「・・・・・・落ち着いたか、博紀」
僕は自分の部屋にいた。
このままでは本当になにかしでかすからと、父さんにこの部屋に閉じ込められた。
父さんが扉の向こうから僕に問いかける。
「・・・・・・うん、相当頭は冷えたよ」
もう『殺してやる』なんて言わない。
自分がそんなことを言ったことが信じられないくらい、僕は落ち着いている。
「そうか・・・・・・博紀、母さんが死んだときのことを覚えているか」
当たり前だ。
母さんも事故だった。
ベッドで横たわる稔弘の姿を、僕は母さんと重ねていたのかもしれない。だからこそ、あんなことを言ってしまったんだ、きっと。
「あの時も、こんな雨の日だった。朝から、母さんの作るカレーのにおいが家中に充満していたな」
そうだった。