リビングを通り抜けてキッチンに行き、ガス台の上に置いてある鍋のふたを開けた。
香辛料の効いた、カレー独特のにおいが辺りに充満する。
「あ、やっぱカレー?」
「みたいだな。皿の準備とかしといてくれ。僕が温めておくから」
稔弘は二カッと笑って「りょうかい」と言うとウキウキとした様子で皿やスプーンの準備を始めた。
僕はカレーをゆっくりとかき混ぜながら温める。
カレーは嫌いだ。
これを言うとみんな驚く。
食べられないのでなく、嫌いだ。
あれば食べるし、食べる時は食べたいだけ食べる。でも、嫌いだ。だって、思い出しそうになるんだ。
僕の、母さんのことを・・・・・・。
「兄ちゃん、ちゃんとかき混ぜないと!」
「えっ、あ、悪い」
ぼーっとしてた。鍋の中のカレーがぐつぐつと音をたてていた。
慌ててカレーをかき混ぜる。
準備の早いことで、僕の隣で稔弘がカレーの皿にご飯をのせてスタンバイしていた。
鍋の火を消して、稔弘から皿を受け取り、それにカレーを流し込む。
もう一つの皿にも同様にカレーをのせると、それらを持ってリビングのテーブルにつき、二人で手を合わせて「いただきます」と言うと、スプーンでそれをすくい食べ始めた。