小説『日常の中の非日常 2』
作者:つばさ()

しおりをはさむ/はずす ここまでで読み終える << 前のページへ 次のページへ >>



目を開けたら、そこには太陽の光で溢れる世界があった。



いつの間にか寝てしまっていたんだ。



まだ寝たいと訴える体を無理矢理起こし、制服に着替えた。


そのあとリビングに行くと、もうそこには朝ごはんが用意してあった。椅子に座って、リモコンでテレビをつけると、天気予報がやっていた。

特に見たい番組があるわけでもないから、そのまま朝ごはんを食べ始める。



『今日は午後から全国的に大雨の予報で、気温もほとんど変わらないので、肌寒い一日となりそうです――・・・・・・』



今日は雨か。

今は結構晴れてるのに、これから雨になるのか。



雨は嫌いだ。



昔は好きだった。子供の頃は、純粋に。


新しい長靴や、レインコートを買ってもらう度に、雨の日が楽しみで仕方がなくて。





でも、今は嫌いだ。




雨は、僕から色々な物を奪っていく。

それとも、僕がなにか失う度に空が泣くのか。それは分からない。分かるわけがない。



僕は、こんなにもちっぽけだ。



「兄ちゃん、おはよう」

「ああ、おはよう、稔弘」



黒いボロボロのランドセルを椅子の背もたれにかけながら、稔弘は笑った。



「あははっ兄ちゃん、口のところにご飯粒ついてる!」

「えっ!」



慌てて口のあたりを触ると、たしかにそこにはご飯粒がついていた。たとえ見られたのが弟といえども、さすがに恥ずかしい。



「珍しいな、兄ちゃんがご飯粒口につけてるなんて」

「うるさい。さっさと食べないと、学校遅れるぞ」

「わかってるよ」



そう言いながら味噌汁を喉に流し込む。



あ、そうだ。



「今日雨降るらしいから、傘持っていけよ」

「分かった。そうだ、兄ちゃん」

「なんだ?」



神妙な面持ちで僕を真っ直ぐ見つめる稔弘。僕もつられて真剣な顔になり、箸を置いた。



「最近、なんか悩んでるだろ?」

「え・・・・・・」



まさか、僕が進路のことで悩んでいるのを、稔弘は感じ取ったのか?
こいつの前では、できるだけいつも通り過ごしていたのに。



「おれ、兄ちゃんの小説好きだよ。なんか温かくてさ。最近、グロい小説とかが多い中で、なんか異質で。おれはそれが好きなんだ」


「・・・・・・」


「兄ちゃんが、今やりたいことをすればいいと思うんだ。そのしわ寄せがいつか来るとしてもさ、やっぱ、今がなにより大事だって思う」



その考え方は、まだまだ子供な証だ。でも、ぼくよりも、ずっとずっと大人だった。



「・・・・・・うん、ありがとうな、稔弘」


「小学生にこんなこと言わせんなよ、兄ちゃん」



まったくだ。


こいつはまだ小学生なのに。

情けないよ、本当に。

もっと、しっかりしないといけない。誰かに気付いてもらうんじゃなく、自分から気付かないとダメだ。



大人に、ならないといけない。



「それじゃ、いってきます!」


「ああ、いってらっしゃい」



玄関で稔弘を見送ってから、僕も家を出た。


空はだんだん曇り始めていた。でも、なぜかそれがうっとうしく感じない。



弟の、たった一言でこんなにも世界が違く見える。





-13-
Copyright ©つばさ All Rights Reserved 
<< 前のページへ 次のページへ >> ここまでで読み終える