小説『虹の向こう』
作者:香那()

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ゆうちゃんから少し落ち着いてきたとの連絡を受け、夫婦で見舞いに行ってみた。

相変わらず顔色が悪いけど、「やあ」と迎えてくれる。

私達は無理はしないでいいからと、横になったままの博久くんとしばらく談笑した。

どうでもいいような会話しか出来なかったけれど、精一杯だった。

「また来るね」
「うん、待ちよるき」

博久くんは二人部屋になったあたりで病院にノートパソコンを持ち込んで、何のプログラムかは知らなかったけれど、ホームページを持っていて、日本語化パッチをメインに運営していた。

時間だけはあるし、頭はめちゃくちゃいいので、そういうのをしていると気も紛れるんだろう。

相変わらず、見送りしてくれるゆうちゃんが、こっそりと転院するかも…と教えてくれた。

もう、医大に求めることは何もないのもあって、先生の一人が別な病院へ行く事になっており、それに一緒にいかないかという話だった。

「博久くんはどう思ってるん?」
「うん、前向きに検討しているみたい」
「そっか」

なら、私たちが口を挟むことではない。

黙って成り行きを見守るだけだ。

そして、博久くんの転院が決定した。

K病院という所で、博久くんが入るのは、緩和ケア病棟。所謂ホスピスだった。

ホスピスは末期がん患者を受け入れ、積極的な治療は一切せず、患者さんにいかに、残り少ない人生を心穏やかに過ごしてもらうかの為のところだ。

もちろん、全室個室。畳の部屋もあるらしい。

個人らしくをモットーにしている病院だった。

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