「お主は死んだのじゃ」
意味不明、とはまさにこのこと。
今日、俺はコンビニ強盗をぶちのめし、ひったくり犯をとっちめ、居眠り運転中の大トラから家族連れを助けて、代わりにトラックの熱いキスをくらって死んだはずだ。
そのはずなのに、気づいたら、白い部屋に、お髭たっぷりのサンタクロースホワイトバージョン(服装はローブ)とマンツーマンで座っていた。
「……はぁ?」
とりあえず相槌を返す。
ここには俺しかいない以上、お主とは俺で間違いないだろう。
「ところで、ここはどこですか?それから、あなたは……」
訳わかめ連発な状況を打破すべく、目の前の老人に苦手な敬語で聞いてみる。
何で敬語かって?
(多分)年上なんだから当然でしょ。
俺の質問に、老人は、威厳のこもった、どこか人間離れした神秘的な声色で答えてくれる。
「ふむ、まず儂はお主等が神と呼ぶものじゃな。そしてここは――――……何をしておる?」
「祈りですけど?」
神、と聞いた俺は、座っていた簡素な椅子から降り、両膝をついた体勢になっていた。
「いえ、神様は祈ったり祀ったりするものなんじゃ?」
俺が、怪訝な調子でそう尋ね返すと、
「ふぉっふぉっふぉぉ」
「は?」
突然神様は――やはり威厳を醸し出しながら――、笑い出した。
「まさか、そんなことをされるとは思わなんだ。普通は疑うのではないか?」
「いえ、あなたは呼吸や瞬きをしてませんし、気配もなんか神秘的だったので本物だと思ったんですが……」
まさか違ったのか?と内心不安になっていると、神様は俺の考えを読んだのか、その疑問に答えてくれる。
「いいや、正真正銘、神であっておるよ。普通はそこまで気づかんと思うのじゃがな」
「自分、鍛えてますから」
シュ!という感じに指を振って言う。
っと、そういえば――――
「あの、それでここは?」
「おお、忘れておったな」
神様でも忘れることがあるんだな、となんとなく新鮮に感じていると、神様は「歳はとりたくないのぉ……」と言った後、
「ここは死後の世界、そういえば分かるかの?」
あぁ、そういや死んだんだっけ?こっちも忘れてたな。
けど、何でわざわざ神様が?
「死んだのに軽いのぉ……。お主を呼んだのは、褒美を与える為じゃ」
「褒美……?」
よくわからん。
「お主が生前積んだ善行に見合う褒美じゃよ」
生前積んだ善行……アレのこととかアレのこととかアレのことかア(ry?
「思い当たる節はあるようじゃな。何々……」
神様は黙り込んだ俺をみた後、何時の間にか手に持っていた、時代がかかった紙に目を落とす。
「コンビニ強盗十回、銀行強盗八回、事故を防ぐ二十七回、ハイジャック一回、バスジャック三回……ふむ、キリがないの」
「あの……それは?」
一縷の望みをかけ、恐る恐る聞いてみる。が――――
「お主が遭遇、解決しだ事件のリストじゃよ」
――――Oh……
確かに、街を歩けばなんかに巻き込まれたが……リアルな数字聞くと泣きたくなる。
「そう気を落とすでない。逆に言えばそれだけの数だけ人に感謝されておるのじゃぞ?」
「はい……」
「――――さて、そろそろ本題に移る」
神様の言葉に、何とかテンションを立て直したところで、再度脱線した話題を戻す。
「お主に与える褒美は新たな生じゃ」
「……生き返らせる、と?」
「いいや、転生じゃよ」
何が違うんだ?
ていうかいいのか?俺死んだのに。
「気にするでない。お主はそれだけのぶんの善行を積んでおる。どれ、何か願いはないかの?三つまでなら叶えられるぞ」
「……じゃあ、お願いします。まず、それなりの、中の上位の運を下さい」
まず一つ目。これはガチだ。生前はロクなことなかったしな。“超”凶意外のおみくじを見たことないし。
「よいぞ。さて、後二つじゃ」
「じゃあ、健康な身体で」
「……欲がないのぉ、最後の一つは?」
「――――そうだ!!」
迷っていると、俺は、突然叫び、立ち上がる。
神様が驚いているが、今はそのことさえ気にならない。
「魔法とか、妖怪とかがいる世界に行きたい!!」
「ふむ、何故じゃ?」
「修行したい!!馬鹿みたいな!!んでもって強くなりたい!!」
つい敬語が抜けてしまう。
修行したい、それは俺のずっと昔に諦めたはずの夢だった。だが、今俺にはそのチャンスがある!
「修行、の。強くなりたいならば、望む能力を与えるぞ?」
「そんなのいらない。そんなイカサマで得た力なんてろくなもんじゃない」
例えば、ウルトラマンの力が手にはいるとして、それを得たからといってそいつはウルトラマンだろうか?否、断じて否!
つまりはそういうことだ。
はいどうぞ、で力を手に入れたところで何になる?そんなものはそいつの力じゃない。
「ふぉっふぉっふぉ、面白いの、お主は。よいぞ、お主にはとある創作物の世界に転生してもらう。第二の生、全力で生きよ!」
そう言うと、神様はまたもや何時の間にか出した杖をかざす。
瞬間、俺の体が光りに包まれて、意識が遠のいていく。
って早すぎ!せめて、これだけは……!
「神様、ありがとうございました!」
そして、俺の意識は消えた。
「ありがとう、か。つくづく面白いの、あ奴は」