小説『虹の向こう』
作者:香那()

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私の頭を”まさか”がよぎる。

そんなハズない!絶対治るよ。博久くんが退院出来ないなんてあり得ないよ。

また、四人で遊ぶんだもん。

でも、少しずつ、確実に病魔は博久くんの体を蝕んでいた。

大部屋から中部屋、そして二人部屋になっていった。

私は、ネガティブだから、どうしても悪い方向に考える。

そうだ!ゆうちゃんに、聞いてみよう。

ゆうちゃんに「何、言ってんの!」と言われたら、それでお終い。

だたの、私の気苦労だ。

そう思った。

でも、なんて言い出せばいいのか分からないままだった。

そして、お見舞いに行くよとゆうちゃんにメールしたら、”今、病院にいるから着いたら連絡して。部屋が変わったから”。

またか…。

そして、私は意を決した。

今日こそゆうちゃんに聞いてみよう。事の真実を。

ゆうちゃんは、嘘はつけない人だ。

自分から大事な隠し事を喋ったりしないけれど、聞かれて図星だと”違うよ”と言えない人だ。

医大に着いた私達夫婦は、ゆうちゃんに連絡を取って、廊下で待ち合わせた。

「よう来てくれたね〜」
「なんちゃあじゃない。暇しよったし」
「うん、博久くんはどう?」
「まあまあ、かな」

なんとなく、ゆうちゃんの歯切れが悪い。

どうしたんだろうと思いながら歩き出して、エレベーターに向かった。

雅巳くんがエレベーターのボタンを押しに行った時、私は言葉を発した。

「ゆうちゃん…まさかって思うけど、博久くん、ガンじゃないよね?」

ゆうちゃんは本当にかすかに、一瞬止まって私の顔を見て

「そんなの、本人に聞きや」

笑顔でそう言った。でも、目は笑ってなかった。

「聞けるわけないやん。そんなこと」
「じゃあ、あたしも言えん」

珍しく強気に言い放った。

私は呆然とした。不安など、全てのものが、確信に変わった瞬間だった。

博久くんは、ガンだ。

それも、助かる見込みは…。

今までの経過を思い返した。

その日、家に戻るまで何を話したか覚えていない。

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