小説『虹の向こう』
作者:香那()

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しばらくして、ゆうちゃんからの怒りの電話がかかってきた。

「香那ちゃん!聞いてくれる。あたしゃもう、医大が信じれん。元々信じてなかったけど」
「何があったが?」
「それがね、関東の方に、久ちゃんみたいな難しい症例でもオペが可能かもしれん先生がおるがやと。
 そこまではえいわ。その後よ。医大はね、救急車を回すどころか、自分で飛行機に乗って、自分でタクシー なりなんなりをつかまえて、その病院へ行けって言うがで!!」
「はあ?なにそれ?元はと言えば自分らあのミスじゃん。飛行機はともかく、そこに救急車の一台回せんが  かえ」
「そうやろ?こないだ、未承認の薬を覚悟の上とはいえ、試して久ちゃん体力無くなってしもうちゅうや   ん。だから、病院に着くまでも、体力があるかどうか保障できんって言うがで!」
「何それ?保障できんもんをどうやって、病院に連れてけって言うがよ。何かえ?途中で死んでも仕方ないっ て言いたいわけ?」
「そうよえ!」

私はどんどん怒りの沸点がわいてきたが、ゆうちゃんの支えにならなければ。

そう思った途端、激怒に変わる言葉が出てきた。

「挙句、久ちゃんに、何ていうたと思う?医大のお偉い先生は?」
「想像がもうついていかん」
「”やぶ医者ばっかりでごめんね”やと!患者をなんと思うちゅうが?モルモットじゃないがやきね!」
「はあ?そんなことを本人に言うたが?」
「そうよえ。ご両親ならまだしも、本人に」
「信じられん。何を考えちゅうが?医大は」

ゆうちゃんは一息つくと、淋しそうな声で呟いた。

「さすがに、久ちゃんも堪えたらしゅうてね。あんまり喋らんなったんよ…」

そんな言葉を医師に立て続けに言われて、平気な人間がいるだろうか?

「一応、関東でって話が少し、進みよっただけにね」

私は完全に言葉を失ってしまった。

そんな、馬鹿な話があるもんか!

医者の倫理観や道徳観はどうなっているのだろう。

「ごめんよ、香那ちゃん。怒りぶつけて。どこへ誰に言うてえいもんか…」
「気にしなや。私も怒っちゅうき」
「まあ、なるべく久ちゃんには明るく振舞おうと思うちゅう」
「うん、分かった。私達もいける日があったら、先にゆうちゃんに連絡するき」

そして、電話を切った。

私はこれまで感じたことのない怒りを感じ、何の罪もないぬいぐるみを手に取り、壁に投げつけまくった。

本当に最後の糸が切れたんだ。

私は、ぬいぐるみに謝りながら、集めた。

目からは、涙がどんどんあふれ落ちていった。

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