私はどんどん、医大に対する怒りが再燃してきていた。
そもそもこんなことになったのも。
私はゆうちゃんに、言ってみた。
「ねえ、どう考えても医大の医療ミスやん?なんで訴えんの?」
「お父さんもお母さんもそれはしないって、言ってた」
「ええの?そんなんで?子供が治るはずだった病気でこんなところで」
「…あのね、香那ちゃん。これ、ひさちゃんの前でも絶対に言わんとって。
医大を訴えたりしないって、決めているのはひさちゃんなが」
私は愕然とした。普通、言いあげるだろう。
「あたしにも、よくわからんとこがあるがやけんど、医療ミスでっていうのが、なんか許せんらしいんよ。
治るはずやったのにとか、そういうのって、考えたくないらしいが。言うても治るわけじゃないやん」
確かにそうだけど。
「ここに連れてきた先生って、医大の人って知っちゅうろう?なんか見かねてらしいがやけんどね。
あと、こうなってしまったことも」
「ひさちゃんなりに、受け入れようって思うちゅうがやと思うんよ」
「香那ちゃんは正義感が強いき、許せんとかって思うちゅうのもよく分かる。ホントはあたしだって言いた い。でも、ひさちゃんが望んでいない以上は、黙っておく」
「…そっか…博久くん…」
いろいろ葛藤があっただろう。
理不尽だと思ったこともあっただろう。
これから先のゆうちゃんとの人生も考えていただろう。
だけど、それを言ったところでどうしようもないことも分かっている。
考えに考えて、博久くんが答えを出して、家族が受け止め、ゆうちゃんも受け止めている。
ならば、私も受け入れなければならない。
「分かった。この事に関してはもう、何も言わない」
「ありがとう」
宣言どおり、私はこの件に関しては、それ以来、何も語ることはなかった。