小説『日常の中の非日常 2』
作者:つばさ()

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カレーをたらふく食べて、皿を綺麗に片付けた。


稔弘は眠そうに自分の部屋に帰っていったから、きっともう寝てるだろう。



僕はというと、さっき昼寝をしすぎたようで、全然眠くない。

さて、どうしようかな。


ふと、視界の隅にパソコンがよぎる。


そして思い出されるのは、カバンの中に入ったままになっている進路希望調査の紙。


あの紙を書いたら、もうきっと戻れない。

父さんの言う通りの学校と学科を書けば、僕はもう戻れない。


だから、きっともう書けなくなる。

小説を。



どうしよう。いや、どうすればいい?



母さんが死んだあの日、父さんは僕に言った。


『お前たちだけは、俺と共に歩んでくれ・・・・・・!』


父さんは懇願していた。


まだ小学校にあがったばかりの僕と、生まれてまだ一年しか経っていないような稔弘に。




父さんのことは嫌いじゃないんだ。




いや、嫌いになれないんだ。






だって、僕の父さんだから。


稔弘の父さんだから。


母さんが愛した人だから。


あの人はなにも悪くないから。





父さんが僕に色々言うのは、僕がはっきりしないからだ。



もうすぐ高校3年になる僕が、小説ばかり書いているにもかかわらず、それを職業にする気がないと思っているから。


僕の将来を心配してくれているんだ。





僕の、父さんとして。





「・・・・・・はっきりしないと、きっとなにも進まない」




僕がはっきりしないと。



やりたいことがなんなのか、なりたいモノがなんなのか。



夢を追いかけたいのかどうか。






追いかけたいと素直に言えば、もしかしたら父さんは許してくれるかもしれない。でも、言えない。あの日の父さんの言葉が突き刺さる。





『俺と共に歩んでくれ・・・・・・!』




だから、僕は追いかけられない。


こうやって、僕はいつも流されて生きていくんだ。





状況に、人に、一時の感情に。





「・・・・・・やっぱり、今日はセンチメンタルになってる・・・・・・」




そう呟いて顔を手で覆う。






馬鹿みたいだって思う。考えているだけじゃ何も始まらない。



明日のことを、昨日のことを、未来のことを、過去のことを考えながら。それでもなお歩き続ける。




それが、全てなのに。






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