小説『東方修業録』
作者:ドスコイMX()

しおりをはさむ/はずす ここまでで読み終える << 前のページへ 次のページへ >>

転生してはや五年、今俺は――――

「ぬあぁぁぁぁぁ!?」

回り続けていた。
今やっている修行は、おおとりゲンこと、ウルトラマンレオが地球で最初に身につけた技、“きりもみキック”の修行だ。
太い木の枝に棒をぶら下げ、スピンんする。一見楽そうに見えるが、これ、かなりキツい。
キックに繋げるために、フォームを保ったまま回らなくてはならない。
おおとりゲン、ひいてはこれをノースタントでやった真夏竜氏の凄さを、俺は今、その身で味わっていた。
俺は前世では大の特撮好きだった。
中でも、ウルトラマンレオは、確実にトップクラスにはいる。
今では出来ないような特訓シーンや隊長――モロボシ・ダン――の厳しくも優しい言葉。
はっきり言って軟弱なイケメンが主演のドラマなんぞよりもよっぽど凄い。
特に真夏氏。今やってるきりもみキックを初めとする、とんでもない大特訓を、一切のCGなしで演じ、滝を斬る特訓ではなんと真冬にやったとか。
役者魂が印象に残っている。

「がぁっ!!」

耐えきれなくなって地面に落ちる。固い地面の感触が右半身に鈍く伝わる。
よし……三分間フォームを保てるようになった……!
後は、実際にやって岩を割る!!真っ二つに!!

「――――しゃあぁっ!!」

俺は気合いを入れ直すために、某鏡のライダーの掛け声を入れ、岩がある場所……河原に向かって行った。


俺が神様の前で意識を失い、次目覚めたときはどこぞの森の中だった。

「ん〜――――体が縮んでる?」
(起きたようじゃな)
「――!神様?」
(うむ、まず簡単な説明をさせてもらうぞい。――――まず、お主の体は十歳前後にしておる。)

なる程……手とか小さくて柔らかいわけだ。
俺が一人で納得していると、神様はレクチャーを続ける。

(そしてお主が転生した世界は、“東方”なる創作物の世界じゃ)

ふむふむ、“東宝”の世界な……ってうおい!!
確かに魔法とかある世界に行きたいとは言ったけど、“東宝”!?
黒い二足歩行トカゲとか、五色のピッチリスーツ着た五人組とかがいるのか!?

「なにそれこわい」
(?、後、お主の願いも叶えておるぞ。“中の上位の運”に“超健康で頑丈な身体”。まぁまず病気にはならんの)
「?、望んだのは“健康な身体”ですけど」
(それだけではお主の行いにとって少なすぎたからの)

はぁ……まぁ頑丈に越したことはないか。
そう考え、俺は神様に礼を言った。

「ありがとうございます」
(うむ、では強くいきるのじゃぞ)



それから、俺はまず、辺りを走ったり、木に登ったりしてみた。まずはこのちっこい身体になれなきゃならないと思ったからだ。
しばらく体を動かした後、食料の山菜を採り、日が暮れたところで、俺は自分の名前を考え始めた。
せっかく転生し、異世界に来たのだから、心機一転、ということだ。
暫く考えた結果、俺は自分に“キサラギ”という名前をつけた。理由は簡単。今が二月だから。
なかなか決まらなくて、空を仰いだとき、――いっそ季節でいいか?――
と思い、星の位置や角度から現在の季節を推測。
生まれた(転生した)日を名前にする。なかなかどうして縁起がいいと思ったのも理由の一つだ。
まぁ“師走”とかなら遠慮したかもしれないが。
ともあれ、俺は次の日から体を鍛え、狩りをし、五年間生き延び――――――





「エイヤーッ!!」

――――今に至る。
足を閉じ、回転しながら重力に任せて落下し、遠心力を乗せた一撃を岩に繰り出す!!
俺の足は岩に当たり、拳ほどの欠片を一つ生産した。

「くそっ!!」

思わず喜びそうになるのを、ダン隊長の言葉を思い出して、舌打ちに変える。

――それは岩を割ったのではない!削ったに過ぎん!――

まさに今の俺と同じ用な状況にいたおおとりゲンに言った台詞。
その過酷さを、俺は今身を持って知る。だが、この厳しい叱咤があったからこそ、ゲン、そしてレオはきりもみキックを拾得したのだと思う。
だから、俺もその厳しさを借り、自分を叱咤激励しながら、

「ハァッ!!」



「エイヤ―ァァァァ!!」

再び修行に打ち込んだ。

-2-
<< 前のページへ 次のページへ >> ここまでで読み終える




東方三月精 Oriental Sacred Place (3) (単行本コミックス)
新品 \1575
中古 \820
(参考価格:\1575)