小説『先生は女子大生』
作者:相模 夜叉丸()

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地球に巨大隕石が落っこちてくるのが判明したくらい驚いた一宮先生との出会いから、早くも30分。僕の横で先生は頬杖をつきながら僕が解いている問題集に目を落として見ていた。先生の視線が回答を書きこむノートと僕の手に集中していた。一瞬でも変な行動をしてはいけないという強迫観念に見舞われた。ずっと見られているという感覚が僕を緊張させるからだ。
 どんな表情をしてるんだろうと僕は横目で恐る恐る一宮先生を見た。上品に白い肌をした顔の額に前髪がかかり、そこから覗く二つの大きくてパッチリした瞳が真剣な眼差しを向けている。口を真一文字に閉じられていた。
 (見られてる・・・。)
 これを意識せずにはいられない。僕はなんとなく問題ではなく先生の視線に意識がいってしまい、英文法の知識が頭の中からあまり引き出せれなくなってしまった。とりあえず終わらせなければいけないので知ってる限りの回答を空欄に適当に入れ込んでいった。
 問題を四角3番のカッコ2番まで解き終わった。なんとか終わった。
 「・・・よしっ。じゃ、答え合わせしよっか。」
 解き終わったのを見計らって先生が赤ペンを自分の筆箱から取り出した。どうやら先生が直々に丸付けをしてくださるらしい。僕は黙って、ノートを差し出した。
 その後の数十分の間にも緊張の中、また問題を解いてまた答えあわせをした。先生が丸付けし、ペケがついたところを解説。流れはそんな感じだった。
 最後の問題を先生が解説し終え、それから数秒した後にチャイムが鳴り、ちょうど区切りがいいねと先生が言った。長いと思われた時間がようやく終わった。
 「今日やったところの復習として・・・この二枚を来週までの宿題にします。」
 B5の紙を二枚渡された。先ほどやってた問題集の白黒コピーだった。若干だが下の部分が薄くなってた。
 「お疲れ様でした・・・・今日は初めてだったけど、これからも授業のペースはこんな感じでいいかな?」
 「はっ、はい・・・ええ。大丈夫です。はい・・・。」
 僕はノートとプリントをしまいながらオドオドした声音で先生に答えた。手も震えてプリントがくしゃくしゃになりかけた。なんとも情けないことだと思う、自分のことだけど。
 僕はよろよろ席を立って先生にありがとうございましたと言って一礼し、。先生も気をつけて帰ってねと返した。
 僕は通路を歩こうと振り返りかけたときだ。
 「田中君。」
 先生の声が僕を呼び止めた。ゆっくりとまた先生の方に体を翻した。先生が仕切り越しに僕に視線を合わす。
 「来週なんだけど、もしあれば最近受けた模試の結果持ってきてもらえる?」
 「はい・・・・。」
 ああ、学力診断されちゃう、そんなことを思いながら力無い返事をした。
 「ごめんね、呼び止めて。」
 僕は、再び一礼をした。今度は無言で。そして、足早に教室を出た。
 その日から2日後の月曜日の学校。僕はいつも通りの時間帯に家を出ていつも通りの道を歩いて登校した。学校の校門に差し掛かったとき、後ろで声がした。
 「田中。」
 高い声が僕の足取りを止めた。木南だ。走りよってくる奴を待って、僕はまた歩き出した。玄関まで歩く道で木南は明るい声で尋ねてきた。
 「そういえば田中一昨日塾に行ったんでしょ?」
 「あー、うん。まぁ。」
 それ聞くんかい、と心の中で突っ込みながら答えた。
 「どうだった?」
 僕はまたうーんと唸った。
 「そうだな。何とか僕には合いそうな雰囲気だったよ。授業内容とか・・・。」
 そっか、と言って木南はじゃあ、と矢継ぎ早に質問をした。
 「市谷スクールだっけ?あそこは大学生が先生をしてるみたいだけど、先生はどんな人だった?」
 僕はピタッと足を止めて一言。
 「・・・・お姉さん。」
 木南はえっ、と拍子抜けしたような声を出した。僕はポケットに手を突っ込み、青く広がる空を見上げてしみじみと奴に返事を返した。
 「女子大生の、お姉さんだったよ。」

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