目を開けたら、そこには太陽の光で溢れる世界があった。
いつの間にか寝てしまっていたんだ。
まだ寝たいと訴える体を無理矢理起こし、制服に着替えた。
そのあとリビングに行くと、もうそこには朝ごはんが用意してあった。椅子に座って、リモコンでテレビをつけると、天気予報がやっていた。
特に見たい番組があるわけでもないから、そのまま朝ごはんを食べ始める。
『今日は午後から全国的に大雨の予報で、気温もほとんど変わらないので、肌寒い一日となりそうです――・・・・・・』
今日は雨か。
今は結構晴れてるのに、これから雨になるのか。
雨は嫌いだ。
昔は好きだった。子供の頃は、純粋に。
新しい長靴や、レインコートを買ってもらう度に、雨の日が楽しみで仕方がなくて。
でも、今は嫌いだ。
雨は、僕から色々な物を奪っていく。
それとも、僕がなにか失う度に空が泣くのか。それは分からない。分かるわけがない。
僕は、こんなにもちっぽけだ。
「兄ちゃん、おはよう」
「ああ、おはよう、稔弘」
黒いボロボロのランドセルを椅子の背もたれにかけながら、稔弘は笑った。
「あははっ兄ちゃん、口のところにご飯粒ついてる!」
「えっ!」
慌てて口のあたりを触ると、たしかにそこにはご飯粒がついていた。たとえ見られたのが弟といえども、さすがに恥ずかしい。
「珍しいな、兄ちゃんがご飯粒口につけてるなんて」
「うるさい。さっさと食べないと、学校遅れるぞ」
「わかってるよ」
そう言いながら味噌汁を喉に流し込む。
あ、そうだ。
「今日雨降るらしいから、傘持っていけよ」
「分かった。そうだ、兄ちゃん」
「なんだ?」
神妙な面持ちで僕を真っ直ぐ見つめる稔弘。僕もつられて真剣な顔になり、箸を置いた。
「最近、なんか悩んでるだろ?」
「え・・・・・・」
まさか、僕が進路のことで悩んでいるのを、稔弘は感じ取ったのか?
こいつの前では、できるだけいつも通り過ごしていたのに。
「おれ、兄ちゃんの小説好きだよ。なんか温かくてさ。最近、グロい小説とかが多い中で、なんか異質で。おれはそれが好きなんだ」
「・・・・・・」
「兄ちゃんが、今やりたいことをすればいいと思うんだ。そのしわ寄せがいつか来るとしてもさ、やっぱ、今がなにより大事だって思う」
その考え方は、まだまだ子供な証だ。でも、ぼくよりも、ずっとずっと大人だった。
「・・・・・・うん、ありがとうな、稔弘」
「小学生にこんなこと言わせんなよ、兄ちゃん」
まったくだ。
こいつはまだ小学生なのに。
情けないよ、本当に。
もっと、しっかりしないといけない。誰かに気付いてもらうんじゃなく、自分から気付かないとダメだ。
大人に、ならないといけない。
「それじゃ、いってきます!」
「ああ、いってらっしゃい」
玄関で稔弘を見送ってから、僕も家を出た。
空はだんだん曇り始めていた。でも、なぜかそれがうっとうしく感じない。
弟の、たった一言でこんなにも世界が違く見える。