声の主に僕は覚えがあったから、声をかけられた時にドキッとしてしまった。
「先生!」
「驚いた?」
先生が僕にそう言った。
「はい・・・。」
「ん、何?どうしたの?」
「あの・・・そうですね、先生の私服姿って初めてなんでちょっと面喰いました。」
真っ白なポロシャツに、ブルーのジーンズ。ラフな服装だがとても爽やかで大人っぽく見える。白衣姿の先生しか今まで見たことが無かったから、より一層際立って見える。先生は腕を後ろに回して足を交差し、笑みを浮かべながら頭をちょっとだけ傾げてみせた。
「似合ってるかしら?」
「はい。とても。」
僕は口では言わなかったが、心の中で呟いた。
(う、美しい・・・。)
そうこうしてるうちに電車がプラットホームに来た。僕と先生は帰る方向が同じだったので、一緒に帰ることになった。
「先生、席空いてますよ。」
車内に入ると、中はガラガラで所々に人が座ってるがわずか2・3人程度だ。僕は向かい側の席を指差した。
「じゃぁ座ろっか。」
先生は僕に端の席を勧めたが、僕は断った。
「どうぞ先生座ってください。エスコートいたします。」
僕がそう言って紳士っぽい真似をすると先生はまぁ嬉しい、なんて笑って言ってみせた。先生が座るのを見て僕も隣に並んで座った。こうゆう場面で先生と肩を並べるなんて夢にも思わなかったなぁ。なんだか嬉しい。電車はゆっくりと動き始める。
「ところで先生はここに何の用事で来てたんです?」
「大学の帰りよ。知らない?中妻女子大って。」
僕はえっ、と驚いた。
「中妻女子大って有名な大学ですよね。」
先生はうーんと唸ってまぁね、と一言。
「ほー。なるほど。女の花園だ。」
先生は苦笑いを浮かべた。
「男の子ってみんな、女子大をそうゆう目で見てるのね・・・。」
「いや、どうなんでしょう。女子大って、男子禁制ってイメージが強いから僕はそう見えるんですけど。」
「女子大って風紀が乱れることがあまり無いし、良い面も多いんだけど悪い面だってあるのよ。女しかいないから、結構人間関係でドロドロしてたりするの。」
「先生もそうゆう修羅場を見てたりするんですか。」
先生はうん、と言って頷いた。
「だから友達なんてバンドのメンバーくらいしかいないんだ。」
へぇ、と僕は答えた。女子大ならではの悩みか・・・。
「そうゆう田中君はなんでここに?確かに今日は市谷は休みだけど。」