小説『虹の向こう』
作者:香那()

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私達夫婦はすぐに離婚になったわけではなく、いろいろあって私がマンションから出て別居していた。

その間は、博久くんのお見舞いはゆうちゃんに連れて行ってもらった。

今、考えると、交通機関を使ってもちょっと時間はかかるが、簡単に行けたのだが、あの頃は遠いなあと思っていた。人間って不思議なものだ。

その頃からだっただろうか?

目に見えて、博久くんがむくみだしたのは。

最初は、あれ?横になってばかりだから、太ったかな?と思ったのだけれど、たまに見るたび、大きくなっていた。

でもまさか、口に出してそれをいうわけにはいくまいと思い、結局誰にも喋らずじまいだった。

自分の今後がないことへの怒りとか、そういうのもあったのだろう。

昔からたまに毒舌な時があったが、それを通り越して、私もゆうちゃんも思わず、だんまりになることもあった。

別に私たちを非難していたわけではなかったが…。

心のうちを思えば、言いたくもなるだろうと思った。

口に出してしまってそれで、楽になれるのならば、いくらでも言ってくれてよかった。

私達はそれで、傷つくわけでなし、少し重い空気を二人で払えばよかったのだから。

すでに、博久くんは入浴介助も出来ずになっていて、清拭だけになっていた。

体力を使ってしまうからだ。

でも、「かわいい子にしてもらうと嬉しいで。気持ち良いし」などと言ったりしていたが、本心はどうだったのだろう。

もう車椅子に乗って、タバコを吸うこともなかった。

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