カレーをたらふく食べて、皿を綺麗に片付けた。
稔弘は眠そうに自分の部屋に帰っていったから、きっともう寝てるだろう。
僕はというと、さっき昼寝をしすぎたようで、全然眠くない。
さて、どうしようかな。
ふと、視界の隅にパソコンがよぎる。
そして思い出されるのは、カバンの中に入ったままになっている進路希望調査の紙。
あの紙を書いたら、もうきっと戻れない。
父さんの言う通りの学校と学科を書けば、僕はもう戻れない。
だから、きっともう書けなくなる。
小説を。
どうしよう。いや、どうすればいい?
母さんが死んだあの日、父さんは僕に言った。
『お前たちだけは、俺と共に歩んでくれ・・・・・・!』
父さんは懇願していた。
まだ小学校にあがったばかりの僕と、生まれてまだ一年しか経っていないような稔弘に。
父さんのことは嫌いじゃないんだ。
いや、嫌いになれないんだ。
だって、僕の父さんだから。
稔弘の父さんだから。
母さんが愛した人だから。
あの人はなにも悪くないから。
父さんが僕に色々言うのは、僕がはっきりしないからだ。
もうすぐ高校3年になる僕が、小説ばかり書いているにもかかわらず、それを職業にする気がないと思っているから。
僕の将来を心配してくれているんだ。
僕の、父さんとして。
「・・・・・・はっきりしないと、きっとなにも進まない」
僕がはっきりしないと。
やりたいことがなんなのか、なりたいモノがなんなのか。
夢を追いかけたいのかどうか。
追いかけたいと素直に言えば、もしかしたら父さんは許してくれるかもしれない。でも、言えない。あの日の父さんの言葉が突き刺さる。
『俺と共に歩んでくれ・・・・・・!』
だから、僕は追いかけられない。
こうやって、僕はいつも流されて生きていくんだ。
状況に、人に、一時の感情に。
「・・・・・・やっぱり、今日はセンチメンタルになってる・・・・・・」
そう呟いて顔を手で覆う。
馬鹿みたいだって思う。考えているだけじゃ何も始まらない。
明日のことを、昨日のことを、未来のことを、過去のことを考えながら。それでもなお歩き続ける。
それが、全てなのに。