小説『虹の向こう』
作者:香那()

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いつものように、PHSに電話がかかった。

「もしもし?」
「香那ちゃん。久ちゃんやけど、お見舞いはしばらく無理になったって、教えちょこうと思うて」

心臓がバクンと音をたてた。

「どうして?なんかあった?」
「うん。あのね、まだ国内承認されていない薬を使ったんよ。もちろん、それは了解の上で。
 医大やき、出来るみたいな感じなんやけど」
「博久くんはモルモットじゃないよ」
「そうやけど、お母さんらあにしたら、一縷の望みやったがって。もしかしたらって。でもね。
 全然良くなるどころか悪化する一方で、今は面会謝絶なが」
「…悪くなってどうするがよ」
「今やきゆうけど、今ももちろん悪いがやけど、危篤になっちょったが…ごめんね。黙ってて」
「そんなことはかまんよ。で、博久くんは回復は望めるが?」
「うん、今は薬をもう止めたき、少しずつマシにはなってきたんやけどね」

私は医大に腹がたった。自分たちのオペミスのくせして!

今度は未承認の薬頼み?ふざけんな!

「それでね、ちょっとあたしも辛くて、電話したがよ」
「そんなん、気にせんでえいっていっつも言うろ?」
「香那ちゃんは、いっつも人に優しいね」
「…普通と思うけど?」
「いや、優しいがよ。…聞いてくれる?」
「うん、いいよ」

その話は、その未承認の薬を試してからのことだった。

上手く効けば回復の望みはあること。

だけど、その薬を他の人も試していたけど、明らかに様子がおかしくなっているのが分かったこと。

訳のわからないことばかり、うめいて苦しんでいること。

誰が誰かの判断もつかない状態に陥り、危篤になったこと。

その時に、心配して駆けつけたゆうちゃんに、博久くんのお母さんが昔話をしたこと。

もうだめだと諦めて。

「そっか…」
「あたしも何て言うてえいもんか、答えにつまって」
「そりゃ、あたしでも言えんよ。大丈夫ですとかそんなこと。せいぜい、相槌だけや」
「あたしも結局そうやったがって」
「でも、今は面会謝絶とは言っても、少しずつ落ち着いてきゆうがやったら、大丈夫よえ!」
「うん。で、お母さんらあも、もう未承認の薬は一切やめるって。苦しい思いをさせるだけやき」
「…そう。でも、それがご両親の決断なら仕方ないね」
「また、落ち着いたら、来てくれる?」
「もちろん!行くに決まっちゅうろう」
「ありがとう」

ゆうちゃんのしんどそうな声が心配だった。

よほどだったのだろう。

この事がのちに、ある事に響くことになる。

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