小説『虹の向こう』
作者:香那()

しおりをはさむ/はずす ここまでで読み終える << 前のページへ 次のページへ >>

ある日、いつものように博久くんと出張から戻ってきた雅巳くんが言った。

「おんちゃんやけど、なんか指が動かんなったって言うがよ」
「全部が?大丈夫なが?」
「全部じゃないし、大丈夫と思うがやけど。昨日の夜も飲んだし。今朝起きたら、動かんなっちょったって」
「それ、病院行ったほうがえいと思う」
「うん。本人も行くとは言よった」

心配していたら報告が入った。

「リウマチやと」
「え?で、治るが?」
「なんか薬がどうとか言よったけんど」

全く当てにならないので、ゆうちゃんに聞いてみた。

「うん、リウマチ。でも薬をちゃんと飲んだらえいみたいなき、心配はいらんって」
「良かった。雅巳くん、あんまり何も言わんき」
「あの旦那が男のことを喋ると思う?女に関しては別やけど(笑)」
「はあ。そうよねえ」

雅巳くんは女癖がたいそう悪かったが、知っていて結婚したのだからしょうがなかった。

まあ、妻の欲目で見ても男前ではあったし。

その頃の私達は、すっかり下火となったバーチャに別れを告げ、スパイクアウトというゲームにのめりこんでいた。四台の筐体がリンクしていてチームプレイが出来るのがウリだった。

ちょうど四人だし、各々キャラもかぶらず遊んでいた。

そのゲームは南国セガにしかなくて、私達夫婦は喧嘩していても、ゆうちゃんの連絡次第では行っていた。

アホ夫婦としかいいようがない。

ゲーセンが閉店になると、車に乗り込み、四人で技とか敵のタイミングなどを語り合った。

今、思っても楽しい時間だった。

金曜と土曜は、たいてい帰りはゆうちゃんを私たちが送っていった。

かなり遅くなったりしたが、そこは若さゆえか。三人でわいわい騒いでいた。

博久くんは家が南国だったから、遠くなるし遅くなるし。

何よりお目つめ役の私がいたから、安心はしていたらしいし、後で聞くと寝ていたわけではなく、某世界中のプレイヤーが集まるオンラインゲームをやっていた。

博久くんらしい。

薬をちゃんと飲んでいたのか、リウマチもたまに発作的に痛くなるらしいが、ほとんど普通の生活が送れていた。

私が心配していたのは、二人がもし結婚したとしたら、一時的にとはいえ、薬をやめないと子供が作れないということで、ゆうちゃんに話すと、そんなん、まだまだ先だよと笑っていた。

実際仲の良かった二人だった。やっぱり博久くんが大人だからだろうか。

つめの垢でも煎じて雅巳くんに飲ませたいくらいだった。

いつだったか、ゆうちゃんと博久くんは電話で大喧嘩をしたらしい。

「今から、おまんを殴りにいくき、覚悟しちょけ!」
「いつでもかかってきい!」

となり、電話を切ったゆうちゃんは、習っていたことのある空手で鏡の前で確認していたらしく、本気で戦うつもりだったらしい。

いざ、呼び鈴がなり、部屋から飛び出して、「かかってこい!」と言おうとしたら、博久くんは、そんなことは忘れたかのように「ゆうちゃんv」となっていたとか。

実際に、博久くんはゆうちゃんに首っ丈だった。

-17-
Copyright ©香那 All Rights Reserved 
<< 前のページへ 次のページへ >> ここまでで読み終える