小説『先生は女子大生』
作者:相模 夜叉丸()

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夏休みを終えて始業式の為に学校へ来てみると、みんな見事に日に焼けている。僕と同じように塾と家とを何度も行き来したんだろう。僕もその生活を続けてきたせいか、肌が薄く黒い色をしてる。
 まだ暑さが残る9月だが、もう8月程の暑さは無くて、校庭で校長先生の話を聞いてる時も比較的穏やかに聞けた。穏やかにと言うのは大げさだが、それだけ7月の終業式の日は暑くて先生の話どころでは無かった。   列に並んで話を聞いてると、周りから色々と話声が聞こえる。やれ女子の夏服からうっすらとブラジャーが透けてるだの、やれ受験勉強をしなくちゃいけなかったけど結構遊んじゃっただの、まぁどうでもいいわい。
 10分くらいの話が終わって、教室でHR。例によって吉田先生がみんなの前で熱を帯びて話をする。
 「ええ、この夏で君たちの成績はかなり上がってるかと思う。先月学校で行った模試の結果はどれもいいものが多かった。だが、ここで気を抜いてはならん。偏差値が上がったからと言ってそれで受験にすぐ臨める体制では必ずしもない。大学ごとに出る問題も微妙に違ってくる。ここで応用をつけてだな・・・。」
 僕は一宮先生のことを思い出した。先生も同じこと言ってたなぁ。
 「授業は明日からな。忘れんなよ。・・・というわけで終わりにしようか。委員長、号令!」
 また柔道部主将の号令がかかろうとしてた時、先生はあ、あと1つ忘れてたと言った。
 「えーと、田中!後で話があるから職員室に来なさい。」
 僕はまさにバッグを机に置いてすぐ帰る体制だったからびっくりした。まさか名指しとは。
 「・・・はい。」
 
 「よし、号令!」
 柔道部主将の野太い声で号令がかけられ、その場は解散となった。
 (・・・なんだろう。)
 怒られるようなことなど僕はしていない。だから別にドキドキもしてないんだが、万が一ということもある。だがその万が一が思いつかない。はて、何をしたのかな僕は。
 教室を出て同じ階にある職員室を目指す。廊下の所々で下級生が壁に寄りかかっておしゃべりをしていた。その中をてくてくと歩いていく。
 職員室の前で止まった。入り口のドアの窓から先生たちが何やらいろいろと作業をしてるのが分かる。宿題の添削だったり、他には・・・分かんないや。僕は扉のノブに手をかけたが、僕は離した。やっぱり、こうゆうところは緊張する。さっきはそうでもなかったのだが。怒られるようなことはしてないが、やはりこう大人がいっぱいいる空間はなんとなく威圧感がある。
 僕は呼吸を整えて、扉をノックした。
 「失礼します。」
 扉を開けると、入り口の周りの先生が僕を見た。僕はひっ、と後ずさりそうになったが、僕は吉田先生の姿を探した。書類で埋め尽くされてるデスクを眺めてみると、一番奥の方にいた。僕は、先生たちの中を歩いて行った。
 「先生。」
 先生は書類を作成していた。僕に気づくとおお、そうだそうだと言って話始めた。
 「お前專教大学志望だったよな?」

 「はい。そうですけど。」

 「実は、今年になって初めて推薦入試の枠に專教大が入ってな。しかも、お前が希望してた法学部だ。・・・どうだ推薦入試、受けてみないか?」
 僕が突然のことでポカンとしてると先生はまぁ今日すぐに決めろというわけじゃないが、と付け足した。
 「この学校の推薦枠に入ってる大学の数は少ない。その枠の中に自分の希望する大学や学部が無いからほとんどの奴は一般受験なんだが、お前の場合大学も学部もどんぴしゃ。しかも学年内の成績もお前は結構良いし、確実に取れる。こんなうまい話は無いぞ。」

 「・・・。」


 「あら、本当?良かったじゃない。」
 推薦の話が来てから3日後の土曜日、塾が終わって先生に推薦の話をした。先生は本当に驚きと喜びが混じったような顔をして言った。
 「ご家族には話したの?」
 
 「はい。一応話したら喜んで受けなさいって言ってたんですけど・・・。」
 
 「けど・・・?」
 僕はため息をついて鞄を下から取り出して宿題のプリントやノートを入れた。
 「推薦って大抵、面接や小論文で合否を判定するじゃないですか。なんか今までやった勉強がすべて無駄になるような気がして。」
 先生はうーん、と唸った。でもね、と僕に言った。 
 「こうゆうこと私が言うのもあれだけど、受験勉強がすべてじゃないよ。大学でどうするかってことが重要なわけ。担任の先生も勧めてくださってるんだから、受けてみる価値はあると思うわ。」
 
 「・・・ふむ。」 

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