして視線をテレビのニュースに戻した。今度は芸能ニュース。誰と誰がお泊り愛だとか、あのアイドルが交際宣言とか。ほんと下らない。それを背広を着た評論家だかコメンテーターがもっともらしくコメントをする。
 下らないと思いながらも見てしまうのが人の常。噂というのは結構人の好奇心を刺激する。特に有名人のものとなるとさらに興味が増す。考えてみれば、ゴシップ誌なんてアコギな商売かもしれないな・・・と思ってると隣からカエルが踏みつぶされたような音が聞こえた。
 「ゲフっ。」
 まだ20代後半。こんな品の無いことを平気でする。僕もするが、姉のは堂々とし過ぎている。
 「おっさんか?」
 
 「悪い悪い。」
 姉は自分では最近太ったと言ってるが、別に外見にさほど変わりはない。だけど女性ってのは1キロちょっと増えただけでもすごく気にするらしい。
 こうゆうことでキーキーキャーキャー騒ぐ姉は何となく女の子らしくて可愛いと思う時はあるが、そうゆう女の子らしさを見せるのはせいぜい体重かファッションのことについてだけで、他のことは本当にだらしがない。家ではガサツ女だ。
 「姉さんそんなことしてると本当にモテなくなるよ。」

 「うるさいわねぇ。ここだからできるんじゃない。」
 姉も美人と言えば美人だ。まぁ、美人かブスのラインなんて分からないけど。でも親バカならぬ弟バカで言わせてもらえば姉はそっちの系統に入る。目鼻立ちはハッキリしてるし、スタイルもそこそこ良い。
 姉がいわゆるガサツになり始めたのは姉が23歳で就職してからのことだ。仕事が忙しくて細かいことにかまってられないのは分かるが弟としてはもう少し上品になってほしいと、横目でグビグビと飲酒する姉を見ながらそれを願う。
 美人が全員おしとやかなんて思ってないけど、少なくとも一宮先生みたいな人も少なからず存在するわけで。どうして同じ女性なのにこうも違うかなぁ・・・。
僕はわざと言い聞かすようにつぶやいた。
 「もしかしてそうゆうこと平気で飲みの席でもやってんじゃないのー?」
 少しの間を置いた後、姉がゆっくり顔をこっちに向けるのが分かった。完全に僕の方へ顔を向けた瞬間またウシガエルの踏みつぶれたような音が聞こえた。
 「ゲェフっ。」
 変な匂いが僕の顔全体に襲い掛かる。僕は思わず顔をそらした。
 「臭いっ!」
 姉の方を見るとまた例によってニヤついた顔をしていた。
 「やるわけないじゃん。」
 可愛い弟に平気でゲップ臭を放つなんて。いつかこうゆう場面を撮って会社の人に見せてやりたいものだ。こうゆうこと普段からしてませんか・・・なんて。


  初日はこんな感じだったが、毎日と言うわけにはいかない。両親や姉にも散々どこか行ってきなよと言われるが、全く行く場所が思いつかない。気が付けばもう17日。僕は迷いに迷った末、あることを思いついた。

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